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監禁三日目

監禁三日目④ 玄関

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「気のせいですかね」
 雨宮はそう言ってドアを引いて閉めた。エレベーターの扉が開く音、数秒後に閉じる音がして。廊下は静寂に包まれた。咄嗟に内開きのドアの陰に身を隠した優夜は膝から崩れるように座り込んだ。危なかった……

 もしかして、階段はないのか。
 そうなると、エレベーターを使うしかない。かなりリスクは高い。しかし、行くしかない。なんの武器にもならないだろうが、手近にあったモップを手に取り、部屋を出る。エレベーターは二階にいるようだ。息を飲み、スイッチを押す。階数表示が動きだす。念のためドア陰に身を潜めるが、エレベーターには誰も乗っていない。

 これだけの屋敷だ。監視カメラがあるとしても、常時確認していないだろう。行くしかない。素早くエレベーターに乗り込み、一階のボタンを押す。

 一階に到着し、エレベーターの扉は開かれた。エレベーターのパネル部分に身を隠し、そっと覗く。

 そこは、エントランスホールだった。


 正面玄関には大きな両開きの扉があり、そこから入ると正面に大きな階段が途中で左右に分かれ、二階へと続いていた。天井は吹き抜けになっており、頭上には館の左右を繋ぐ廊下が橋のように掛かっている。
 まるで、いつかやったゲームに出てきた、ゾンビが徘徊する洋館のようだ。

 外は夕方のようで、扉からは夕陽のようにオレンジの光が射し込んでいた。それは、数日ぶりに見る太陽の光だ。
 人の気配はない。モザイク模様のタイルの床を歩き出す。正面玄関のドアノブに手を掛け、恐る恐る下げる。

 突然「ビィーッ! ビィーッ!」というブザーの警報音がけたたましく鳴り響いた。あまりに予想外な展開に、尻をつき、座り込んでしまう。
 しばらく鳴った後、ブザーの音は鳴り止んだ。そして、どこからともなく背後に現れたのは、車椅子に乗る蒼子、横に立つ紅子、そして車椅子の後ろに立つ雨宮の姿であった。

「惜しかったですわ。良い所まで行ったんですけども」
 蒼子が感情のない声で言う。紅子が続く。
「貴方は度胸と勇気があることが、よくわかりました。でも、残念でした」
 何がなんだかわからない。まさか、逃げるようにわざと誘導されたのか。まさか、これも“テスト”の一環だとでもいうのだろうか。

「多少、機転は利くようですが、まだ浅はかさがあるようですね。でも楽しかったですよ。物置小屋では、よく隠れました」
 まさか、どこからか見ていたのか?
 もしかしたら、どこかに隠しカメラが。思った瞬間に蒼子が喋りだす。
「その通り、隠しカメラで観察させていただきました。なかなか楽しい余興となりました。さて、雨宮」

 雨宮がゆっくり歩きだす。また、連れ戻すつもりだ。ここで逃げなければ、この屋敷にずっと閉じ込められてしまう。もう一度立ち上がり、再びドアノブに手を掛ける。あの時、確かにノブは下がった、だから扉は開くはずだ。ブザーは、無視して、走り出そう。

 そう思ってドアノブを下げたが、次の瞬間優夜を襲ったのは、全身を貫く電流であった。全身が痙攣し、その場に倒れた。

「だから言ったのですよ。貴方は“浅はか”なお方だと」

 気を失う前に微かに聞こえたのは、やはり冷たい蒼子の声であった。
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