福来博士の憂鬱

九条秋来

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福来博士の憂鬱 その1 フリンジ科学者の憂鬱

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福来知吉(ふくらい・ともきち)博士は憂鬱だった・・・



もう初老だというのに、若い頃から研究していた科学はまったく完成するめどもつかない。
生活は生活保護省から支給される生活保護費ですべてやりくりしている始末だ。
 

福来博士が研究している科学はどれも完成すればノーベル賞クラスのものだが、このままではそれがどれも完成する様子も無い。
彼が研究している科学の内容はテレポーテーションとか死者の復活とか魂との通信とかタイムトラベルとかいういわゆるフリンジ科学で、科学界からは単なる変人扱いあるいは無視されていた。


それに都市開発省からは、彼が住んでいる都市は再開発計画をされる為に、人口1万人の全ての人が立ち退きをしなければならない予定になっている。

現在住んでいる家は古びた雰囲気の洋館で気に入っているが、そんな家が引っ越し先に指定されることはまず無いだろう。


そういうわけでとても憂鬱だった・・・


やがて、住宅供給省からメッセージ画面にお知らせの通知が来た。
「住宅供給省の反町タカシです。世界一の天才フリンジ科学者福来知吉博士に敬意を評して、この家を紹介します。ご覧ください」
「世界一の変人科学者の間違いでは無いですか?」
「博士またいつものご冗談を、それはともかく博士の気に入りそうな物件が出ましたのでお知らせします」

画面には港町の海に面した岸壁に立つ一軒家が写し出された。

古い洋館風の建物だが、福来博士は一目で気に入った。


洋館風の家全体に絡まる蔦が年代物の雰囲気をかもし出していり。
明治時代か大正時代に造られたように思える家だ。

「いかがでしょうか、この家は?」
「これはいい、是非この家に引っ越したいもんだ」と返信した。
「ただこの家には怪奇現象が時々起こり、その為に住民は居なくて、ずっと空き家になっていました。もちろん家の内部は全て近代的設備に改良してあります。生活には何の支障もありません。どうですこの家に決定されますか?」
「怪奇現象か望むところだ。すぐこの家に引っ越したい」
「了解しました。3日後に引っ越し隊を派遣します、よろしいですか?」
「わかりました、よろしくお願いします。反町さん」

そういうわけで、福来博士はその家に引っ越すことになった・・・


引っ越しのその日、3人の人間、3人のロボット、3人のアンドロイドの引っ越し部隊がやって来て、福来博士の荷物や科学設備をていねいに新しい家に運んでくれれることになった。
福来博士は自慢の古びた時代遅れのガソリンエンジンのミニクーパーを運転して、その家に着いた。
見たところ思っていた通りに古びた雰囲気があった。
海鳥が鳴きながら飛びかっている、家の周囲にはつたがからまっていて、それが古びた雰囲気をいっそう演出している。
引っ越し部隊が家具や科学器具をそれぞれの部屋に運び入れてくれてそして彼らは解散し、引っ越しは完了した。


そしてほっとして引っ越した玄関のテラスでインスタントコーヒーを飲んでいると若い女性が近づいてきた。
かなり美人系の女だ。


「初めまして福来博士、私はメイド・アンドロイドのリルA707と申します。お呼びになる時はリルとお呼び下さい」とその女は言った。
「メイド・アンドロイドだって、私はそんなのを依頼した覚えは無いが・・・」
「ご心配なく、高齢になられた方に生活援助省から派遣されました。家事は全てお任せください」
「そうですか、便利な世の中になったもんだ」
「あと、家事以外に特別なサービスも出来ますので期待してくださいね」
「特別なサービスとは何ですか?」
「今は聞かないでください、聞かないほうが期待が高まっていいのではないでしょうか」
「ふうん、なるほどわかったようなわからない話しだがまあいいでしょう」
リルは意味ありげなスマイルを浮かべテラスの階段を踏み締め家の中に入って行った。
その階段を上がる後ろ姿は完ぺきに美しく博士はそれに見惚れるばかりだった。


こうして新しい家で時代遅れのフリンジ科学者の福来博士と美人メイドアンドロイドのリル57Aとの2人の生活がはじまることになった。

とりあえず憂鬱からは解放されたような気がした・・・
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