異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

文字の大きさ
245 / 247
ガンガルシア王国編

最終話 主人公、未来を選ぶ

しおりを挟む
 

「ソラ、戻ってきたんだね!やっぱりその姿の方が可愛いよ!」
 ティアが何でもないことのように言う。

 ティアが平然としているということは、これがソラの本当の姿?

「ふふっ。タクミの言った通り、時代は進んでいた。紋章システムの知識ですっかり元気になったよ。すり減った魂のチカラは戻らないけど、身体の方は元通り。」

「……。ソラだか?」

 タムのつぶやく声が聞こえる。
 うん、分かるよ。ビックリするよね。僕達と農場を駆け回ってたソラと同じ顔だけど、まるで別人だ。

「タイジュ。ここまできたら、本当のことをみんなに話すしかないよ。」

 ソラの説得するような言葉に、タイジュは悔しそうに口を開く。

「いま、新しい紋章システムの開発をジルと進めているが、時間がかかりそうなんだ。作ろうとしているのは、全く新しい紋章システムになる。今の紋章システムが正常に動かなくなるまでの残りは約6年。それまでには完成しそうに無いんだよ。」

「ということは、どういうことです?」

 ライルの疑問にソラが即座に答える。

「結局、今の紋章システムの寿命を伸ばすしかないってこと。タイジュがジルと開発に取りかかってから、ボクは別のことを模索した。各地で発生している異常種のことを考えると、残りは6年もないかもしれない。だから、ボクは今の紋章システムの寿命を伸ばす方法を探したんだよ。」

「それは見付かったのですか?どうしたら継続できるのですか?」

「タクミ。タクミがボクにチカラをくれたことを覚えてる?あれの応用だよ。紋章システムの核になっている姫の身体にチカラを注ぎ込むの。でもそれには、チカラをずっと与える必要がある。」

「ずっとって?まさか?」

「そうだよ。この城で姫と同じように眠りにつくしかない。ボクはその具体的方法を考案した。考案したボクには責任があるからね。ボクが眠りにつくよ。その間に、新しい紋章システムを開発してくれればいいよ。」

 ソラは、タムの方を決して見ようとしない。
 きっと、決心が鈍るからだ。

 僕はこの城に来るまでに、ある人に運命の相手のことを詳しく教えてもらっていた。

 運命の相手とは、魂の伴侶。惹かれ合う宿命をもった相手のこと。そんな相手と目が合ってしまえば、好きだという気持ちが溢れてしまう。だからソラは、タムを見ないようにしている。

 そこまで好きだと思える相手に出会えたのに眠ることを選ぶなんて、間違ってるよ。

「ソラ。ソラの案には僕は反対だよ。その役目は僕が引き受ける。」

「なっ、何言ってるの?ボクの方がチカラが強いって言ってる!タクミには無理だよ!」

「いや、それは違うな。ソラの考案した方法は、あくまでも姫のチカラを補助するだけのもの。タクミにも十分可能だ。」

 タイジュの指摘に、ソラが黙る。

「やっぱりね。僕はここに来る前、ドラゴンの家にいた。そこで、アズマにある術を教えてもらっていたんだよ。」

「アズマ?龍王のことか?あのオッサン、まだ生きていたのか?」

 龍王の記憶があるタイジュが驚いている。

「もう亡くなってるよ。でも、建物に染み付いた記憶が残っていて、いろいろなことを教えてくれるんだ。偉大な方だよ。」

 アズマは「ソラの幸せを願っている」と言い、僕の無茶なお願いにも、快く応じてくれた。

 ドラゴンにとって、運命の相手との出会いは本当に奇跡なのだという。運命の相手と出会ったのに、別れることを選んだドラゴンはいない。なのに、ソラはそれを選ぼうとしている。

「タクミ。新しい紋章システムの開発には、どれだけの年月がかかるか分からない。タクミはこの世界でいろいろな人に出会った。目覚めた時には、もうその人たちは居なくなってるかもしれないんだよ?それはダメだよ。ボクは長命なドラゴンだからね。そんなことはよくあること。だから、ボクの方が適任だよ。」

 ソラはあくまでも自分が眠りにつくつもりだ。
 でも目覚めた時に、運命の相手であるタムがこの世界から居なくなっていたら、哀しむのはソラだ。それにタムの身体のこともある。

「いや、僕がそうするって!」
「ダメ!タクミには任せられない!」

 僕とソラで言い合いになっていると、タムの大きな声がした。

「ソラはダメだべ!ソラはオラと夫婦になるんだから!タクミ、ごめんだべ。ソラとタクミはどちらも、オラにとって大切な人だ。でも。でもオラは、ソラが好きだ!居なくなるのは、耐えられない!」

「あらぁ、すごい告白ねぇ。」
 イリスの茶化すような言葉にも構わず、タムは続ける。

「オラはソラががどんな姿でも好きだべ。ソラと会えなくなってから、胸にぽっかりと穴があいたような気持ちが続いた。オラには、それがどういう意味なのか分からなかったべ。だから、経験豊富なおっ父に相談した。おっ父は言っただ。もう一度ソラに会った瞬間に嬉しくて苦しくなって、ずっと一緒にいたいと思ったら、それが好きだということだ!って。」

「タム…。」
 ソラがタムを見つめている。
「だって、タムはボクのこと嫌いになったと思って…。」

「嫌ってなんか無いだよ!あれは…。ソラがあんなことをするから…。」

 ソラとタムは見つめあって、モジモジしている。

 はぁ、そうだった。二人とも恋愛初心者だったな。お互いに相手の気持ちが分かってなかっただけか…。

「恋愛で大事なのは、素直になることよぉ。駆け引きなんかダメ。そんなの時間のムダよぉ。好きな人には素直に好きって言えばいいの。ソラもタムも自分の気持ちに素直になりなさいね。」

 さすがは、愛の国の王様。説得力がある。

「でも。それだと、タクミが犠牲に…。」
 泣きそうなソラに向かって僕はニッコリと笑う。

「大丈夫!僕には秘策があるから!これは、ミライっていうパートナーがいる僕にしかできないことなんだよ。だからソラは安心して、タムと幸せになってほしい。」

 こうして、僕は眠りにつくことになった。
 この世界は素晴らしい世界だ。そして、この世界に暮らしている人々が好きだ。だから、この世界を守りたい。
 僕はこの世界のすべての国を見て体験して、自分にしかできない仕事、誰かに必要とされる仕事がしたいと思っていた。その願いが叶ったのだ。




 ◇◆◇ エピローグ ◇◆◇

「タム。身体の調子はどう?」

「タクミ!久しぶりだべな!もうすっかり元気だべ!今日は会いに来てくれて嬉しいだよ!いま、ソラを呼んでくるから、少し待つだ。ソラはいま、裏の畑で野菜を収穫してるだよ。タクミに美味しいものを作るって張り切っていただ。」

 僕はミライと、タムとソラの家に遊びに来ていた。

「良かったよ。タムとソラは上手くやってるようだね。それに、タムもこれ以上病気になる心配はないし。」

 あれからタムはソラと結婚した。ドラゴンにとっての結婚は、お互いの魂を分け合うこと。精霊王と王妃がそうだったように、タムが死ねばソラも死ぬ。でも、強いチカラのソラと魂を分け合ったことで、タムの病気の原因はすべて吹き飛んだようだ。しかも、ソラは長命。魂のチカラがすり減っているとは言え、ヒトより長生きになるのは間違いない。それでも、タムはそれを受け入れた。

『その方が、タクミとも長く一緒にいられるべ』と笑っていた。

「タクミ、タムが元気そうで良かったね。明日は誰のところに行く?」

 ミライの言葉に即答する。

「ミライが行きたい場所でいいよ!僕はミライが居ないと、どこにもいけないんだから!」

 そう。僕の本体は精霊王の城で眠っている。
 いまここにいる僕は分身体。僕と繋がっているミライがいるから、僕は前と変わらずに動くことができる。

 アズマに相談して教えてもらったのは、精神を移す術。アズマはまだまだ未熟な僕には無理だと言ったのだが、ミライの存在によってそれが可能になった。ソラの分身体と違い、時間制限もない。

 ミライという存在がいる僕だから、出来ることだ。もちろん、ご飯を食べることもできる。

「この世界のみんなは幸せそうだよね。この世界に移住することができて良かったよ。ミライとも会えたしね。」

「あい!僕もタクミと会えて嬉しいよ。そうだ!そろそろアースの日本に行ってみたいな!タクミが生まれた場所!」

「そうだね。行ってみようか。でもこの状態でも行けるのかな?」

「大丈夫だぞ!ボクが一緒に行ってあげる!」
 畑から戻ってきたソラが、僕とミライの話を聞いていたようだ。
「ダメだべ!もうすぐ予定日だ!大人しくしていてほしいだよ。」
 タムが慌てて、ソラに釘をさす。

 タムに言われて、大きなお腹をさするソラの顔はとても幸せそうだ。

 運命の相手との子供は、純血のドラゴンになる。もうすぐ、僕とソラの同族が産まれる。この世界にドラゴンが増えるのだ。こんなに嬉しいことはない。

「ミライ、今日も平和で良かったね。」
「あい!」

 タムとソラの子供達のおかげで僕は長い眠りから解放されることになるのだが、それはまた別の話だ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...