Looter [略奪者]

ラージャ☀️

文字の大きさ
上 下
1 / 12

《黒い魔獣》退治

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ…やっと…終わったか…」

真っ暗な10m四方の石造りの小部屋で、少年は仰向けに寝転がり、息を整えていた。

傍らにはブロック状の肉片になった魔物が転がっている。
先程まで少年を引っ掻き、噛みつき、何度も壁や床に叩きつけ、傷だらけにしていた強敵が。

「はぁ…はぁ…ううっ…いててて…」

身につけている皮鎧は、あちこちが破れ欠損している。歯型が残る左腕のソードストッパーは芯だけが残っている状態だ。動きを妨げるばかりでもう役には立たないだろう。

「何とか、生き残れた…あーあ、酷い有様だな…ん?」

戦いの喧騒がやんだ小部屋にくぐもった唸り声がする。魔物の残骸の辺りからだ。ぼんやりとした紅い光をバックに小さい影がうずくまっているのが判る。小部屋に一緒に閉じ込められた黒豹の仔だ。

「お前無事だったのか。今まで何処に隠れてたんだ?」

当然だが黒豹の仔はこちらに見向きもしない。一心不乱に魔物の肉片に噛み付いている。近づいて見ると、魔物の肉片が仄かに紅く光っているようだ。

「なんだ?何故光ってる?」

魔物の骸が光るなんて聞いたことがない。そう思いながら肉片の1つをつまみ上げ、しげしげと眺める。手の指を紅く照らすそれは何となく魅惑的で妖しく、美しいような感じがした。

そんな少年を黒豹の仔はチラリと見上げ、自分に対して敵意が無さそうだと見ると再び肉片に向かい合うが、余程硬いのか先程から大して噛み進めていない。

「お前、腹減ってるのか?食べ辛そうだな。ほらよ。」

少年は鍔元だけになった小刀で、紅く光っている肉を一口大に切って黒豹の仔に放り投げた。

少し迷った様子を見せたが、大人しく好意に甘えることにしたらしい。黒豹の仔は一息に頬張るとろくに噛みもせず飲み込んだ。

「そんなに慌てて…旨いのか?どれどれ…」

黒豹の仔の食べっぷりを見ていたらお腹が減ってきた少年は、生肉にちょっと躊躇しながらも食べてみた。

「…うっ…不味い!こんなもんよく食べられるな…」

(うえー、勢いで飲み込んじゃったし…)

「…うえっ…うぐっ…」 ドックン

(っ!! ヤバい!毒か!?何だか内臓がひっくり返りそうだ!ウググッ!)

少年は口に手を突っ込み、吐き出そうとするが手遅れのようだ。喉を掻きむしりながら覚悟を決めた。

(まさか魔物は倒せたのに、その肉を食ってあの世行きとか、とんだ間抜けだな…)

口や胃から、細胞が白から黒にひっくり返っていくような感覚が瞬く間に全身に広がっていく。

「ぐっ! ぐああっ!」 ドクンドクンドクン…

少年は床をのたうち回り、自分の生命の火が消えつつあるのを実感していた。黒豹の仔も地面を引っ掻き回して苦しんでいるようだ。

(俺があんなモン食べさせたから…可哀想な事したな…あの世への道連れってことで、仲良くしようぜ)

少年は最後の力を振り絞り、手を伸ばして黒豹の仔を抱き寄せた。ぐったりした黒豹の仔は少年の温もりに少し安堵したようだった。少年は紅く光っていた肉塊がもう光っていないなぁとぼんやり思いながら、意識を失った。
しおりを挟む

処理中です...