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第一章 乱乱乱世
テンプレ人助け
しおりを挟む地球B 1日目
PM 2時00分
馬車と熊との追いかけっこが勝手に解決してくれる事を丘の上で祈りながら、文字通り高みの見物を決め込んでいると、双方の距離はドンドン縮まっていく。
どうやらオレの望みは叶わなそうだ。
……しかし、どうしたらいいんだ?
すげぇベタな展開だけど、異世界主人公様みたいに、戦闘力が上がってる訳じゃないし、熊さんになんか敵わんぞ。
こちとらスローライフ系スペースカウボーイのつもりで来てんだよ。
……あぁ、また距離詰まってってるなぁ……お馬さんから食われちゃうのか? その後に人か?
パターン的にアレだろ? あの馬車には王女だとか、スーパー貴族の娘とか乗ってる感じだろ?
女の子パクパクはヤダなぁ……ぐぅう、もうちょいで追いつかれるなアレ。
……おっかねぇ、超おっかねぇ……
…………バカたれが、カッコつけにこの星に来たんだぞ……
……やれよ、行くぞオレ、命の危機で不思議パワーが解放されるかもしれねぇだろ! 気合入れろ!
「……ふぅ……行くぞダービー! 我ら兄弟、義によって助太刀致す!」
覚悟を決め丘を駆け降り、草原の上で出せる限界の速度で、熊と馬車を追う。
起伏に乗る度に跳ねたり横転しそうになりながら、どうにか熊の脇に追いついた。
うぉぉぉ、こえぇ……こっからどうしよう……ダービー、ねぇ、どうしたらいい?
あーーー、万が一の為に3本くらいタバコ吸っときゃよかったよ……
……ダメだ、もう馬車やられるな、なんかねぇか? なんかねぇのか? あぁぁぁ! もう!
ダービー! 『なきごえ』だ!
ーー プァーーーーーー プァップァーーーーー ーー
「おら熊ぁぁぁぁ! こっち見ろぉぉぉぉぉ! 生身だぞぉ! 食べやすいぞぉぉぉぉ!」
解決策が見つからないので、耳に訴えかけてみた。
熊は生まれて初めて聴く音に驚いたのか、速度を緩めながらこっちを見ている。
うし、ほいでぇ……どうすっかなぁ……
はぁぁ? なんで馬車も速度緩めてんの? ご……ぎょ……なんだっけ? 馬のヒモ持つ係、お前こっち見てねぇでハイヤー! って、しろよぉ!
「こっち見てねぇで行けよ! オラァとっとと行けぇ! グズグズすんなぁぁぁ!」
オレの怒鳴り声と左手のジェスチャーで我に帰ったのか、馬ヒモ係はヒモをパシーンして速度を上げた。
熊も追走するかと思ったが、不思議な高速おじさんを食べてみたくなったようで、オレの速度に合わせて並走している。
馬車の救助がひとまず完了し、心に余裕ができたのか、命の危機に反応したドーパミン的な力なのか、ハァハァ言いながら必死についてくる熊とのランデブーが、なんだか楽しく思えてきた。
……でけぇでけぇと思ってたけど、ちゃんと見たら3メートルは確実にあるな。
バケモンじゃないのキミぃ……キミは特殊な個体なのかい? それとも地球Bの熊はみんなそんななの?
だとしたらおじさん、艦長にクレーム入れなきゃだわ。
……あ、このままこっち方向に行ったら、いつかは馬車とかち合っちゃうのか、そりゃよろしくないな……
よし、ベア公さんよ、向こう行こうぜ。
完璧な2輪ドリフトからのターンで180度方向変換をキメる。
我ながらビキビキにCOOOOLだ。
そのまま馬車と反対方向に轍を進むと、ベア公も『食ってやる、何がなんでも食ってやる。』と、殺意剥き出しでしっかり後を追って来ている。
お利口さんだ、もう2メートル70センチ小さければ飼ってやってもいい。
そんじゃあ熊さんよ、しばらくおじさんと追いかけっこでもしようじゃないの。
その後20分程、熊さんとのランニングに付き合ってやると、流石にバテてきたのか、どんどん熊の速度が落ちてきた。
追いかけっこが終わるのは寂しいので、後ろを振り返って喝を入れてやる。
「へい! 熊五郎! そんなもん? お前の食欲そんなもん? 滾らせろよ、丹田に力を込めるんだよぉ!」
応援虚しく熊五郎は脚を止め、しょんぼりしながら脇の野原へとはけて行った。
あれだけデカい熊なんだから、きっと頭もいいのだろう、『バテたフリして、停まったところを食い散らかす作戦』の可能性も考慮して、更に10分ほど轍を進み、完全に距離をとった所でダービーを停めた。
ーー カキンッ シュボ ーー
「…………ぱっふぁーーーー……相手が悪かったな熊五郎。オレとダービーはな、この星最速のカップルなんだぜ……」
……キマった、ロマンの化身じゃないか、史上最イケのあきらさんだ。
人助けした後のタバコもヤミーじゃないの、ランク上位に食い込んでくるぞ。
……そんでこっからどうすっかな、馬車向かった方に町でもあんのかな?
もう熊五郎もチギッてやったし、そっちの方向かっても大丈夫だよな……
一回こっちの人間も見ておきたいし、行っちゃうか。
よし、次に目指すのは馬車方面だ。
「わーだーちの上を行くぅー♪さいそーくのロマンチストーー♪かれーの名前はあきらだぁ! 今日もー誰かをー救いーにゆくーのさー♪……」
次々と浮かんでくる新曲を歌い上げながら、さっきまで走って来た道を逆走していく。
道中、脇の原っぱで体を休める熊五郎を見つけて、手を振ってやった。
熊五郎は身構えてオレを睨みつけるが、何かを悟ったのか、すぐに伏せのポーズに戻った。
どうやら『格の違い』ってヤツが理解できたようだ。
野性に完全勝利した事を喜び、いつもよりガニ股でダービーに跨っていると、石畳とでも言うのだろうか、舗装された道が轍の先に現れた。
おー、やっぱ人間がこの辺にいるようですな。
……一応『宇宙人』って事になるのか?
馬ヒモ係さん見た感じだと、普通に人間っぽかったよな。
ってか、第一宇宙人は馬ヒモ係さんかよぉ、ちゃんと会話してみたかったなぁ。
……ふふ、ツーリング楽しいから孤独でもいいとか思ってたけど、いるならいるで人に会いたくなって来たな。
……よし、ダービー、道も綺麗になった事だし、もうちょい速度上げて行きますかぁ。
舗装された道で、草原とは違ったタイヤの音をしばらく楽しんでいると、前方に巨大な壁が現れた。
城壁か何かなのだろう、やたらと頑丈そうに見える。
……これまたベタだねぇ。
さっきの馬車といい、一体なんなんだい?
ここ本当に異星なのか? 次元を越えたなんちゃらワールドオンラインなんじゃないの?
……そもそも江戸時代より前ぐらいの文化レベルって話なのに、馬車がある時点で変なのか……
前任者が馬車やら城壁やらを広めたって事か? 前の人は異世界風が趣味って事?
……うーん、まぁ、その辺の事考えながら旅するのも楽しいわな。
騒ぎが起きて矢で襲われでもしたらたまったものじゃないので、城壁より少し離れた人目につかない場所で、ダービーとヘルメットを基地に帰す。
サングラスを外し髪をわさわさと整え、翻訳機がきちんと着いているのを確認し、城壁へと足を向けた。
歩いて近づいてみると、城壁は20メートル程の高さだとわかった。
レンガの表面に土のような物で補強がされていて、馬車が突っ込んだぐらいではびくともしなそうだ。
壁は2キロ程の長さで、手前には川のような堀がある。
堀には舗装された道から続くように、石造りの立派な橋が架けられていて、橋の先には5メートル程の高さの門があり、その横には槍を持った男が、気をつけをして立っている。
甲冑でも着てれば『ベタワールド』の完成だが、防具は胸当てと鉢金のみという貧弱装備だ。
早速、貧弱門兵に話しかけるべく門へと向かう。
記念すべき初の異星間交流の相手が、殺傷能力の高い棒を持っているのかと思うと、なんだか気分が悪くなってきた。
なにはともあれ最初が肝心、なるべく友好的に話しかけるとしよう。
「すみませーん。」
「なんだお前は?」
なんだか態度のデカい門兵さんだ。
恐らく年下に見えるが、初対面からタメ口な上に、『面倒くさい』という感情を全面的に表情で表している。
ハイパー気に入らないが、きっとこういう文化なのだろう。
我慢して、笑顔で応対してやろうじゃないの。
「僕、この辺は初めて来て、なんとなく歩いていたらここに着いたんですけど。」
「そうか、だからどうした?」
……粗塩対応だね、流石に怒りたくなってきたぞ。
「……いや、どうしたって……えー、ここはなんという場所なんですか?」
「ここか? ここは『東端の集落』だ」
「集落!? こんな立派な城壁があるのに?」
「城壁? 何の事だか知らんがこの壁は『囲み』だ。東端の集落は『西部』でも最大の集落だからな、囲みもデカいんだ。これと同じ大きさの壁4枚と堀に守られている。」
今度はドヤ顔かい……君は友達が少なそうだね……
そいで『西部』の『東端』だって?
ややこいねぇ、ごっちゃになって来た。
「そこの舗装された道を歩いてここに来たんですけど、僕は東から西に歩いた事になりますか?」
「お前はさっきからなんなんだ? そうに決まっているだろう。」
「はぁ、すみません……えっと、集落の中に入る事は出来るんですか?」
「……なぜだ?」
「なぜ、って……見てみたいので。」
見たいと言った事をすぐに後悔した。
これまで『変わったヤツ』を見る目でオレの相手をしていた門兵の顔が、みるみる怒りに染まっていく。
「バカなのか!? どうして見ず知らずのお前に見せてやる必要がある? 一体なんなんだお前は!? さっきから言ってる事はおかしいし、着てる物は奇妙だ。おまけになんだ? 『僕』だと? 西部の男が腑抜けた口を聞いて……さてはお前『東部』が寄越した者か?……東から歩いて来てたしな……そうだな、そこを動くなよ! おーい、誰かぁ! 誰か来てくれぇ!」
「東部?……違いますよ! ちょっ、待って待って!」
「東部のヤツが来たぞ! 早く誰か来てくれぇ!」
……違うっつってんのに、フルシカトですかぁ……
ダービー出してバックれたろーかな?……
いや、出した瞬間に槍で突いてきそうだぞこいつ。
……どうしよ、でも東部とやらは関係ないんだし、話せばいけるか?
『僕』がダメなら、『オレ』とかで通せばいいんだよな?……そういう問題じゃないか?
……ていうか、熊やら門番やらいて、この星バリバリ危険じゃねぇか艦長! あの不思議発光体がぁ!
……ちくしょう、今すぐ帰りたいけど、まだ初日だから帰れねぇ……
……あーあぁ、門兵いっぱい出てきたじゃん。
勘弁してくれぇ……
何が起こるかわからぬ恐怖で体を震わせていると、門兵の中で一番年長そうな男が、オレを警戒するように睨みつけながら近寄ってきた。
「おい、『統領』がお前と話したがっている、来い。」
……あなたも『初対面タメ口マン』なんだねぇ……年上っぽいとはいえダメだろ……
「……統領? はぁ……オレ、怒られる感じですか?」
「ごちゃごちゃ抜かすな! 来い!」
「は、はい! すみません……」
「開門しろぉ!」
年長の門兵に言われるがまま、集落の中に連れられてみると、なんともヘンテコな景色が広がっていた。
まず、建物の建築様式がバラバラだ。
木造の三角屋根の小さな家に、レンガ作りの三階建の長方形の建物、宮廷のような漆喰の御殿もあれば、オオカミの息で吹き飛びそうな長屋のような物まで建っている。
街ゆく人々は、異世界もの漫画か、RPGゲームのキャラをモデルにデザインされたような、『なに風』というのかもわからない衣服を身に付けていて、顔を見れば人種も様々だ。
中には『冒険者』や『傭兵』とでも言うのだろうか、兵隊ではなさそうなのに武器や防具を装備している人も多くいて、治安維持はどうなっているのか不安で仕方ない。
そんな集落の中心には、まっすぐに舗装された道が通り、その両脇を堀から引っ張った小川が流れ、各建物の軒下へ支流が出来ている。
恐らく下水道だと信じたい、飲み水だとしたらオレはこの星で生きてはいけない。
要するに、この集落の中は、何時代のどこの国の人がどういう意図で作ったのかがまるでわからない、『異世界風B級アミューズメントパーク』とでも言いたげなバカげた光景だ。
地球出身者の知識や技術がちゃんぽんミックスされてしまったのだろうか?
そんなワヤクチャワールドを、2キロ四方の巨大な『囲み』が堅固に守り、街か市か王都とでもいうのかと思えば『集落』だという。
しっちゃかめっちゃっかここに極まれりだ。
ここまでくると、エルフやら、ドワーフやら、洋服の世界でなぜか和服を着こなす狐耳人間でもいるのかと思えば、いない。
いろよ!
みょうちくりんな景色に、頭の中で様々な文句を言って歩いていると、広場のようなスペースが見えてきた。
歩いた感覚と景色から見るに、集落の中心地なのだろう。
広場には兵士のような格好をした男たちが並んでいて、集落の人間たちが周りでざわついている。
その集まりの中心に、一人だけ立派な甲冑を身につけた大男が『偉いぞ! 強いぞ!』といった雰囲気を纏ってドヤーンと立っている。
アイツが統領なのだろうか。
広場に着くと、門兵に「ここで待っていろ。」と言い付けられる。
大人しく突っ立ってると、広場の人間達がボソボソと何かを話しながら、値踏みするような目でオレを見ている。
初来日の珍獣になったような気分で、なんとも居心地が悪い。
これから自分がどんな目に遭わされるのか不安になりながら、『人畜無害ですよ顔』をキープしつつ人々を眺めていると、その中に見覚えのある顔を見つけた。
……誰だっけ? 最近見たぞ、タレントに似てる人か?
ヒゲの半泣き顔ねぇ……あっ、馬ヒモ係さんか!
パッとしか見てないから気付かなかったけど、確かこんな顔と服だったわ。
おぉー、馬ヒモさんも無事に着いてたのか、よかったよかった。
……ん? これはハッピーエンドの気配がするぞ。
馬ヒモさん、甲冑デカ男となんか話してるね、チラチラこっち見てるじゃない。
「あの方が勇敢にも私を……」ってか、まいっちゃうね。
……どれ、どんな話してんだい?
「あの……に間違い……のか?」
「そう…す……服に間違い……を鳴らし……ものすごい速さ……熊と……」
やっぱオレの話だね、正体を明かさず助け出すのがCOOOOLなんだけどなー。
こうなっちゃ仕方ねぇか。
……お! 甲冑さんこっち来るね……デッカ! 2メートルいってないか?
……ほんで、ケツアゴかぁ……オレの知識では、ケツアゴのデカいヤツって、大体かませ犬か、ヤベェ奴なんだよな……
「おい。」
「はい。」
「あの御者が熊に追いかけられている時に、お前が現れたと言うのだが本当か?」
「はい、本当です。」
敬語使えって、同い年ぐらいだろ? 偉そうに見下ろしてくれちゃって。
コイツらみんなして礼儀って概念を知らんのか?
……転生モノの漫画の主人公はみんなこの不快感に耐えてんのか?
「お前が妙な物に乗って、熊の横を走っていたという話も本当か?」
「……本当です。」
おうおうおうおう、ダービーが妙ってかよぉ?
すっとんきょうなアゴぶら下げといてよく言えたもんだ。
「では、奇妙な音をその乗り物から出した話も本当か?」
「きみょ……まぁ、本当です。」
……ダメだ、腹立ってきたな、何かお礼をしたいって言われても断わろーっと。
『無礼者の施しなど受けたくないんでね』……よし、最後にこれを言ってCOOOLに去ろう。
「では、お前が『熊をけしかけ、馬車を襲わせようとした男』だ、という話は全て本当なのだな。」
「ほん……はぁぁぁぁぁぁ!? 本当じゃないですよ! ウソです!」
「私はこの集落の統領『ドリル』! お前を斬首に処す者の名だ。」
『ざんしゅにしょす』ってなんだっけ?
……あぁ、打ち首エクスキューショナーってこと?……デスペナルティですわな……物騒だねぇ……
……はぁ? オレが!?
「いやいやいやいや、話を聞いて! オレ人助けしただけですから! えーっと、ぎょしゃだっけ? 御者さーん誤解ですよー! ちゃんと説明しましょうよー。」
恩知らず馬ヒモに優しく声をかけてやると、馬ヒモは顔面を恐怖に染め、その場で腰を抜かした。
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「なっ……てめぇ、この野郎! そんな事しねぇから来い! アンタの誤解でオレの首が飛ぶんだぞ!」
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―――――――――
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そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
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