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第二章 キリン探し
怪獣大戦争 ⑥
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地球B 27日目
AM 1時00分
麒麟の姿を捉えてから、テッサは初めて実物の飛行機を見た子どものようにハシャいでいる。
「フハハハハハ! 麒麟だ、麒麟だぞモドキ!」
「わぁかったってば……バカ腕力で肩をバシバシせんでくれよ……」
「デカイな! うん、あの姿ならお前が恐れおののくのも無理はない。」
「あぁ、今もおっかなくて胃液が上がってきてるよ……」
改めて見る麒麟の姿は、『怪獣』や『怪物』と呼ぶのがピッタリのイカれたスケール感で、今からアレと戦おうというのに、こうも嬉しそうなテッサもやはりイカれているのだろう。
「おい! もっと速く走れないのか!?」
「今で限界ギリギリだよ! ヤバイなアイツ、こんだけ飛ばしてんのにちょっとずつしか距離が詰まらないぞ。」
「ふっ、速さでショルダーと伍するとはな、流石と言ったところか。」
「伍するだと!? 道がアイツに有利なだけなんだからな! ちゃんとした道ならこの倍の速度だって楽に出せるんだこの子は!」
「なんだと!? ハハハハハハハハ! それはすまなかったなショルダー!」
「……お前……キャラおかしくなってんぞ……」
最高にハイなテッサにドンびきしながら、麒麟との高速追いかけっこを続けていると、しばらくして麒麟の尻まで残り十メートル程の所まで近付くことが出来た。
ただ近付いたまではいいけども、麒麟が止まってくれない事にはテッサも戦いようがないので、そのまま麒麟の後ろについて走る続けることにした。
全力疾走する麒麟の迫力は間近で見ると更に凄まじく、重機のような四足が大地を踏む度に『ドドド』と鈍い音が車内にまで響き、『跳ねる』というよりも『弾ける』といったような様子でドカンと前進したかと思うと、爆発的な推進力に比例して大量の土がオレたちめがけて飛んでくる。
明らかに象よりも質量のある体で、サラブレッドの如く躍動する様は『理不尽』としか言いようがなかった。
そうして、神々しくも恐ろしい出で立ちと、優雅でありながら荒々しくもある挙動を眺めていると、オレの胸には恐怖を超えた『畏敬』の念がこみ上げてきた。
「……すごいな……あんな生き物……生き物ってくくりでいいのかな?……神の使いというか……なぁ……」
「……あぁ。」
さっきまで大ハシャギしていたテッサの口数は減り、憧憬がこもったような熱い瞳で麒麟を見つめている。
「……よかった……」
テッサがポツリと呟いた。
「ふん? あぁ、やっと会えたもんな。」
「ふっ、もちろんそれもあるがな、それだけじゃない。……聞いていたとおりの……イヤ、聞いていた以上に力強く雄大な麒麟の姿が嬉しいんだ。」
これから戦おうって相手が思ってたより強そうでよかったなんて、なんともイカれたセリフだとも思えたが、そう言い放ったテッサは穏やかな笑みを浮かべていて、とてもツッコミができるような雰囲気ではなかった。
「……そういうもんなのかね……」
「あぁ……お前にも礼を言わねばならないな……」
「へ? オレぇ?」
「あぁ、私だけだったなら、麒麟を見つける事が出来たとしても、こうして追いかけることは出来ず逃げ切られていただろう。」
「それは……なんかそこまで素直に感謝されると気持ち悪いな……」
「ふふ……本当に感謝しているのだから仕方ないだろう。……今日は初めてお前に会えて良かったと思えたよ。」
優しい声色でそう言われると、突然胸の奥に冷たい感覚がこみ上げてきた。
オレはこの感覚の正体を知っている。
今までの人生で何度も経験したことのある、お馴染みの危険信号だ。
「……やめてくれ。」
「ん? 何をだ?」
「そうやってしおらしい事言ってないで、いつもみたいに憎まれ口叩いてくれって言ってんの!」
「はぁ? 一体何を言ってるんだ? せっかく人が今までの感謝を伝えようと……」
「だからそれがイヤだって言ってるんだよ! フラグ、じゃなくて……オレのいた世界じゃな、大事な戦いの前にそういうこと言うのは縁起が悪いことなの!」
オレがそう言うと、さっきまで天女のような笑みを浮かべていたテッサの顔は、瞬く間にいつもの阿修羅顔に変貌した。
「お前はつくづくおかしな所にいたんだな! 大事な戦いの前だから改めて礼を言うことの何が悪い!」
「それは素敵な心掛けだけども! お前みたいな暴れん坊のひねくれ者が素直に礼を言った後はロクな事にならないの! オレの長年の経験が危険を察知したの今!」
「経験だと!? はっ、ろくに戦闘を経験したこともない青二才が言うじゃないか?」
「青二才じゃありません~、ろくに戦闘を経験したこともないおじさんです~。」
「減らず口を……それになんだ? ひねくれ者の暴れん坊だと? 普段から私のことをそんな風に思っていたのか? わかった、麒麟を仕留めた後は貴様を叩き殺してくれる。」
「おーおーいいねいいねその感じ。神妙な雰囲気にならないのが肝心だよ。」
「訳のわからん事を……」
ベタな死亡フラグを回避すべく、なるべくひょうきんに口ゲンカを繰り広げた。
なんだかヒドく懐かしい気持ちになって、そのまましばらく言い争いを楽しんでいると、前方を走る麒麟の様子に変化が起きた。
「……なぁ、テッサよ……」
「なんだ? これ以上続ける気ならそれ相応の覚悟をしろよ。」
「いや、そうじゃなくて……麒麟さんがな、速度を落とし始めたぞ。」
「なんだと!?」
「ちょっとずつだけどな、ショルダーも減速させてるから間違いない。」
「そうか……ついにか……」
テッサがそう呟いたかと思うと、突然車内に寒気と共に息苦しい空気が満たされた気がした。
何事かと思って助手席に目をやると、テッサは拳を握りしめて麒麟の後ろ姿を睨みつけている。
漫画でお馴染みの『闘気』や『殺気』の類でも放っているのだろうか。
その謎のオーラに呼応してか、麒麟の走るペースは見る間に減速していき、ついには立ち止ってしまった。
そればかりか、麒麟はその場でクルリと振り返ると、オレとテッサに向かって「さっきからしつこいんだよ」と言わんばかりの怒気がこもった視線を送ってきている。
怒るのも無理はないのだろう。
延々とハイビームで照らされながら煽り運転を繰り返され、終いには不躾な殺気まで飛ばされたのだから、麒麟からすれば小動物にナメられて小馬鹿にされてるようなものだ。
すぐさまショルダーごとバラバラにされてしまうのかと思ったが、麒麟はその場に立ち止まったままオレ達を睨みつけている。
初めて見たショルダーを警戒しているのだろうか、それとも巷の強者特有の「とっとと降りてきて謝れ」のスタンスなのだろうか。
「……うぉえっ……ダメだ……おっかねぇ……また冷や汗ダクダクだよ…………本当にあんなのと戦うの?」
「あぁ。」
「お前がバカみたいに強いのはわかってるけどさ…………なんだ……そのぉ……大丈夫?」
「……わからんよ……」
「そうか……でも、行っちゃうんだよな?」
「あぁ……」
「だよなぁ……」
「……モドキ……」
「んん?」
「……ここまで連れてきてくれたこと、礼を言う。」
「バッ! だからそういう事を言うのは……」
「行ってくる。」
「ちょっ、おい! テッサ!」
オレの忠告を忘れて不安の種を一粒残したテッサは、助手席から降りて荷台から大剣を包んだ布を取り出し肩に担ぐと、そのままゆっくりと麒麟に向かって歩み始めた。
その背中には覚悟のようなものが滲んでいて、オレはたまらなくなってショルダーから飛び出し声を張り上げた。
「おいテッサ! 死ぬなよ! 絶対生き残れよぉ!」
我ながら、なんとも縁起でもない激励を送ったものだとすぐに後悔したが、その場で振り返ったテッサの顔には、爽やかな笑みが浮かんでいた。
その表情は、間違いなく今までオレが見たものの中で一番美しかった。
恐怖と不安とトキメキに胸を支配され、言葉を失い立ち尽くすオレに向かって、テッサはクスっと素敵に笑ったかと思うと、おもむろに口を開いた。
「なぁ、『勝て』と言ってはくれんのか?」
「……お、おぉ……勝て、勝っちゃえ! お前が生物最強だ!」
声援と共に、右手をサムズアップして差し出すと、オレの親指は小刻みに震えていた。
「クッ……ハハハ……バカめ……まぁ見ていろ。」
AM 1時00分
麒麟の姿を捉えてから、テッサは初めて実物の飛行機を見た子どものようにハシャいでいる。
「フハハハハハ! 麒麟だ、麒麟だぞモドキ!」
「わぁかったってば……バカ腕力で肩をバシバシせんでくれよ……」
「デカイな! うん、あの姿ならお前が恐れおののくのも無理はない。」
「あぁ、今もおっかなくて胃液が上がってきてるよ……」
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「おい! もっと速く走れないのか!?」
「今で限界ギリギリだよ! ヤバイなアイツ、こんだけ飛ばしてんのにちょっとずつしか距離が詰まらないぞ。」
「ふっ、速さでショルダーと伍するとはな、流石と言ったところか。」
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「なんだと!? ハハハハハハハハ! それはすまなかったなショルダー!」
「……お前……キャラおかしくなってんぞ……」
最高にハイなテッサにドンびきしながら、麒麟との高速追いかけっこを続けていると、しばらくして麒麟の尻まで残り十メートル程の所まで近付くことが出来た。
ただ近付いたまではいいけども、麒麟が止まってくれない事にはテッサも戦いようがないので、そのまま麒麟の後ろについて走る続けることにした。
全力疾走する麒麟の迫力は間近で見ると更に凄まじく、重機のような四足が大地を踏む度に『ドドド』と鈍い音が車内にまで響き、『跳ねる』というよりも『弾ける』といったような様子でドカンと前進したかと思うと、爆発的な推進力に比例して大量の土がオレたちめがけて飛んでくる。
明らかに象よりも質量のある体で、サラブレッドの如く躍動する様は『理不尽』としか言いようがなかった。
そうして、神々しくも恐ろしい出で立ちと、優雅でありながら荒々しくもある挙動を眺めていると、オレの胸には恐怖を超えた『畏敬』の念がこみ上げてきた。
「……すごいな……あんな生き物……生き物ってくくりでいいのかな?……神の使いというか……なぁ……」
「……あぁ。」
さっきまで大ハシャギしていたテッサの口数は減り、憧憬がこもったような熱い瞳で麒麟を見つめている。
「……よかった……」
テッサがポツリと呟いた。
「ふん? あぁ、やっと会えたもんな。」
「ふっ、もちろんそれもあるがな、それだけじゃない。……聞いていたとおりの……イヤ、聞いていた以上に力強く雄大な麒麟の姿が嬉しいんだ。」
これから戦おうって相手が思ってたより強そうでよかったなんて、なんともイカれたセリフだとも思えたが、そう言い放ったテッサは穏やかな笑みを浮かべていて、とてもツッコミができるような雰囲気ではなかった。
「……そういうもんなのかね……」
「あぁ……お前にも礼を言わねばならないな……」
「へ? オレぇ?」
「あぁ、私だけだったなら、麒麟を見つける事が出来たとしても、こうして追いかけることは出来ず逃げ切られていただろう。」
「それは……なんかそこまで素直に感謝されると気持ち悪いな……」
「ふふ……本当に感謝しているのだから仕方ないだろう。……今日は初めてお前に会えて良かったと思えたよ。」
優しい声色でそう言われると、突然胸の奥に冷たい感覚がこみ上げてきた。
オレはこの感覚の正体を知っている。
今までの人生で何度も経験したことのある、お馴染みの危険信号だ。
「……やめてくれ。」
「ん? 何をだ?」
「そうやってしおらしい事言ってないで、いつもみたいに憎まれ口叩いてくれって言ってんの!」
「はぁ? 一体何を言ってるんだ? せっかく人が今までの感謝を伝えようと……」
「だからそれがイヤだって言ってるんだよ! フラグ、じゃなくて……オレのいた世界じゃな、大事な戦いの前にそういうこと言うのは縁起が悪いことなの!」
オレがそう言うと、さっきまで天女のような笑みを浮かべていたテッサの顔は、瞬く間にいつもの阿修羅顔に変貌した。
「お前はつくづくおかしな所にいたんだな! 大事な戦いの前だから改めて礼を言うことの何が悪い!」
「それは素敵な心掛けだけども! お前みたいな暴れん坊のひねくれ者が素直に礼を言った後はロクな事にならないの! オレの長年の経験が危険を察知したの今!」
「経験だと!? はっ、ろくに戦闘を経験したこともない青二才が言うじゃないか?」
「青二才じゃありません~、ろくに戦闘を経験したこともないおじさんです~。」
「減らず口を……それになんだ? ひねくれ者の暴れん坊だと? 普段から私のことをそんな風に思っていたのか? わかった、麒麟を仕留めた後は貴様を叩き殺してくれる。」
「おーおーいいねいいねその感じ。神妙な雰囲気にならないのが肝心だよ。」
「訳のわからん事を……」
ベタな死亡フラグを回避すべく、なるべくひょうきんに口ゲンカを繰り広げた。
なんだかヒドく懐かしい気持ちになって、そのまましばらく言い争いを楽しんでいると、前方を走る麒麟の様子に変化が起きた。
「……なぁ、テッサよ……」
「なんだ? これ以上続ける気ならそれ相応の覚悟をしろよ。」
「いや、そうじゃなくて……麒麟さんがな、速度を落とし始めたぞ。」
「なんだと!?」
「ちょっとずつだけどな、ショルダーも減速させてるから間違いない。」
「そうか……ついにか……」
テッサがそう呟いたかと思うと、突然車内に寒気と共に息苦しい空気が満たされた気がした。
何事かと思って助手席に目をやると、テッサは拳を握りしめて麒麟の後ろ姿を睨みつけている。
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そればかりか、麒麟はその場でクルリと振り返ると、オレとテッサに向かって「さっきからしつこいんだよ」と言わんばかりの怒気がこもった視線を送ってきている。
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「あぁ。」
「お前がバカみたいに強いのはわかってるけどさ…………なんだ……そのぉ……大丈夫?」
「……わからんよ……」
「そうか……でも、行っちゃうんだよな?」
「あぁ……」
「だよなぁ……」
「……モドキ……」
「んん?」
「……ここまで連れてきてくれたこと、礼を言う。」
「バッ! だからそういう事を言うのは……」
「行ってくる。」
「ちょっ、おい! テッサ!」
オレの忠告を忘れて不安の種を一粒残したテッサは、助手席から降りて荷台から大剣を包んだ布を取り出し肩に担ぐと、そのままゆっくりと麒麟に向かって歩み始めた。
その背中には覚悟のようなものが滲んでいて、オレはたまらなくなってショルダーから飛び出し声を張り上げた。
「おいテッサ! 死ぬなよ! 絶対生き残れよぉ!」
我ながら、なんとも縁起でもない激励を送ったものだとすぐに後悔したが、その場で振り返ったテッサの顔には、爽やかな笑みが浮かんでいた。
その表情は、間違いなく今までオレが見たものの中で一番美しかった。
恐怖と不安とトキメキに胸を支配され、言葉を失い立ち尽くすオレに向かって、テッサはクスっと素敵に笑ったかと思うと、おもむろに口を開いた。
「なぁ、『勝て』と言ってはくれんのか?」
「……お、おぉ……勝て、勝っちゃえ! お前が生物最強だ!」
声援と共に、右手をサムズアップして差し出すと、オレの親指は小刻みに震えていた。
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