異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味

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フラルアルド王国編

80話 主人公、スカラに行くー1

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 リオンとシオンを呼びに行こうとする僕に、ミライが声をかける。
「タクミ!リオンとシオンには連絡したから、サクラとモミジに事情を説明してきて!」

 了解!
 甘えん坊だったミライが、急に大人になったような変化に戸惑うが、その言葉通りに下へと向かう。
 途中でリオンとシオンにすれ違う。

「ジルをお願い!僕はサクラとモミジに説明してくるから。」

 双子はうなずくと、ジルの部屋に入っていった。

 下に降りた僕はサクラとモミジに、ジルが病気だからスカラに連れて行くと説明する。が、2人は泣き出す。

「スカラに連れて行かなくちゃいけないほど、悪いの?」
「親方、帰ってこれる?」

 2人は号泣している。
 こんなに泣くなんて!スカラって病気を治すところじゃないのか?

 戸惑っていると、リオンとシオンがジルを担架のようなものに乗せて降りてきた。
 担架が空中に浮いてる?

「サクラ、モミジ。ここには、貴重な研究成果も多い。留守は任せたよ。」
「すぐに連絡するから!出来るね?」
 リオンとシオンの言葉に、2人は泣きながらも、コクンとうなずく。

「じゃあ、タクミはついてきて!」
「ミライも問題ないね?こっちだ。」

 こうして、僕はジルをスカラに連れて行くことになった。


 スカラがあるのは、セシリア王国だ。
 ジルの工房に一番近い扉から、まずはフラルアルドの王宮に向かう。王宮にある扉からセシリア王国へ行き、セシリアの王宮にある扉からスカラへと行く。
 空間をつなぐ扉のおかげで、長い距離をあっという間に移動できるという。

 扉を出たり入ったりしているだけだから、あまり自覚はないけど。

 最後に出た扉の先には、森が広がっていた。どうやら、セシリア王国の国土のほとんどがこのような樹木が多い場所らしい。

 本当にこんなところにあるのか?

 不思議に思いながら少し歩くと、ひらけた場所に学校のような建物が建っていた。その大きな建物の周りに様々な作りの家がある。ジルの工房で出してもらったログハウスのような建物もある。

 周りの建物は、誰かが紋章システムで出したってことか?

 周りをキョロキョロ見回しながら歩く僕とは違い、リオンとシオンは迷いなく学校のような建物に近づいて行く。

 すると、その建物から白衣を着た人達が出てくる。

 担架のようなものに乗せられたジルを見ると、「後はこちらで対処する」と言い、ジルとドグーを連れていった。

「これでジルは大丈夫なんだよね?ここって、病院みたいなところなんでしょ?」とリオンとシオンに聞くが、あまり元気がない。

「タクミには、まだ説明してなかったね。ここは、アースにある病院とは根本的に違うんだよ。」

「アースにある病院は病気を治療するところだよね?このスカラで実施される治療は、アースで言う治療とは全く別物だ。」

「えっ?じゃあ、何をするところなの?」

「紋章システムができてから、前とは比べものにならないくらい、医療の分野も進歩した。世界中に分散していた症例がひとつにまとめられ、知識が統合されたからだ。それこそ、あやしげな民間治療だって、症例として、まとめられているんだ。」

「じゃあ、医療はかなり進んでいるんだよね?ジルだって、助かるんじゃ?」

「ここはね。どの症例にも当てはまらない難病、治療方法が分からない人が来る施設なんだよ。だから、治療というより研究みたいな扱いをされる。今までにない治療だから、どうなるかは分からないんだ。」

「そう。だから、生きてスカラを出られる確率は限りなく低い。」

 だからか!ジルはスカラに行きたくないって言うし、サクラとモミジは号泣していた。

「ここに来る人はね。それでもいい、望みがあるならって覚悟した人達なんだ。エレメンテでは、生きる自由と死ぬ自由が保障されているから。」

「生きる自由はわかるけど、死ぬ自由ってどういうこと?」

「この世界にはね。もう自分は十分に生きた、これ以上はいいって心境になった人が行く場所が用意されてるんだよ。」

「そう。それが、"安らぎの大樹"だ。その場所に行った人達は、もう仕事はしなくていい。最期の時を迎えるまで、自分のパートナー精霊と穏やかに過ごす事ができるんだ。」

「エレメンテの人々の最期は、様々だ。アースにあるような定年って制度は無いからね。最期まで仕事をして自分の家で亡くなる人もいるし、病気が進行して望みを捨てずにスカラに来たけど、そのまま亡くなる人もいる。そして、年齢に関係なく、もう十分だと思った人が行くのが、安らぎの大樹だよ。」

「えっ?ちょっと待って。年齢に関係なくってことは、寿命じゃないってことだよね?自殺ってこと?」

「だから言っただろう?この世界には、死ぬ自由も保証されてるって。」

「パートナー精霊によって、心の安定を得ている僕達だけど、万能じゃないからね。どうしてもこれ以上生きていけないっていう人もいるんだ。パートナー精霊は、その人の分身だ。だから、その精霊が安らぎの大樹に行くことを認めた場合にだけ、行く事ができる。」

「ジルをスカラに運んだのは、ドグーがそうしてくれって言ったからだ。ドグーはジルの分身だ。ジルは口では、もう十分だと言っていたが、心ではもっと生きたいと思っているんだ。だから、ドグーは安らぎの大樹ではなく、スカラに運んでくれって言ったんだよ。」
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