気まぐれな小説

コンコン

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気まぐれな小説①

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 私は生まれつき、変なものが見える。
 もっとも、私にとっては、それは〝変〟ではないんだけどね……。

 物心ついた頃から、私はが見えていた。
 人間っぽいけど人間じゃない。耳が生えてて、顔は目の部分がモザイクがかかったみたいになっていて見えない。口だけが見える。
 大きいのも小さいのも居る。どうやら体の成長はしないみたい。声とか動きとか見た目とか、そういうのを考えると若く見える。
 保育園に入っても、ずっと見えてて、たまに話すこともある。みんな友好的。
 小学生になっても変わらなかった。
 だから、これが私にとっての当たり前だった。
 小学生の頃、友達に、のことを言ったら、不思議そうな顔をされた。を指さしてみても、友達には見えていなかった。
 中には、私をバカにする人もいた。
 この時に悟った。
 は、自分にしか見えていないんだ、と。
 悔しいというか、惜しい気持ちになった。
 は私の大切な友達で、と過ごすのはスゴく楽しくて、みんなにも教えてあげたかった。
 でも私は、もう、このことを秘密にした。
 「私にだけ見える」なんて、誰も信じてくれない。また、バカにされるだけだから。

 すっかり大人になって就職。今も、私にはが見えている。
 見ているうちにわかったのは、は生息範囲が決まってるみたいってこと。ある公園に居たには、またそこへ行けば会える。
 そんなは変わらず私の友達だけど、もちろん私には、人間の友達だって居る。
 最近できた新しい友達のうちの一人が、ライアという同僚の男性。
 ライアは、すっごく面白い!
 見てるだけで元気になれる感じ。でも、実はスゴく優しい。人が不安にならないようにするには……ってことを、一番に考えてる。
 そんな性格だからこそ、私はライアが大好きだった。

 ある日、ライアと話していると、こんな話題になった。
「そうだ! 俺、職場のみんなでどっか遊びに行きたいなーって思ってたんだよね!」
「わ、良いね!それ。楽しそう!」
 すると、のうちの一人が、興味深そうに私達の会話を聞きに来た。
 は、人の会話を聞くのが好きなのだ。
「行くなら、来週の日曜あたりかな。」
「あ、そういや俺、その日、流星群が見れるって聞いたわ!」
 へぇ! それなら……
 そう言おうとした時、が言った。
『ダメ。』
 思わず反応しそうになったが、ぐっと堪えた。
 ライアが続ける。
「あ、○○山登るのとか良くね!?」
『山はダメだよ。』
 の方を見てみると、は、私の方を見ていた。 ……何かを、訴えかけるように。
 それで私は、声を出した。
「あ、あー……山は……やめとこ。」
「えっ……なんで?」
「えっと、ほら……夏は虫が多いから! 私、そういうの苦手なんだよね。」
「あー、そうなんだ。じゃぁ……」
 私にしか聞こえない声が、助言した。
『温泉施設にしよう。』
「温泉施設! ほら……東の方にあるヤツ! あそこ行かない?」
「……え……でも星……」
「山は……秋でも冬でも良いから、また今度行くことにして、今回は温泉にしよ! みんな喜ぶと思うし!」
「……。」
 ライアは、困惑した表情をしていた。
 私の勢いに圧倒されたのもあるのだろう。しばらく言葉を失っていた。
「…………まぁ……温泉みんな行きたいだろうし、良いか。」
「うんうん! そうしよ!」
「……じゃぁ俺みんなに言ってくるわ!」
「うん。行ってらっしゃい!」
 ……これで良かったん……だよね?
 はいつもの笑顔を見せ、うんうんと頷いた。

 当日、天気予報は見事に外れ、夕方、突然大雨が降ってきた。
 流星群なんて見れたものじゃない。
 「屋内で良かった~」という声が上がる。
 私は内心ドキドキしていたが、を信じて良かったと安堵した。
 一泊して翌日、窓から綺麗な虹が見えた。
 朝風呂に露天風呂に行ったら、虹が見えて最高だと、その施設が大盛り上がりになった。

 その後も色んなところで、が、私を、私達を助けてくれた。
 一体、何者なんだろう。
 でも、そんなことは別にどうでも良いと思った。
 ある日、ライアが、荷物運びを頼まれた。
 するとのうちの一人が言った。
『右の広場へ行かせてはダメ。』
 私は、ライアを呼んだ。
「あ、あのさ、さっき頼まれてた荷物運び……あ、いや、待って違う、だから……ほら、右の広場! あそこ行かないでほしいんだけど……。」
「……なんで?」
「えと……その……なんとなく……。」
「いや……無理だよ……頼まれてるし。」
「いや! それは関係なく、今日は右の広場へは行かないでほしいの。」
「え……? なんで?」
「な……なんででも。」
「は……? 俺に何させたいのかわかんないけど、あそこ使わないで移動するの面倒だし嫌だよ。」
「っ! それでも……っ! 使わないで!」
 急な大声に、ライアは驚くと共に困惑した。
「なぁ……せめて理由を教えてよ。」
「……っ。」
 嫌だ嫌だ言いたくない。
 どうせバカにされる信じてもらえない。でも……言わなかったら、行っちゃう? 私だって何が起こるのかは知らない。でも……。
 このまま行かせちゃったら……ライアは……。
 ……私しか……ライアを守れない。
 そう思うと、言うしかなくなってしまった。
「あ……あの……実はね……」
 全てを話した。
 本当は嫌で嫌で仕方なかった。でも、上手い言い訳も思いつかなかった。
 きっと変な奴だと思われる。
 大好きな友達に、そんな風に思われて、そして、離れていっちゃうのかな……。そう思った。
 全て話し終えたあと、ライアが言った。
「ねぇ、そいつらって……例えば、ある海で出会って、十年後またその海に行っても、同じ奴に会える?」
 ……え?
 私は困惑した。言ってる意味がわからなかった。
 信じてくれた? バカにしないの? なんで? なんで興味津々なの?
「……? アスイ?」
 名前を呼ばれてハッとした。
「あっ……えっと、うん、会える。生息範囲が決まってるから……。」
 そう答えると、立て続けに彼が聞いた。
「じゃぁ、そいつらって死んだりするの?」
「寿命はあるよ……。確か、十万年くらい? 見た目の成長はしないけど……。」
 そこまで聞くと、ライアは、真剣に私の目を見て言った。
「あのさ! どうしても着いてきてほしい場所があるんだけど!」
「え?」

 ライアに連れられて来たのは、ライアの故郷にある、小さな祠。
 でも、この祠を知っている人は少ないらしい。というか、知ってても言わないのだと。
 ライアは行き方を知っているから、私も来ることができたけど、普通に道を歩いていてもたどり着けない場所。私とて、何か空気が変わった感じはしたけど、何が引き金となって、ここに来れているのかはわからなかった。
 普通、この辺りで迷子にならないと来れない、という不思議な条件があるらしい。
「ねぇ、が見える?」
 ライアが聞いた。……確かに居る。のうちの一人であろうが、確かに。
「うん……見えてるけど……。」
 ライアにも見えるの? という疑問はあったが、それだと色々と矛盾する。一旦、私はライアの様子を見ることにした。
 ライアは、祠から少し距離をとって、正面に立った。丁度いいポジションだった。そこに行くまでの彼の動きに、慣れを感じた。
 私はライアの横に立つ。
「子供の頃、この辺りで迷子になったとき、が一緒に遊んでくれたんだ。その後も、何度も世話になった。でも、中学生になって忙しくなって、なかなか来れなくなった。そして最後に来たときには、もう、見えなくなってしまっていたんだ。」
 ライアも昔は見えてたんだ……。
 年齢とともに見えなくなるということものあるだろうか、それとも、それが普通なのだろうか。
「俺のこと、覚えてるかな。……いや、覚えてる訳ないよな。もう、二十年くらい前のことだし。……それでも……俺は……に、もう一度、会いたかった……。」
 すると、が言った。
『忘れてねぇよ。』
「──忘れてないって、言ってる。」
 そう言うと、ライアの目が少し大きくなった。声が出ない、という様子だ。
 声を震わせながら、ライアは話し始めた。
「……あ、アスイには……見えてるんだよね……? じゃぁなんで俺は見えなくなったのかな。……急に会いに来なくなって、怒ったのかな。最後のお別れも……言えなかったし……。」
 は、首を振った。
『怒ってなんかねぇよ。』
「怒ってなんかないって。」
『アタシのことなんかいつまでも気にかけてないで自由に生きろよ。』
「アタシのことなんか気にかけてないで、自由に生きろだって。」
『……会いに来てくれて嬉しかったよ。』
「……会いに来てくれて、嬉しかったって。」
 ライアの開かれた目から、涙がポロポロと落ちてきた。
 ライアは真っ直ぐのことを見ているように見える。目が合っているように見える。
 でも、違う。ライアには見えていない。
 ……ライアは、子供の頃の記憶から、的確に彼女の姿を映し出しているんだ。ライアのポジションも、よく見ると、自分と祠の間に、誰か居るみたいに空いている。
「そこに……いるの……?」
 彼が、嗚咽しながら言った。
 この時のライアが、子供みたいだった。
「今まで遊んでくれてっ……ありがとう……っ。」
 そして今ここに居るのは、今のライアだ。
「そう言ってくれて……ありがとう……!」
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