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切断

第七話

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第四章 解放


 どれくらい時間が経っただろう。水浸しになった床の上で雪子は絶望していた。身体を拘束されることが、こんなに辛いなんて。

 自分はこれからどうなってしまうのだろう。取り返しのできないことをしてしまったが、それが逆に雪子を開き直らせた。"終わって"しまった以上、焦りもなくなり、不思議と頭が平静さを取り戻しつつあった。

 何か切るものがなければロープを切ることはできない。……切るもの。

「そういえば……!」

 雪子はあることを思い出した。

「たしか、筆箱に」

 床に置いてある通学カバンに入った筆箱にカッターが入ってるはずだ、それを思い出した。カバンは、すぐそこにあるはず。

 濡れたスカートを引きずりながら、雪子はカバンがあったはずの場所を目指した。昨日、帰ってきて部屋に入ってすぐカバンを置いたから、ドアの脇にあるはずだ。気力と体力を消耗し限界だったが、せっかく見えた最後の光明だ、力を振り絞りカバンを探す。

 記憶の通り、ドアの脇に投げ捨てるように置いたカバンが見つかった。幸い、カバンのファスナーは開けっ放しだった。後ろ手の不自由な身体でカバンを探る。あった、筆箱。

 筆箱のチャックを開けようとする、日常であれば容易い動作も後ろ手で行うだけで、こんなに大変だとは。身体で筆箱を押さえながら、なんとかチャックを引き、中身を床に撒き散らした。

 手探りでカッターを探す。

「……あった!」

 こんなボロボロになった雪子にも、まだ希望があったのだ。不自由な手を動かし、なんとか刃を出すと、手首へ向けた。

 手首のロープに当てると、背筋を冷たいものが走った。もし、失敗したら……

 もし万が一、手首を切ってしまい血管を傷つけてしまえば、動けない私が助かることはないだろう。こんな姿で死ぬわけにはいかない。しかし、このままこんな姿を見られたら死んでしまう。

「……よし」

 少しずつ、慎重に手首のロープに当てた刃を動かす。数分するとロープが少しずつ解れていくのがわかる。細めのロープにして良かった。今の雪子にとってそれが唯一救いであった。

 ……このまま。

 長時間の拘束で腕が痺れしまい、途中何度かカッターを床に落としてしまったが、その都度拾い上げてまた切るという作業を繰り返した。時間は掛かってしまったが、着実に解放へ向かっていた。

 長時間の拘束による疲れと、ガムテープによって口で息をすることができず、鼻だけで呼吸しかできないこと。そんな状態で暴れまわったので、呼吸が荒くなり軽い酸欠状態になっているようだ。

 鼻でしか呼吸できないということは、先程漏らしてしまった尿の臭いもずっと感じなければならないということでもある。拷問のようだったが、すべて自分の行いによるものである。

 初夏の陽気で汗も止まらず、喉も渇いていた。肉体的にも精神的にも、限界だった。それでも雪子は最後の力を振り絞る。縛られてみたい、そんな動機で始めた行為がこんなことになるなんて。

「……もうちょっと」
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