12 / 247
アース編
11話 主人公、おじさん扱いされる
しおりを挟む公園から出ると、千代が荷物を持ったまま、待っていてくれた。
「グールの香りがほのかにするね。またグール狩りをしないとねぇ。」と、のんびりな口調で千代が言う。
「千代さん、とりあえずセシルねえさまに報告です。急いで戻りますよ。」
千代とは対照的に、トールが厳しい顔つきで言う。
マンションに急いで戻ると、セシルの部屋に見慣れない2人が居た。
「戻ったか、田中よ。この2人と会うのは初めてじゃな。この2人は…。」
セシルが紹介しようとすると、
「へぇー、これがタクミ?普通じゃん!」
「ホントにドラゴンなの?変現してよ!変現!」と、2人が食い気味に話し出す。
「えぇーい!お前ら、うるさいぞ!少しは落ち着きというものをじゃな!」
「ねぇねぇ、タクミって何歳?」
「先祖返りってホント?」
セシルの話は聞いていないようだ。
なに?この自由な2人は?見た目は中学生くらいの、とてもよく似た2人だ。双子かな?
「リオン、シオン、いい加減にしなさい!」
エルの一喝で2人がやっと黙る。
エル、帰ってきてたんだ?
「マスター、申し訳ありません。」
エルが、シュンとなっている。
「良い。我の言うことを聞かないことは、わかっておる。だから、エルに迎えに行ってもらったのじゃ。」
「田中よ。この2人は、リオンとシオン。我の王宮で働いておる。田中の先輩じゃ。」
「はじめまして。リオンさん、シオンさん。よろしくお願いします。」
見た目は中学生でも、先輩というからには、"さん"付けだろう、と挨拶してみたが。
あれっ?反応がない?
「うわ~、タクミって堅苦しいね~。」
「うんうん、マジメ過ぎって感じ~。」
「見た目、若そうだけど、中身はおじさんだね~。」
「さん付けとか、引くわ~。普通にリオンとシオンって呼んでよ。」
おっ、おじさんって言われた…。童顔のせいで、そう呼ばれたことないから、逆に新鮮!少し頬が緩んでしまう。
「うわっ、おじさんって呼ばれて喜んでるよ。マジ引くわ~。変態だな。」
「いやっ、違いますよ。僕、35歳ですけど、おじさんって呼ばれたことなかったから、新鮮で。」
2人に向かって、弁解する。
「タクミって35歳なの?」
「なんだ、全然ガキじゃん!ツマラナイの。」
見た目、中学生くらいの子達にガキって言われた。なんかショック。
「田中よ。すまんな。この2人はホビット族の血が濃くてな。見た目は若いが、寿命が長くてのぅ。今はたしか。」
「156歳です。」エルが答える。
「ホビット族の寿命は、約300年ほどじゃからなぁ。」
セシルが疲れたような顔で僕とトールを見る。
すると、そのやり取りを呆れたような様子で見ていたトールが口を開いた。
「セシルねえさま。あのグールの本体を見つけましたよ。坂本月子の姉、陽子に憑いているようです。ただ、憑いているというより、融合?共存?とにかく、今まで見た事もない状態です。」
「そうか、やはりのぅ。まぁ、そのためにリオンとシオンを呼んだのじゃ。2人には陽子が通っている中学校に潜入してもらう。陽子の近くで観察するのじゃ。良いな!」
セシルが2人を見るが、全然聞いていない。
「リオン!シオン!マスターの話を聞いていましたよね?返事をしなさい!」
「「はいは~い。了解!」」
エルに言われて、やっと返事をする。さすが双子。見事にハモっている。
「エル、通う学校の制服は準備してあるかのぅ?」
「はい、男女の制服を用意してあります。」
あっ、あの2人は男の子と女の子なんだ。
「えぇっ?ヤダよ!僕も女の子の制服がいい!リオンと一緒がいいよ~!」
はぁ、っとエルがため息をつく。
「仕方ありませんね。シオンの容姿なら女の子の制服でも大丈夫でしょう。マスター、いいですか?」
「良い良い。では、2人とも頼んだぞ。」
「「は~い!」」
元気な返事。
セシルもエルも疲れた顔してるよ。
この2人が苦手なんだな。
エルが2人を僕が用意した部屋に連れていくと、セシルの部屋が急に静かになった。
「田中よ。スマンのぅ。我、あのノリにはついていけなくてのぅ。あやつらと話していると疲れるのじゃ。」
「あの2人はね。自分より年上の人の言うことしか聞かないのよ。セシルさま、ごめんなさいね。お役にたてなくて。」
千代が申し訳なさそうに言う。
そうか、あの2人は千代さんより年上!エルは746歳!だから、セシルはエルを迎えに行かせたんだ!
「良いのじゃ。我が頼りないから、あの2人は言うことを聞かないのじゃ。我の不徳の致すところ。」
不徳の致すところって…。セシルさまって、こういう慣用句、好きだよね。
「我、この姿に転生する前はホビット族だったのじゃ。まぁ、ホビット族と言っても、普通に60過ぎまで年を取ってから、ホビット族の血が発現してな。姿はジジイのままで、289歳で死んだのじゃよ。200年以上この口調だったから、転生してからもこの口調が抜けなくてのぅ。
あの2人は、前の我が王宮に連れてきたのでな。前の我に懐いていてのぅ。転生後の我のことは、まだ主人と認めておらぬのじゃよ。まぁ、転生しましたと言われても、すぐには納得できないのじゃろう。」
「転生ってどんな感じなんですか?前の人生の記憶があるってことですよね?」
僕は疑問を口にする。
「そうじゃなぁ。田中は伝記を読んだことはあるか?」
「有名な偉人とかの生涯を書いた本のことですか?小さい頃、何冊か読みましたよ。」
「我は物心ついた頃、そうじゃなぁ。3歳くらいかのぅ。その頃に思い出すのじゃよ。今まで転生してきた回数分だけの伝記を読んだ感覚でな。それぞれの人生で得た知識、経験が蘇るのじゃ。
どこで生まれて、何を成して、そしてどのように死んだか、をな。ただ、戦争も多かったから、殺されて死んだこともあったがのぅ。そのことも記憶しておる。」
「殺されたって…。」
「転生者は特別な力がある訳ではないからな。強大な力の前では我は無力じゃ。」
僕の不安な表情を見たセシルは、僕を安心させようとワザと明るい口調で言う。
「大丈夫じゃよ。怨みの感情は無い。感情まで受け継いでおったら、我は世界を滅ぼしておっただろうがな!」
笑いながら言うが、表情は少し悲しげだ。
「特に、すぐ直前の人生はよく覚えておるからのぅ。こうして、口調やクセが抜けなくなることもある。が、転生前と転生後は、全く別の人物じゃ。だから、前の我が死ぬと同時に前の仲間は辞めるのがほとんどじゃ。
我の王宮に残ったのは、エルとチヨとリオンとシオンの4人。それ以外は、今の我がスカウトしたのじゃ。ちなみにノアが王宮に来たのは、我が5歳の時だったのぅ。」
「…、準備できた…。」
セシルの話に耳を傾けていた僕の真後ろから、突然、声が聞こえる。
ビックリした!
ノアくん!気配もなく背後に立つのはやめて!心臓に悪いよ!
「さすがノアじゃ。仕事が早いのぅ。リオンとシオンは明日から通えるな?」
「セシルさま。まさかとは思いますが。何か不法な事を?」
「田中よ。我らは異世界の住人だ。そのままでは、困るじゃろう?戸籍を取るのに、ちょいと細工をしておるだけじゃ。ノアにパソコンを買い与えて良かったのぅ。ネット社会万歳じゃ!簡単に細工できるようになったからのぅ。」
はぁ、やっぱり何かやってたんだな。
「田中よ。ため息をつくな。我らは健全な異世界人じゃ!ちゃんと税金も納めておる。このマンションは前の我からの遺産相続じゃ。相続税をたんまりと払ったわ!前の我と今の我は祖父と孫、ということになっておる。エルが前の我の娘という設定じゃ!だから、このマンションの本当のオーナーはエルなのだ!エルに逆らうと追い出されるぞ。気をつけることじゃ。」
セシルが意地悪そうな顔で言う。
「そうです。気をつけるように!」
またもや、背後から声が!エルだ!
だから、気配もなく背後に立つのはホントやめて。
「マスター、リオンとシオンには、何かあったらすぐ連絡するように言い聞かせましたので。」
「では、リオンとシオンの連絡待ちじゃな。ノア、チヨ、エル、いつでも動けるように準備しておくのじゃ。」
セシルがそう言うと、トールが口を開く。
「セシルねえさま。ねえさまも明日は学校に行ってくださいね。月子を近くで観察してほしいのです。グールの一部が纏わりついて、不安定な状態です。月子がイジメられてるところを見ました。」
トールが厳しい顔つきで言う。
セシルは少し考えた表情をする。
「また、彼奴らか。」
僕は、公園で見た光景を思い出し、セシルに訴える。
「そうですよ!あの子たちは何なんですか!月子ちゃんのランドセルを乱暴に扱って、中の物が散乱してたんですよ。なのに、ふざけてただけって。」
「彼奴らはのぅ。恐ろしいことに、悪いことをしているという感覚が本当に無いのじゃよ。」
あの状況を思い出していた僕は驚愕する。イジメてる感覚がないって?
0
あなたにおすすめの小説
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした
☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。
日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。
フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ!
フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。
美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。
しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。
最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる