異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

文字の大きさ
33 / 247
セシリア王国編

30話 主人公、ホームを見学するー2

しおりを挟む
 


 そんな話をしていたライルが何かに気付いたように、視線を一人の子供にうつす。

「ハル、ちょっとこっちに来てくれる?リーネを抱っこしたままでいいから。」

 ライルは一人の少年をこちらに呼ぶ。その子は、1歳くらいの赤ちゃんを抱っこしている。

「ライル、何か用?」

「タクミ達に紋章の説明もしようと思って。ハル。君の紋章を見せてくれる?」

「あぁ、これ?もうすぐ生まれると思うんだけど。早く会いたいなぁ。」
 ハルと呼ばれた少年は嬉しそうに左手の甲を見せてくれた。

 前に見た朔夜の紋章とは、違う紋章だ。

「タクミ、これは、セシリア王国の紋章だよ。エレメンテで産まれた子供は、全員、最初にセシリア王国の紋章を貰うんだよ。ハル、リーネの左手を見せて。」

 本当だ。こんなに小さい赤ちゃんの手にも紋章が見える。

「紋章システムの精霊は、0歳から10歳くらいまでは存在しません。だから、紋章システムは使えないのです。」

「使えないってことは、何でも好きなものを出して貰えないってこと?」

「紋章システムが使えるのは、仕事をしている大人だけです。だから、子供達は自給自足の生活をしているんだよ。でもこれは必要なことなんだ。何でも自分で出来ないと、将来困ることになるのはその子だからね。」

「はぁ。厳しいんですね。」

「便利なものを利用するには、使用する本人が賢くなくてはいけないからだよ。便利な道具が全てやってくれるとなると、人はドンドン退化していくからね。」

「なるほど。」

「だから、子供達の精霊は10歳になるまでは、紋章の中で眠っている。言わば、卵の状態です。10歳までの期間にその個人の嗜好や行動パターンを読み取り、個人差はありますがだいたい10歳くらいに精霊が誕生します。このハルは10歳なので、そろそろ精霊が誕生する頃なのですよ。ハル、楽しみだね。」

「うん!早く会いたいなぁ。僕の精霊はどんな子なんだろう?」

 ハルが嬉しそうに左手を見ている。

「お姉ちゃん、あの子の左手!」
 月子がハルの左手を凝視している。
「そうだね。ちょっとお手伝いしてみようか。」
 陽子はそう言うと、ハルに近づく。

「初めまして、ハル。私はヨーコって言います。ちょっと左手見せてくれる?」

「こんにちは、ヨーコ。いいよ。」
 ハルは陽子に左手を差し出す。

 陽子はハルの左手の甲に手を添えると、左手が淡く光り出した。

「えっ!なに?これ?」
 驚いているハル。すると、突然、何かが出現した。

「はじめまして、ハル。僕がハルの精霊だよ!」
 出現したのは、小さなタヌキだった。

「あっ!ハル、よかったね。精霊が生まれたよ。それにしてもタヌキか。ハルはもしかしたら狐狸族こりぞくの血が強いのかもしれないね。」

「わーい、はじめまして。僕はハルだよ。よろしくね。」
 ハルがタヌキに向かって、挨拶している。
「知ってるよ!僕はハルの精霊だよ。ハルのことなら、なんでも知ってる!これから、ずっと一緒だよ。」

 喜ぶハルと精霊だが、その時ハルに異変が起きる。ポムッという音と共に、ハルにタヌキの耳と尻尾が現れたのだ。

「やっぱり、狐狸族だ。」

「どうなってるの?僕、普通のヒト種の血が強いと思ってたのに。」
 ハルも驚いている。

 確かにさっきまでのハルには、耳も尻尾もなかった。この光景に僕達もポカンとなる。

「ハルは知らないだろうけど、ハルが寝てる時に耳と尻尾が出てることがあったんだよ。」
 ライルがハルに教えている。

「狐狸族は、耳と尻尾を隠すのが上手な種族でした。見た目は普通のヒト種です。アースにも、似たような話がありますよね。狐と狸に化かされるというヤツだよ。」

「日本昔ばなしで見たことあります!」
 タクミは、おじさん的模範解答の返事をする。

「アハハ。タクミって面白いね。ヨーコとツキコは分からないと思うよ。それ。フハハッ。」
 ライルは笑いが止まらないようだ。

 そんなに面白かったかなぁ?確かに陽子と月子は、知らないと思うけど、昔、そういう子供番組があったんだよ!

 ライルはしばらすると、笑いがおさまったようで、話を続ける。
「精霊が生まれると、心と身体が安定して、自分の中の血が発現することが多いんだ。だいたいは、成人までにわかるけどね。だから、前のセシルさまみたいにお爺さんになってから、妖精種の血が発現することは珍しいんだよ。まぁ、王には精霊がいないから、その影響もあったと思うけどね。」

「僕は狐狸族なの?」

「そうだね。訓練で耳と尻尾も上手く隠せるようになるよ。」

「そうなんだ!楽しみだなぁ!」
 喜ぶハルを見ていたライルが、陽子に聞く。
「ヨーコ、ハルの紋章に何かしたの?」

 陽子がハルの左手を触った途端に、精霊が誕生した。今までこんな事は、見たことがない。

「精霊が生まれたそうにしてたから、お手伝いをしてみたのだけど。」
「うん!周りの精霊達がね。もうすぐだよ、もうすぐ会えるよって言ってたの。」
 陽子と月子が、口々に言う。

「さすがシルフの娘達ですね。セシルさまに聞いていた通り、色々と規格外のようだね。やはり、あちらのホームに入れるしかないかな?」

 ライルのひとり言のようなつぶやきが聞こえる。

「じゃあ、ハル。精霊に名前をつけてあげると、もっと喜ぶからね。考えてあげてね。僕達はこれから、ホームノワールに行くから。」

「えっ!ヨーコとツキコはノワールに入るの?そうなんだ!頑張ってね!」
 ハルはホームノワールと聞いて、少し不安そうな顔をして、言う。

 何かあるのかな?ハルが、"頑張ってね"をものすごく強調している。僕達は、少し不安になりながら、ライルの後について行くのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

不遇スキル『動物親和EX』で手に入れたのは、最強もふもふ聖霊獣とのほっこり異世界スローライフでした

☆ほしい
ファンタジー
ブラック企業で過労死した俺が異世界エルドラで授かったのは『動物親和EX』という一見地味なスキルだった。 日銭を稼ぐので精一杯の不遇な日々を送っていたある日、森で傷ついた謎の白い生き物「フェン」と出会う。 フェンは言葉を話し、実は強力な力を持つ聖霊獣だったのだ! フェンの驚異的な素材発見能力や戦闘補助のおかげで、俺の生活は一変。 美味しいものを食べ、新しい家に住み、絆を深めていく二人。 しかし、フェンの力を悪用しようとする者たちも現れる。フェンを守り、より深い絆を結ぶため、二人は聖霊獣との正式な『契約の儀式』を行うことができるという「守り人の一族」を探す旅に出る。 最強もふもふとの心温まる異世界冒険譚、ここに開幕!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...