車輪の神 ジョン・ドゥ 〜愛とロマンは地球Bを救う?〜

Peppe

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第二章 キリン探し

圧倒的完勝 ③

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地球B 15日目
PM  19時40分

 ……神宣言したはいいものの、だぁ~れも反応してくれんぞぉ。
ポカーンってか、こっちだってそこそこ恥ずかしいんだからほっとくのは勘弁してくれよ……

「……にいちゃん、やっぱり大バカ野郎だったんだなぁ……」
「あぁ、一度ならず二度も神を騙るとは……正真正銘のバカのようだ。」

 後ろからボソボソと二人の声が聞こえてきた。
声のボリュームを抑えてくれているのはガドルさんなりの優しさなんだろうか?
どうせなら完璧にオレの耳には入らないように配慮してほしいものだ。

 放置される恥ずかしさからか、時間の感覚が曖昧になったオレは数分なのか数秒なのかわからない間、脇汗をダクダクと垂らしながら夜盗たちのリアクションを待った。
その間、後方ではテッサがガドルさんに普段のオレがどれだけ奇妙な行動をとっているのかを懇々と説明していた。

 そんなカオスな状況の中、神のテイをキープする為に仁王立ちのまま夜盗たちからの視姦に耐えていたが流石に精神の限界がきた。
交流を諦めて、テッサたちのもとへと戻ろうとすると、夜盗の群れの後方から一際屈強そうな男が人混みをかき分けて集団の先頭に現れた。

「な、なんだ!? お前、神に手をあげる気か!?」
「神、か……ふん、普通なら信じる訳ないんだがな、この世のものとは思えぬ乗り物に跨る姿と、うわばみ……」
「ちぃいいいっ!」
「……あ、あの戦士を連れているところを見ると、神ではないにしろただの人間ではないようだ。」

 ……おや? 割りと信じてくれる系メン? 助かりますぅー!

「ふん、お前は話がわかるようだな。男よ、お前たちに勝ち目がないのはもうわかったであろう? これ以上無用な
争いはやめるのだ!」
「無用な争い……ふふふ、そいつはどうだろうな? まだオレ達には戦える者が残っている。最後に決着が着くまではこの争いに意味があるかどうかなど誰にもわからぬよ……例え神でもな!」

 ……そんな覚悟を決めたような目ですごまんでくれよぉ。

「愚かな! 貫きのガドルとうわばみの力は……」
「ちぃいいいっ!」
「テッサぁ、まぁいちいち怒ってねぇでよぅ、にいちゃんに任してみようやぁ。流石のお前もこれからまた暴れるのは骨が折れるってぇもんだろう?」
「……話が片付いたらあのバカを折り曲げてもいいんだろうな?」
「お、おぉ……その辺はにいちゃんも覚悟できてんじゃねぇかぁ?」
「……わかった。」

 わかるな! なんの覚悟も出来とらんわぁ!
なんか雰囲気的に仕方ないだろうが、察してくれよぉ……

「……あの二人の恐ろしさはイヤという程わかったであろう? 見たところ、お前は賊の中でも力を持つ者なのだろう? 下々の体を労わることも上に立つ者の責務と知れ!」
「突然襲ってきたのはお前らの方だろうがぁ! 一体オレ達になんの恨みがあって……」

 そう言って男は悔しそうに歯を食いしばらせながらオレを睨みつけている。

「お前たちがこの先の罪なき集落を襲おうとしているという噂を聞きつけたのだ! 私にはそれを見過ごすことなど出来ない。」
「ならばどうして……どうしてオレ達の集落が潰された時は助けにきてくれなかったのだぁ!?」
「んなっ!」

 ……そうか、この人たちって元々は自分の集落を追われて夜盗になっちゃっただけの人たちだったっけか……

「弱き者が強き者の糧となることがこの世の道理だろう!? ならオレ達が他の集落を襲うことの何がいけない!?」
「そ、そんな事は……え~っとだなぁ……」
「オレ達だってこんな事したくはないさ! それでも生き残った子や妻を食わせるためにはまた別な弱者を襲わねばならんのだ! それとも敗者はおとなしく飢えて死ねとでも言うのかぁ!?」
「そうだそうだぁ!」
「神だと言うのならオレ達も助けてみせろぉ!」
「子どもたちがメシを食えるんならオレ達だってこんな事しねぇんだよぉ!」

 男の叫びをきっかけに、周りの夜盗たちも同調したように怒号を浴びせてきた。
その声は、弱肉強食な世の中に対するやり場のない不満や悲しみを絞り出したような、悲痛な響きだった。

 ……こいつら、よく見れば盗賊ヒャッホーな見た目してるヤツは一人もいないな。
少しやつれてるし、着てる服もなんだか汚らしげだけど、それ以外は野原の集落の人たちとなんら変わりない、普通の大人たちじゃないか……

「わかっただろう……お前が神だろうがなんだろうが関係ない。お前らを殺してでも集落の蓄えを奪わねばならんのだ。」
「だからぁ、それは見過ごせんと言ってるだろう!」
「じゃあ、オレ達を殺せばいい! そうでもせんとオレ達は決して諦めんぞ。」

 そう言う男の顔は、どこか諦めのような自嘲的な笑みを含んでいて、オレ達にその凶行を止めてほしがってるようにも見えた。

「おいモドキ、もういいだろう。せめてもの情けだ、トドメを刺してやった方がこいつらの為にもなる。」
「そうだぜぇにいちゃん、こいつぁ仕方のないことなんだよぉ。」
「……イヤだね。」
「はぁ?」
「イヤだって言ったの! これであの人たちやっつけてめでたしめでたしなんてね、全然カッコよくないでしょうが!」
「な、なに言ってんだぁにいちゃん!?」
「……バカが始まったぞ。」

 ガドルさんは「まるで理解できない。」といったような表情で困惑し、テッサはいつも以上に呆れた顔でオレを睨みつけている。

「とにかく、もう物騒なのはやめやめ! 二人が夜盗とか言うからメチャクチャ悪党かと思ったのにさ、ただのかわいそうな人たちじゃんか!」
「いや……そう言っちゃあそうだけどよぉ……」
「無駄だガドル、こうなったらもうダメなんだ、このバカは。」
「ロマンチストだって言ってるでしょうがぁ!」
「……で、そのロマンなんだかとやらはどうするんだ?」
「知らん! まぁ、なんとかなるでしょうよ。」
「ぶっ、ぶぁははははははははは! テッサぁ、なんだこのにいちゃんはぁ!? お前よりメチャクチャじゃねぇかぁ!」
「こんなバカと比べてくれるな。」

 夜盗たちを尻目にやいやいと騒ぐオレ達に、さっきまでオレと討論を交わしていた男が痺れを切らしたように声をかけてきた。

「なぁ! どうするんだ!? オレ達を通してくれるのか? それともどちらかが倒れるまで戦うのか?」
「どっちもナシだよぉ!」
「なっ! 何を言って……」
「うるさいうるさーい! アンタ達がかわいそうでね、こっちはこれ以上攻撃したりしたくないの! どうせあの二人にも勝てないんだから諦めて! オレ達の勝ちで終わり! ざんね~ん!」
「ならばオレ達はおとなしく飢え死ねと……」
「んなこと言ってないでしょうがぁ! 負けイコール餓死とか極端なんだよぉ!」
「……いこーる?」
「細かいことはいいの! とにかく、この世界は勝った方の言うことが絶対なんでしょ!? おとなしく神の言うことを聞いてなさい!」
「オ、オレ達はこの先どうすれば……」
「だぁかぁらぁ! それをこれからみんなで考えればいいでしょうがぁ! おバカさんばっかりなのか!?」
「オレ達もその話し合いに参加できるのか!? そ、そんなことが敗者に許されるのか?」

 男は心底不思議そうな顔をしている。
どこまでも常識が違うのだろうから仕方ないのだろうが、この手の顔をしている時の地球B人とマトモな会話をするのは非常に面倒だ。

「いいんだよぉ! 神が許すって言ってんの! だからもう争いは終わり!」
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