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十六話目
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ジンさんが訪ねてきて二週間後、今度はジンさんと黒田さんが訪ねてきた。
「お邪魔しまーす。転居祝いにきたよ!」
ジンさんは何やら大荷物を抱えてインターフォンを押した。シロとコウは嬉しそうに玄関に出向いて行き私もそれに着いていく。
「今日はパーティだよ!」
ジンさんは異様なテンションの高さで持ってきた荷物を少し上に掲げた。シロもそれに釣られてワー!と声を上げ、コウも拍手している。私はこの前のジンさんと全然雰囲気が違うことにただただ困惑していた。
「どうしたサク!パーティ嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいです」
遠慮がちに答えるとジンさんはニカっと少年のように笑う。
「そんなに警戒しなくてもこの前みたいなことはしないよ!この前は仕事だったからあんなんだったけど今日はパーティだから」
仕切りにパーティという単語を連呼するジンさんに苦笑いしながらジンさんから荷物を受け取る。受け取った荷物の中をみてみると中身はお酒やジュースだった。
「あそれ冷蔵庫入れるやつね。シロが持ってるやつはチキンだからテーブルに置いといて」
テキパキと指示を出す姿は敏腕社長そのものだ。それぞれが言われた通りに動きすぐにパーティの準備が整った。
「この中で未成年はサクだけか。じゃあ仕方ないけどサクはジュースだな」
私以外のみんなはお酒を持ち私はジンさんが勝手に選んだ葡萄ジュースを手に持たされ席につく。
「じゃあこの度は転居おめでとうということでカンパーイ!」
みんなで一斉にコップを合わせ乾杯する。缶と缶がぶつかる鈍い音がしてパーティが始まった。みんながそれぞれの飲み物を一口飲んだ後ジンさんは思い出したように、ん!と声を上げた。
「これ!うちの副社長の黒田!トロードでも副社長してたから知ってると思うけど」
急に紹介された黒田さんは持っていたチキンを皿の上に置き手拭きでてを拭いて一礼する。
「副社長の黒田です。トロードではあまり関わりがありませんでしたがこれから皆さんと仲よくしていけたら嬉しいです」
黒田さんはニコッと笑い三人の顔を見渡す。動きが止まっていた私たちもそれぞれ挨拶をしてまたみんなでチキンを食べ始めた。
程よく時間が過ぎるとお酒を飲んでいる三人はだんだん声が大きくなっていった。
「シロ!彼氏はできたか?彼氏は」
「できてないですよジンさんはどうなんですか?」
「できてねーよ!ここんところ忙し過ぎて作る暇すらないんだよ!」
ジンさんは完全に酔っているようでだらしなくコウによりかかっている。今までのジンさんのイメージは、すごく大人で知的な女性だったけれど、今日を見ていると悪戯好きで悪知恵の働く悪ガキと言うイメージがついてしまった。
「すいません。お手洗いはどこにありますか?」
「廊下に出て玄関と逆の方向にいったらありますよ」
私は黒田さんに話しかけられて、ビクッとしてしまったが笑顔を作り答える。
「ありがとうございます」
落ち着いた様子で答えた黒田さんは廊下に出ていった。緊張が解けたせいか私も尿意を催して二階のトイレに行く。リビングを出て薄暗く誰もいない階段を登り始めると妙に落ち着いた気持ちになる。あまり関わったことがない人が二人もいると気疲れしてしまうものだ。ふー、っとため息をつきながら一歩一歩階段を登っていく。
別に嫌なわけではないけれど居心地が良くない。うまく会話に入れないし、みんなの気分を害しているかもしれない。でもここにいる限りではそんな心配をする必要もないことが、いつもの階段と違い心地よさを感じさせる。
トイレから戻り一階に降りると黒田さんが靴を履いて外に出て行こうとしていた。
「すいません。少しタバコを」
黒田さんは持っていた電子タバコを掲げた。
「あ、はい…」
私は消え入りそうな声で返事をする。
「あの、もし苦手でなければお話ししませんか?」
黒田さんが私から目を逸らしながら外に誘う。男性が苦手と聞いているのか、タバコが苦手と聞いているのか検討がつかなかったが「はい」と返事をした。私から大人の男性への恐怖心はまだ消えておらず、到底断ることなどできなかった。
黒田さんが「では、」といい外に出ていく。私も釣られて靴を履き外に出る。外に出ると少しずつ冷え込んでいて、真夜中の空高くには寒さが隠されているような気がした。後ろの方で玄関の閉まる音がして寒さなんかが一気にどうでも良くなる。
ああ、今から私何されるんだろう。ひとめはないけれど外は寒いからあまり脱ぎたくはないんだけどな。黒田さんは右手にタバコを持ち煙を吐いている。その姿を見た瞬間脳裏に根性焼きという言葉がよぎった。昔は良く行われていたそうだけれど今の電子タバコでもできるのだろうか。まあ今更傷が増えたところで何も変わらないか。シロには怒られるかも知れないけれど。
「サクさんは何故うちに入ろうと思ったんですか?」
何も話さなかった黒田さんから、唐突に投げかけられた質問に私は戸惑ってしまう。
「シロとコウがいるからです。あの二人がいるなら私はどこにでも行けます」
「そうですか。しかし、社長から結構威圧されたんでしょう?」
相変わらず煙を吐いている黒田さんは、私と全く目を合わせずに道路の方を見ていた。
「まあ、ちょっと、ですね…」
私の曖昧な返事に黒田さんはまた黙り込んでしまった。二人の間を沈黙が風とともに通り過ぎていく。私も黒田さんと同じように道路の向こうを見ながら時間が経つのを待った。
「サクさん、仕事上サクさんのこと色々聞きました。自分はこの会社をVtuber一の会社にしたいと思っております。そのためにはサクさんの力が必要不可欠になってくると思っています」
「はい…」
真意を探るように返事をして私は次の言葉を待った。
「なので慣れない部分もあるかと思いますがどうか私を頼っていただけないでしょうか?」
この人は真剣な顔をして何を言っているのだろう。あまり理解できなかったけれど私は曖昧に頷いた。
「わかりました。機会があれば頼らせていただきます」
黒田さんの横顔は満足そうに、そして大きなことを達成したかのような顔をしていた。
「はい。では中に戻りましょうか」
私に向き直して言った黒田さんは少し汗をかいていた。不思議に思いながらも安堵し家の中に入ろうとしたら勢いよく扉が開いた。
「サク!どこいってたの!?探したんだよ!」
シロに両肩を掴まれ揺さぶられる。私は酔いそうになりながら必死に声を出した。
「黒田さんに連れられて外にいたの」
「え!?」
シロは黒田さんに詰め寄り指を突き立てる。
「サクに何しようとしたの!?あんた指一本触れてないでしょうね!」
酔っているのかシロが古い言い回しで黒田さんを威圧する。しどろもどろになりながら黒田さんが「タバコ…」と発言するとシロはものすごい剣幕で叫んだ。
「サクにタバコ吸わせようとしたのね!未成年にタバコ吸わせようなんてあんたどんな趣味してるんの!」
シロが凄んだ先にいる黒田さんは半分泣き目になって、「あ、えっと…」などと声にならない声を上げている。
「まあまあ、シロ。そこらへんにしてあげなよ。黒田は未成年にタバコ吸わせようとするような趣味はないやつだから話は中でゆっくり聞こうよ」
半笑いのジンさんがシロと黒田さんの間に割って入って家の中に誘導した。
「わかりました。話はしっかりしてもらいますからね」
黒田さんを睨みつけるシロに背中を押され私たちは家の中に入って行った。
「お邪魔しまーす。転居祝いにきたよ!」
ジンさんは何やら大荷物を抱えてインターフォンを押した。シロとコウは嬉しそうに玄関に出向いて行き私もそれに着いていく。
「今日はパーティだよ!」
ジンさんは異様なテンションの高さで持ってきた荷物を少し上に掲げた。シロもそれに釣られてワー!と声を上げ、コウも拍手している。私はこの前のジンさんと全然雰囲気が違うことにただただ困惑していた。
「どうしたサク!パーティ嬉しくないのか?」
「いや、嬉しいです」
遠慮がちに答えるとジンさんはニカっと少年のように笑う。
「そんなに警戒しなくてもこの前みたいなことはしないよ!この前は仕事だったからあんなんだったけど今日はパーティだから」
仕切りにパーティという単語を連呼するジンさんに苦笑いしながらジンさんから荷物を受け取る。受け取った荷物の中をみてみると中身はお酒やジュースだった。
「あそれ冷蔵庫入れるやつね。シロが持ってるやつはチキンだからテーブルに置いといて」
テキパキと指示を出す姿は敏腕社長そのものだ。それぞれが言われた通りに動きすぐにパーティの準備が整った。
「この中で未成年はサクだけか。じゃあ仕方ないけどサクはジュースだな」
私以外のみんなはお酒を持ち私はジンさんが勝手に選んだ葡萄ジュースを手に持たされ席につく。
「じゃあこの度は転居おめでとうということでカンパーイ!」
みんなで一斉にコップを合わせ乾杯する。缶と缶がぶつかる鈍い音がしてパーティが始まった。みんながそれぞれの飲み物を一口飲んだ後ジンさんは思い出したように、ん!と声を上げた。
「これ!うちの副社長の黒田!トロードでも副社長してたから知ってると思うけど」
急に紹介された黒田さんは持っていたチキンを皿の上に置き手拭きでてを拭いて一礼する。
「副社長の黒田です。トロードではあまり関わりがありませんでしたがこれから皆さんと仲よくしていけたら嬉しいです」
黒田さんはニコッと笑い三人の顔を見渡す。動きが止まっていた私たちもそれぞれ挨拶をしてまたみんなでチキンを食べ始めた。
程よく時間が過ぎるとお酒を飲んでいる三人はだんだん声が大きくなっていった。
「シロ!彼氏はできたか?彼氏は」
「できてないですよジンさんはどうなんですか?」
「できてねーよ!ここんところ忙し過ぎて作る暇すらないんだよ!」
ジンさんは完全に酔っているようでだらしなくコウによりかかっている。今までのジンさんのイメージは、すごく大人で知的な女性だったけれど、今日を見ていると悪戯好きで悪知恵の働く悪ガキと言うイメージがついてしまった。
「すいません。お手洗いはどこにありますか?」
「廊下に出て玄関と逆の方向にいったらありますよ」
私は黒田さんに話しかけられて、ビクッとしてしまったが笑顔を作り答える。
「ありがとうございます」
落ち着いた様子で答えた黒田さんは廊下に出ていった。緊張が解けたせいか私も尿意を催して二階のトイレに行く。リビングを出て薄暗く誰もいない階段を登り始めると妙に落ち着いた気持ちになる。あまり関わったことがない人が二人もいると気疲れしてしまうものだ。ふー、っとため息をつきながら一歩一歩階段を登っていく。
別に嫌なわけではないけれど居心地が良くない。うまく会話に入れないし、みんなの気分を害しているかもしれない。でもここにいる限りではそんな心配をする必要もないことが、いつもの階段と違い心地よさを感じさせる。
トイレから戻り一階に降りると黒田さんが靴を履いて外に出て行こうとしていた。
「すいません。少しタバコを」
黒田さんは持っていた電子タバコを掲げた。
「あ、はい…」
私は消え入りそうな声で返事をする。
「あの、もし苦手でなければお話ししませんか?」
黒田さんが私から目を逸らしながら外に誘う。男性が苦手と聞いているのか、タバコが苦手と聞いているのか検討がつかなかったが「はい」と返事をした。私から大人の男性への恐怖心はまだ消えておらず、到底断ることなどできなかった。
黒田さんが「では、」といい外に出ていく。私も釣られて靴を履き外に出る。外に出ると少しずつ冷え込んでいて、真夜中の空高くには寒さが隠されているような気がした。後ろの方で玄関の閉まる音がして寒さなんかが一気にどうでも良くなる。
ああ、今から私何されるんだろう。ひとめはないけれど外は寒いからあまり脱ぎたくはないんだけどな。黒田さんは右手にタバコを持ち煙を吐いている。その姿を見た瞬間脳裏に根性焼きという言葉がよぎった。昔は良く行われていたそうだけれど今の電子タバコでもできるのだろうか。まあ今更傷が増えたところで何も変わらないか。シロには怒られるかも知れないけれど。
「サクさんは何故うちに入ろうと思ったんですか?」
何も話さなかった黒田さんから、唐突に投げかけられた質問に私は戸惑ってしまう。
「シロとコウがいるからです。あの二人がいるなら私はどこにでも行けます」
「そうですか。しかし、社長から結構威圧されたんでしょう?」
相変わらず煙を吐いている黒田さんは、私と全く目を合わせずに道路の方を見ていた。
「まあ、ちょっと、ですね…」
私の曖昧な返事に黒田さんはまた黙り込んでしまった。二人の間を沈黙が風とともに通り過ぎていく。私も黒田さんと同じように道路の向こうを見ながら時間が経つのを待った。
「サクさん、仕事上サクさんのこと色々聞きました。自分はこの会社をVtuber一の会社にしたいと思っております。そのためにはサクさんの力が必要不可欠になってくると思っています」
「はい…」
真意を探るように返事をして私は次の言葉を待った。
「なので慣れない部分もあるかと思いますがどうか私を頼っていただけないでしょうか?」
この人は真剣な顔をして何を言っているのだろう。あまり理解できなかったけれど私は曖昧に頷いた。
「わかりました。機会があれば頼らせていただきます」
黒田さんの横顔は満足そうに、そして大きなことを達成したかのような顔をしていた。
「はい。では中に戻りましょうか」
私に向き直して言った黒田さんは少し汗をかいていた。不思議に思いながらも安堵し家の中に入ろうとしたら勢いよく扉が開いた。
「サク!どこいってたの!?探したんだよ!」
シロに両肩を掴まれ揺さぶられる。私は酔いそうになりながら必死に声を出した。
「黒田さんに連れられて外にいたの」
「え!?」
シロは黒田さんに詰め寄り指を突き立てる。
「サクに何しようとしたの!?あんた指一本触れてないでしょうね!」
酔っているのかシロが古い言い回しで黒田さんを威圧する。しどろもどろになりながら黒田さんが「タバコ…」と発言するとシロはものすごい剣幕で叫んだ。
「サクにタバコ吸わせようとしたのね!未成年にタバコ吸わせようなんてあんたどんな趣味してるんの!」
シロが凄んだ先にいる黒田さんは半分泣き目になって、「あ、えっと…」などと声にならない声を上げている。
「まあまあ、シロ。そこらへんにしてあげなよ。黒田は未成年にタバコ吸わせようとするような趣味はないやつだから話は中でゆっくり聞こうよ」
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