異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

文字の大きさ
1 / 247
序章

1話 主人公、仕事をクビになる

しおりを挟む
 

 今日、会社をクビになった…。

『こんな仕事もできないのか!お前は何をやらせてもダメだな!いつまで会社に迷惑をかけたら、気がすむんだ!』

 その会社には、毎日のように罵声ばせいを浴びせる上司がいた。

 資格も技能もない僕を採用してくれる会社は無く、何社も落ちた。中途採用って、こんなに難しいんだ…。心が折れそうになっていたところで、やっと採用された会社だ。我慢するしかなかった。

 それなのに…。
『田中!お前には責任を取ってもらうからな!これだから、中途採用は…。』
 上司は僕を見下した目で見て、周りに聞こえるように大きな声をだした。辞表を出せってことなんだろうな…。

 どうして、こんなことになっちゃったんだろう…。



 僕の名前は田中拓海。
 ソコソコの大学を卒業後、ソコソコの会社に就職し、充実した生活を過ごしていた。ところが入社から5年後、僕を育ててくれた祖母が病気で倒れた。両親と祖父は、僕が小さい頃、同じ事故で亡くなり、それから祖母が僕を育ててくれた。3人の死亡保険金があったが、祖母はそのお金をほとんど使わず、働いて僕を大学まで行かせてくれた。ときには父親がわりとなって、本気で叱ってくれる豪快な祖母だった。そんな祖母が倒れ、一命は取り止めたが半身不随となり、記憶障害が残った。

『私は死ぬまでこの家にいたいねぇ』
 倒れる前、祖母はずっとそう言っていた。施設に入れることは、考えもしなかった。この家で面倒をみようと思った。

 しかし、勤めている会社は残業も多い。介護との両立は無理だった。

 今度は僕の番だよね…。

 育ててくれた祖母に恩返しがしたい。ソコソコの貯金はあるし、手付かずの保険金もある。

 僕は祖母の介護をするために、会社を辞めた。祖母をこの家で最期まで面倒みると決意し、不自由なく生活できるように、そのお金で家をリフォームした。

 祖母が倒れてから、3年。祖母は眠るように息を引き取った。

 祖母は病気の影響で、最期の方は寝たきりとなり、僕が誰かもわからなくなっていた。

 余程ひどい顔をしていたのだろうか?葬儀社の人が「床ずれもなく綺麗なお身体です。しっかりお世話なさったのですね。感謝されていたと思いますよ。」と声をかけてくれた。
 僕がしたことは無駄ではなかった?
 祖母は喜んでくれていた?
 涙が止まらなかった。

 僕は祖母が亡くなって、一人になってしまった悲しみより、正直、ほっとしていた。誰かの面倒を一人でみるってこんなに大変なんだな。一人で子育てしているお母さんが育児ノイローゼになって…って聞くけど、精神的にツライ気持ちは共感できる。介護も育児も一人きりではダメなのだ。僕もおかしくなりそうだった。

 仕事をしよう!人と関わる仕事をしよう!そう思った僕は、祖母の死後、仕事を探した。40才超えてると再就職は厳しいって聞いたことあるけど、僕はまだ30過ぎだし、いくらでも見つかるよな。
 そんな気軽な考えで、再就職活動を始めたが、期待に反して、なかなか就職できなかった。何社も何社も受けては採用されずを繰り返しているうちに、自分は無能で価値がないと感じるようになっていた。

 そんな中で、やっと採用された会社を今日、クビになったのだ。

 自分ってなんて無能で無価値なんだろう…。やっと採用された会社だったのに。再就職してから、まだ2年だよ。2年でクビって…。

 上司や同僚に言われるままに資料作り、取引先の無茶な注文の対応、などなど、引き受けてきたのに…。ほとんど家に帰らず、がむしゃらに働いたのに…。

 早く認めて貰おうと頼まれた仕事をこなしていたが、それは上司や同僚の手柄となり、自分は何もしていないことになっていた。

 おかしいなって気づいたときは、もう自分の身体はボロボロになっていた。よく眠れないので、ミスが多くなり、上司から、さらに罵声が飛んだ。

『お前は何してたんだ!こっちに不利な契約だろ!お前の確認不足だ!』
 僕、ちゃんと確認しましたよ。でも、ちょっと不利でも今後のことを考えたら、このままの条件で契約した方がいいって言ったのは上司で…。

『こんな仕事もできないヤツは、何をしてもダメなヤツなんだよ!お前、そんなんでよく会社来れるな!俺なら恥ずかしくて無理だぞ!』

 もう会社に来るなってことなんだな…。家に帰っても一人だし…。僕は要らない人間ってことだ。誰からも必要とされない僕は生きてる意味があるのかな?
 もう、わからないや…。
 よく頭が働かない。
 何日寝てないんだっけ?


 気づくと、会社からの帰路にある橋の上で、ぼんやりと川面を見つめていた。

 もう、どうでもいいや…。唯一の家族だった祖母も、もういない。自分なんて、生きてても仕方がない…。もう消えてしまいたい…。

 そんな考えに囚われている僕は、背後にある大きな黒い影が大きくなっていることに全然気づかなかった…。
 影は僕を飲み込み、もっと大きな影になり…。周りを巻き込むように、大きな球体の影が出来上がった。それはまるで小さなブラックホールのようだ。

「お前、何をしているのじゃ?」
 鈴の音のような可憐な声がした。声の主はびっくりするくらいの美少女だった。

「僕は…別に…何も…」

「まだ意識があるのか?なぜこうなったのか分かるか?」

「仕事をクビになって…。僕は無価値で、誰からも必要とされないから…。消えてしまいたくて…」

「仕事をクビになったから、か。いいか、この国の仕事なんてのは金を稼ぐ手段だ。それ以上でもそれ以下でもない。仕事ができる、できない、で人の価値は決まるものではない!」

「でも僕は…。誰かに必要とされたくて、頑張ったんだ。仕事が無かったら、誰も僕のこと、必要だと言ってくれない…」

 影はますます大きくなる。

「仕事をクビになっただけじゃろ!そんなことで消えてしまいたいとは!」

 そんなこと?
 僕の中で何かが弾けた。
「そうだよ!僕はそんなことで消えてしまいたいんだよ!僕は、ダメなヤツだから!!」
 ギッと美少女を睨んだその瞳が一瞬金色に輝いた。

 怒鳴り声と共に影が一段と大きくなり、空にぽっかりと不思議な穴があく。穴の向こうには、この世界とは全く違う景色が広がっていた。なんだろう、と思う間も無く、僕はその穴に吸い込まれていった。

「マスター。扉が開きました。追いかけますか?」
 美少女の後ろから淡々とした声がする。そこには美少女と同じくらい綺麗な20代くらいの美女いた。ただし、手に大きな鎌を持っている。その姿はまるで死神のようだ。

「セシルねえさま。また地雷を踏んでしまいましたね?」
 さらにその後ろから、可愛らしい子供の声もする。ピョコっと顔を出したのは、セシルと呼ばれた美少女よりは年下に見えるが、これまた可愛らしい少年だった。

「いやっ、その…。こちらの言葉は難しいのぅ。」
「セシルねえさま。反省は後にして、追いかけますよ。ただし、攻撃は禁止です。特にエル。手出し無用で頼むよ。」
 美女にむかって目配せする。

「トール。何かを感じたのか?」
「はい。ただ、はっきりしたものではなかったので。」
「向こう側へ行けば、何かわかるということじゃな?」
「はい。セシルねえさま。向こうには、ガルシア様をお呼びしてあります。間に合うと良いのですが。」

 そう言うと、セシル、トール、エルの3人は空にぽっかりと開いた穴に飛び込んだ。穴は3人を飲み込んだ後、何事もなかったかのように消え去った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

処理中です...