車輪の神 ジョン・ドゥ 〜愛とロマンは地球Bを救う?〜

Peppe

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第二章 キリン探し

怪獣大戦争 ⑤

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地球B 27日目
AM 0時15分

 ダービーに「後で必ず整備する。」と約束して基地に送り返し、再びショルダーを召喚すると、すぐにテッサの荷物を積み込んで麒麟の追跡を再開した。
車体はバインバイン跳ねるわ視界は相変わらず狭小だわの悪条件だが、さっきまでとは違って同乗者がいる今、オレの心にはスリルを楽しむ余裕が生まれていた。

「……やれやれぇ、なんやかんや時間かかっちゃったなぁ。」
「あぁ、それでも私が走るよりも数段速く追いかけることが出来る。……ありがたい。」

 ……あら、イヤミでも言われるもんかと思ったけど……
割りと本気で感謝してくれてるのかな?

「それより、このシートベルトとやらは鬱陶しいな……」
「あぁ、着けるの初めてだもんね。……まぁ、我慢してくれよ。いつもよりだいぶ飛ばしてるから、万が一の時の為に必要なんだよ。」
「……べつに、私がガラスにぶつかろうが外に投げ出されようが、大したケガは負わんぞ?」
「流石の鉄人様ですなぁ、でもそうなったらショルダーが大ケガしてるよねぇ!?」
「ん、それもそうか……仕方ない。」

 そうは言ったものの、テッサはつまらなそうな顔でベルトをいじくり回している。
様子を見るに、ご立派美乳様にいちいちひっかかるのが煩わしいのだろう。

 そんなことを考えていると、なにやら悶々とした感情が胸の深くから込み上げてきた。
これはいけない、高潔な紳士たるオレが、恋人でもない女性に不埒な考えを抱くなどあってはならないことだ。

 雑念を振り払うべく、なにか都合のいいものはないかと頭の引き出しを探してみると、テッサの荷物のことを思い出した。

「なぁ、あの布にくるまれたデッカイのってさ、やっぱり武器とかなの?」
「ん? あぁ、そうだな。あれは私の剣だ。」
「おぉおぉお! 大剣ってことかぁ! くぅうう~、ロマン!」
「……どうした、なにをそんなに喜んでいるんだ?」
「ふっふふ~ん、よくぞ聞いてくれたなぁ。オレの世界ではデッカイ大剣ってのは色んな漫画やゲームのカッコイイ奴らが持っててな、男の子の憧れが詰まった素敵武器なんだよ。」
「はん、そういうことか……」

 そう言うと、テッサはやれやれといった表情で腕を組み、窓の外を眺めながら大きなため息をついた。
「期待して損した。」とでも言いたげな態度に見えるが、武器やら戦いやらの本格的な話でもしたかったのだろうか?

「まぁまぁ、そうガッカリせんでくれよぉ……大剣なんてバカ重いもん振れる人間いる訳ないと思ってたからさ、それが実際お目にかかれると思うと興奮しちゃってさ。」
「そういうものか?」
「そういうもんよぉ! しっかし大人五人分とはね~……まぁ、あの大きさの金属の塊ならそうなるわなぁ……」
「ふん、まぁあんな得物を使いたがるのは私ぐらいのものだろうな。」

 さっきよりも話にノッてきたなと思って顔を覗くと、つまらなそうだったテッサの顔からドヤの波動が漏れていた。
やっぱり、乱暴者というのは物騒な話をする方が楽しいのだろう。

「……じゃあ、テッサ用の特注の武器ってこと?」
「あぁ、パンチョに頼んで用意してもらったんだ。護衛で稼いだ報酬のほとんどを使ったからな、金剛鉄ほどじゃないが頑丈だぞ。」
「はぇ~、特注の大剣ねぇ……ロマンが止まりませんなぁ。勿体ないから普段は使わないんだ?」
「まぁな、くだらん相手との戦いで消耗させる訳にもいかんのでな……元々、麒麟と会った時の為に用意したものなんだ。」

 ……会えるかどうかもわからなかったのに報酬のほとんどをねぇ……
やっぱ麒麟のこととなると、熱の入れようが凄いな……

「……そうか、あんなバケモンに襲われるかもしれないんだから、立派な武器も必要だわな……よかったな、お披露目の機会が巡ってきそうで。」
「ふっ、そうだな、この日をどれ程待ったことか……早く麒麟と立ち合いたいものだ。」
「よかったよかっ、いや待て待て待て!……今お前、『立ち合いたい』って言った?」
「あぁ、それがどうした?」
「へぁっ!? え、伝説の生き物を一度見てみたいとか、麒麟の姿を見たらなんか素敵なご利益があるから会いたいとかじゃないの!?」
「もちろん姿を見てみたいのもあるが、私の目的はそもそもキリンに挑むことだぞ。言ってなかったか?」
「いや、聞いてないよ……挑むって……うっそぉ……えぇ……」

 麒麟の実物を拝んでしまったオレからすれば、悪い冗談を言ってるようにしか聞こえないが、キョトンとした顔で淡々と話すテッサの様子を見るに、トラウマ持ちのオレをからかっている訳ではなさそうだ。

「……どうした、そんな青い顔をして、腹でも痛むのか?」
「腹は平気だよ……お前がとんでもないこと言うから、気が重くなってきたの。」
「そうか……ふっ、安心しろ、私は一人で戦いたいからな、お前は送ってくれるだけでいい。」
「いや、そういうつもりで言ってるんじゃなくてだな……」

 その先の言葉を放つ直前で、ハッと我に返って口を止めた。
これから強敵との戦いに臨もうという人間に「お前が強いのはわかってるけど、あんなバケモン相手じゃ流石にどうなるかわからんぞ。」なんてことを伝えるのは、無粋なだけで何もいいことはない。

 それに、「危ないからやめておけ。」と伝えたところで、これまでのテッサが見せてきた麒麟への情熱を思えば、考えを改めることは絶対にないと言い切れる。
きっと、大ケガを負うことや、それ以上に深刻な何かが起こることさえ覚悟した上で、麒麟との戦いを望んでいるのだろう。
だとすれば、オレに出来ることなんて、麒麟のもとへテッサを送り届けた後は、ひたすらに無事を祈ることしか残っていないのだ。

「……まぁ……なんだ……気をつけろよな……」
「あぁ、任せておけ。」

 出来ればもっと景気のいい言葉をかけてやりたかったのだが、オレの脳は何も思いついてくれなかった。
むしろ、これ以上話しているとネガティブが口からこぼれてしまいそうだったので、黙って運転に集中する為に、アクセルを強く踏み込んだ。

 そうして、一層揺れが激しくなった車内で、しばらくの間お互いに無言のまま夜道を進んだ。
かといって、オレは運転に集中しきっていたという訳でもなく、頭の中では、『テッサの夢が叶ったらいいな』という思いと『このまま麒麟が見つからなければテッサも戦わずに済む』という思いとが、グルグルとかわりばんこに顔を出していた。

 二つの思いが同時に叶うことは絶対にないとはわかりきっているのだが、それでも頭は意味もない葛藤を止めてはくれず、気を紛らわそうと何度か助手席に目をやると、進むにつれてテッサの目には段々とワクワクが強まるように力が増していく。

 その瞳の輝きを見る度に、人の気も知らずにいい気なもんだとニヤけてしまったが、この頼もしくも前向きな姿のおかげで、オレはなんとか前進を続けることが出来た。

「……そろそろ見えてきそうなものなんだがな……」

 痺れを切らして漏れ出たように、テッサがポツリと呟いた。

「ふ~ん……『戦士の勘』ってやつ?」
「はっ、だったらいいんだがな……ただの望みだ。」
「あーねー……まぁ、信じる者は救われるとも言うしねぇ……」
「信じる者……そんな言葉は聞いたことがないぞ。」
「あ、そうかそうか! オレの世界の言葉でね、信じて願ってりゃその内叶うよって意味。」
「……随分と都合のいい考え方だな。」
「ふふふ、言われてみりゃそうか……『ことわざ』って言ってな、前向きで都合のいい教訓が他にもいっぱいあるんだよ。」
「そうか……そんな世界から来たからお前は甘ったるいのかもな……だが、悪くない言葉だ。」
「いやいや今日は随分と素直じゃないのぉ! いっつもそんな感じでいてくれるとさ、この二人旅も……おい……あれ……」

 久々に和やかな雰囲気で談笑を楽しんでいると、突如前方を照らすライトの先端が、動きのある何かの影を捉えた。
その影は光が触れたかと思うと、またすぐに闇の中に姿を隠した。

「な、なぁ! テッサ!」
「あぁ、私にも見えた。」
「だよな! 見間違いじゃなかったか……」
「頼む。追ってくれ。」

 テッサはいつものように淡々とした風に話しているが、声には押し殺しきれない興奮が滲み出ていて、目はギンギンにキマっていた。

「わかった! 速度上げるから、気をつけてくれよ。」

 そうして、更にアクセルを踏んで足跡を辿っていくと、すぐに先程の影が再び現れた。
流石に今度はショルダーの方が速いようで、影の姿が徐々に光の中に照らし出されていく。

 シルエットクイズのようにゆっくりと、その全体像が光の中に見えはじめると、オレの体は何かを思い出したかのように、ドワっと冷や汗をかいた。

「……ア、アイツだ……間違いない……」
「そうか……ついに……」

 そのままジワジワと距離を詰めると、ようやく全身がライトの中に収まった。

「……あれがキャンプでオレが出会った生き物だよ。……麒麟に間違いない?」

 蘇った恐怖心に声を震わせながら助手席に目をやると、テッサは巨大な体を豪快に疾駆させる獣の姿を食い入るように凝視したまま、ゆっくり口を開いた。

「あぁ……まさしく、父から聞いていた通りの姿だ。……はははははは……モドキ……」
「ど、どうした?」
「くくくく……信じる者は救われる……か……お前の言った通りになったぞ。」

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