あの空に届くまで

ねこ

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新たな仲間

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「俺は、なんだったんだろう」
転聖の心は苦しんでいた。転聖は心の中の葛藤を押し込み、ベットの上で目をつむり丸まる。
「落ちついたか?」
兄貴の声だ。
「あぁ。だいぶいいぜ。」
布団の中から素っ気なく答えた。
「悪かったな。」
「謝るのは俺の方だ。勝手に兄貴が母さんを殺したと思って」
「そうか、お前は母さんの最後を見れなかったから無理ない」
転聖は歯を食いしばって泣いている。
「俺さ、あいつらに会ったとき1人じゃないんだって思った。やっと心を許せる人が出来たって思った。」
弟は溜まっていた不安の全てを吐き出した。
「だけど....違った。あいつらも俺を散々殴ったあの家の人間と同じだった。」
「転聖.....」
その寂しそうな背中にかける言葉も見つからなかった。
「俺は、母さんが死んだ後別の家に引き取られたけどひどいもんだった。
毎日毎日俺を殴ったり、蹴った。」
どうやら虐待を受けたらしい。彼は、同じ17年という年月を自分とは全く違う形で過ごしていたんだと思った。
「だから、俺は家出して、でも金は入ってこないから」
「死神になった。か?」
「そうだ。恥ずかしいよな」
転聖は恥ずかしそうに笑う。
「でも、あいつらと出会って居場所が出来たとき、あの男が現れた。」
「あの、男?」
「死神大王と名乗る男だ。そいつが俺に『復讐の力を与えてやる。お前の母はお前の実の兄が殺した』って言われて」
転聖の涙は止まって真剣な表情になった。
「それで?」
「そんなわけないと思って相手にしなかったら兄貴は俺のことを覚えてないと言われて。」
確かに忘れていた。かなり前だったし、そういえば何故思い出せなかったのだろう。
「そして、そいつが赤い霧を吹きかけた瞬間兄貴が憎くなって。それでフューガレアまで来た。」
「なんで、僕がここにいるってわかった?」
「そいつが教えてくれた。」
死神大王.....何者なんだ。少なからず弟をたぶらかしたのだ。いつかけりをつける。快晴がここへ訪れたのは別の目的があったからだ。
「なぁ、転聖。これからはこの町に住めよ。古斗さんがアパートを手配してくれるって」
「まじかっ!でも...いいよ」
転聖の顔が曇った。快晴は弟の肩を掴む
「皆は説得する。だから今度は一緒に日の当たる方へ。もう、1人じゃないから」
快晴は転聖を抱きしめた。その時、彼の心は一気に溶けていった。彼をがんじがらめにしていた孤独と共に。
「うぁぁぁぁ!!!」
堰を切ったように涙が溢れ出た。
「大丈夫。もう、大丈夫だから。」
兄弟の再会が果たされた瞬間だった。
 

雲の間から光が差す昼下がりの午後。閑静な住宅街の一角。子供が公園で無邪気にはしゃぐ。
雨上がりの水溜まりを飛び越えながら、転聖は歩いていた。
「人ってこんなに温かかったのか」
手を胸に当てシャツをつかむ。
『おい、転聖。』
ラッディパンクが話し掛けてきた。こいつはずっと一緒にいるが絆という絆も薄い。
「なんだ?ラッド」
『あの快晴とか言うやつだが。』
「兄貴がどうした?」
『また、お前を裏切るんじゃないか?』
こいつは意地悪だ。転聖が人を信じられなかったのもこいつの影響がなくもない。
「んな訳あるかよ。」
『わからんぞ?また、裏切るかもしれん。わしはお前の暗いその感情があるだけでいいがな』
「てめぇ!ラッド。あんま、兄貴のこと悪く言うんじゃねぇよ」
怒鳴ると周囲の人が一気に視線をそそぐ。
「俺は、もう一度だけ人を信じるって決めたんだ」
『そうか。それもまたいいだろう。面白そうだから見といてやるよ』
そう言うと彼の中の獣は会話を止めた。転聖はもう一度胸に手を当てた。

 
ある日の午後。
4人の前に転聖が、いた。
工事現場の屋上。もうすぐ雨が降るかも知れない機嫌の悪い空。
「岸転聖だ。」
バツが悪そうに自己紹介をする。快晴が3人の自己紹介をした。
「皆、今日は転聖を仲間に加えてもらえないかっていう提案なんです」
「俺は、かまわねぇ。」
「うんうん。私も別にいいと思う。」
よかった。快晴は内心ほっとしていた。
「.....私は....まだ怖い」
意外だった。詩音が人嫌いをするなんて。
「それだけのことをしたからな。すまなかった。」
転聖は4人に頭を下げた。
その謝罪に不機嫌な雲が重なってよりいっそう暗く見せた。
「きぃにすんなや!」
大地が転聖の肩に腕を回し笑い飛ばした。
「いいのか?こんな俺を」
「当たり前だろ?すんだことだしな!」
こういう所が大地のいいところだ。昔から仲間外れや過去を振り向かない。
「私もさぁーんせい!」
亜瑠香も2人にタックルした。
「快晴君。」
詩音が袖を引く。
「どうした?」
「私は.....どうすればいいの?」
「無理はしなくていい。怖いならそれでいいから少しずつ仲良くなろう?」
「うん。」
詩音の顔が曇る。
その頭をなでる。また顔が赤くなった。そろそろ晴れそうだな。
 
 
「喰らえ歪み共!」
真紅の大剣で歪みを分断していく。閑静な住宅街に響く肉を裂く音。
「しかし、さすがだな」
ザシュッ! ザシュッ!
「『王の終炎(キングダムインフェルノ)』」
巨大なハートマークの火球が歪みを焦がす。
「いきなり大技かよ!」
大地がつっこみを入れる。
歪みは消えた。というか燃えて灰になった。
「これでいいのか?」
転聖はすっきりしたという顔で帰って行った。
「ははは、僕らの出番なしですね」
快晴が呆れながら呟く。
つぇな。
そう快晴は心で呟いた。

 
「なるほどな、お前の弟か」
食堂で快晴と転聖と古斗
は牡蠣フライを頬張る。おきまりの定番メニューらしい。
「どうもガツガツ岸ガツガツ転聖っすガツガツ」
目の前の牡蠣フライにがっつきながら自己紹介をする。
「そう、急がなくても牡蠣フライはにげねぇよ」
古斗はなだめるようにむせた転聖の背中を叩いた。
「いや、だって。揚げ物なんて久しぶりに食ったもんで。もう5年は食ってないっす」
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ
「古斗さん。こういう弟なんですよ」
苦笑いしながら転聖を見る。
「お前とはタイプが違うが、いいもんを持ってるよ」
お茶を1杯飲み終えると
「ここは、俺のおごりってことで。」
3000円おいて出て行った。
弟はなおもがっついている。
 
家に帰ると喜一が毛を逆立てた。
「お前誰だ!」
後ろの転聖に警戒をしているようだ。なんやかんやで警戒心が強いんだこのネコは。
「うわっ!猫がしゃべった!」
「ただの猫じゃぁないぜ!皇道八武天の1人!黒鳶喜一様だからな!」
「おーどーはちむてん?」
「おまえ!古斗に会わなかったのか?」
転聖はやっと察した様子だ。無理もない。快晴も最初は驚いたのだから。
「せんせーと今日から呼べよ!」
喜一は自慢げに言い放った。いくら転聖でもこんな要望受けるわけ
「先生!!!!」
「えぇぇぇぇぇぇ!!!」
快晴は思わず声をあげた。
「どうした?快晴。」
「なんか付いてるか?兄貴。」
「いや、なんもないっす。はい。」
カラスが外で鳴いた。
かぁ~
 
快晴は綺麗な三日月を見ながら物思いにふける。
転聖の中の孤独と自分は向き合えるのか。もし、それが兄としての役目であるのなら果たさなければならない。彼の中の1番深いところにある人間に対する恐怖、それを全て払えるのだろうか。
快晴は横になり、喜一のすべすべの毛を数回撫でて目をつむる。もう12時だ。そろそろ寝よう。快晴は部屋のライトを消した。
 

今日は土曜日だ。夏の終わりとあってだいぶ暑さも引いてきたが、暑いことに変わりはない。
五人と一匹は港の外交市の日だ。
「すげぇ。なんだここ。」
弟はきらびやかな市場に目を奪われた。
「毎週土曜日に開かれる市場だ。各島からいろんなものがここに流れてくる。」
今までこんな世界、見たこともなかったんだよな。こいつは。
「快晴!転聖!こっちこっち!」
亜瑠香は2人の腕を掴み生クリームがこれでもかとかかったクレープを売っている店に連れて行った。
「おじさん。三つ!」
「ほいよ。」
亜瑠香がクレープを手渡す。快晴は食べてはみたが甘くて嫌になった。
「はむ。なんだこれ!」
「おいしくない?」
「すまん。俺パス!」
どうやら転聖の口にも合わないようだ。よかった。ほんとに。
亜瑠香は掃除機のように3人分のクレープを吸い込んだ。
「ん~。ならこっちはどうだ?」
大地は唐辛子が大量に乗っかり、マグマのように赤いチゲ鍋を手渡した。
「かっけぇ!はむ。ん!?」
「どした?」
「..........うまっ!」
転聖はチゲ鍋をのどに流し込むように完食した。
「強ぇな」
ポカンと快晴と大地は見ていた。
詩音は向こうでアクセサリーを見ている。
「ん?どうしたんだ?」
転聖!!!!!!!!!
なんと、転聖が自分から攻めに行った。 
慌てて止めようと快晴が走る。
「この、アクセ。可愛いなって」
「そうなのか。おい!おっさん!これくれよ?」
「お代を払ってくれないと」
「くれよ?」
胸ぐらを掴んで脅した
「わ、わかった。くれてやるよ」
おじさん.......ドンマイ。
「おらよ。」
アクセサリーを詩音に渡す。
「あわわ、あ、ありがと?」
転聖はびびって半べそのおじさんと対照的に笑っていた。詩音は困惑気味だったけど。
 
今日もあと、3時間で終わる。なんとか打ち解けていてよかった。
目の前の方程式を解きながら快晴はそんなことを考えていた。
気づけば鈴虫の声が聞こえる。
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