気まぐれな小説

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気まぐれな小説②

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 俺の好きな人は、ノリの良い、明るい人だ。
 高校で同じクラスになった時、あっちから話しかけてきた。
 もともと悪い印象も無かったし、話の返事くらいはしていた。……くらいのつもりだったが、そうして何日も話してる間に、俺たちは友達になった。
 厳密に言えば、俺たちのグループと、アユムたちのグループが合わさって一つのグループみたいになったという感じだ。
 なかでも俺とアユムは仲が良かった。共通の好きな漫画があって、意気投合。
 そのおかげで、俺とアユムは高校を卒業した今も友達のままだ。
 俺が、アユムが好きだと気づいたのは、高二の秋だ。
 いつか告白しなきゃ、と思いながら、卒業してしまった。
 俺は焦燥感に駆られた。
 今からでも何かしなきゃ……デートとか誘っても良いのだろうか、会いたいって言ったら変に思われないだろうか。
 そんなことを色々と考えていたある日のこと。 
 LINEでの会話の流れで、アユムから「実は…彼氏できたんだよね~」という文が、「えへへ」という可愛らしい顔文字とともに送られてきた。
 俺がモタモタしている間に、アユムに彼氏ができてしまったのだ。
 ……それから俺たちは、LINEの回数が減ってしまった。

 アユムは、自ら彼氏について話すことは基本的に無かった。
 しかし今日、初めて彼氏についての話をした。
「ねぇ、○○来てくんない!? 彼氏の愚痴聞いてほしいの!」
 ○○というのは居酒屋の名前だった。
 正直、このLINEメッセージが届いたとき、嬉しいという気持ちが湧いた。
 俺はアユムに言われた通り居酒屋に行った。
 アユムは、お酒は強くないが、おつまみが大好きだった。なかでも好きなのは枝豆だ。
 アユムは枝豆を食べながら話し出した。
「最初はさぁ、私が他の男子と喋ってたらヤキモチ妬いたりしてて〝可愛いなぁ〟って思ってたんだけど~……なんか、SNSフォローしてる男子とかも嫌みたいで! 〝ブロックして〟とか言うんだよ!? 私もとから男友達とか多い方なの知ってるでしょっつーの!」
 俺は、静かに頷いて聞いていた。
 それからも、度々飲みに誘われた。
「彼氏にレントのこと聞かれたから、〝友達〟って答えたの。LINEも見せたよ……そんで納得してくれたと思ったらさ、私がレントって下の名前で呼んだ瞬間〝レント!? 下の名前で呼べるくらい親密な関係なんじゃねぇか!〟って急に顔色変えてキレだして……。」
 一週間に一回くらい、愚痴を聞かされた。
 俺は「なんでそんな奴と付き合ってるの?」と聞きたくなった。
 それでも……俺は静かに頷いていた。

 ある日、いつもは届かないような時間に、突然LINEメッセージが届いた。
「今から家行っても良い?」
 文面から、アユムが辛そうなのを感じた。
 俺は快く受け入れた。
 数分後、俺の家にアユムがやって来た。
 アユムは、目に見えて暗かった。玄関で目が合ったはずなのだが、まるで合っていないみたいな、そんな、光の無い目をしていた。
 家に上がり、立ったまま動かない。
 放心状態という感じだ。
 俺は黙って待つ。するとやがて、アユムは静かに喋り出した。
「はぁ…………。」
 大きなため息から始まった。
「レントと会ってることがバレちゃって、めっちゃキレられちゃった。」
 俺も横に立った。そばに居てあげることぐらいしか、できることが思いつかなかった。
 アユムは、少し俺の方に体を向けた。
「ねぇ。ハグはストレスを三十%軽減させる効果があって、泣くことは、ストレスを半分にさせる効果があるんだって。」
 アユムは俺と目が合うと、俺に抱き着いてきた。
 今度は、ちゃんと目が合った。俺はアユムをしっかりと抱き締め返し、アユムの泣く声を、ただただ黙って聞いていた。
 いくらでも泣いて良いんだよ。
 アユムの水分が全て無くなってしまうんじゃないかと思うくらい、泣き続けていた。
 本当に長いこと泣き続けて、やっと泣き声が消えていく。すると、アユムも落ち着いてきた。
「バレないとは思うけど、私がレントの家に行ったって知ったら、彼キレるかなぁ……。」
 開口一番に、そんなことを言われた。
 気持ちがグチャッとした。
 なんで、そんなクソ彼氏のことが、一番に出てくるんだよ。
 こんなに辛い思いしてんのに……!
 アユムは俺から離れ、笑顔を見せた。目の周りは赤かったが、顔立ちは美しかった。
「あはは。レントとこんな事しちゃって。バレたら本当に殺されるかも。」
 ……美しくはあるかもしれない。でも、そんな力ない笑顔は……見たくなかった。
 俺はどうしても我慢できなくなって、ついに声を出した。
「なぁ……ソイツといて、楽しい?」
 アユムの表情がバッと変わった。
 アユムは声を出そうとして、すぐ止めた。言う事を改めて、今度こそ声を出した。
「迷わず〝楽しい〟って言えなかった時点で違うんだろうね……。それでも、ずっと一緒に居るのは、本当に彼のことが好きだからかなぁ……。」
 虚無に話しかけるように、呟くように、アユムは話した。
「色んな男子と関わってきたけど、初恋を捧げたのも彼だし、私のこと好きになってくれるような人も彼くらいしか居ないし……。」
 そう、いくつかポツポツと呟くと、さっきと違う笑顔を見せた。
「ありがとね。レントのおかげで、ちょっと考えが変わったよ!」
 そうじゃない。
 少しの恐怖すら感じた。
 ちょっと考えを変えたくらいじゃダメだ。なんでわからないんだ。……洗脳されてるのか?
 ああ……そうか……彼氏に洗脳されて、自信を、無くしてしまったんだ。
 このままじゃ……また同じになる。
「……アユム! 気づけよ! ソイツと居たってアユムは幸せになれないんだよ! アユムは……アユムは、ソイツのこと……どんだけ好きなの?」
 アユムは、さっきの涙を忘れるほど、大粒な涙を流した。
「そっか……私……か、彼のことっ……好きじゃ、ないんだ……。」
 アユムを引き戻すには、まだ足りないと判断し、追い打ちをかけた。
「アユム! 別れて良いんだぞ!? 別れる! なぁわかるか!? 別れるんだよ! その後は……っ……俺と付き合えば、良いから!」
 アユムは目を見開いた。
「……ああ……私……レントに、そう言って欲しかったのかも……。〝別れる〟かぁ……。私きっと、その後が怖くて逃げてただけだったんだね……。」
 やっと答えを見つけた。そう言うように、アユムの表情が、すっきりしていた。
「レントは良いの? 私……男なのに。」
「性別とか関係ない、アユムが好き。」
「ふふっ……私、レントが好きみたい。」

 すごく怖かったけど、勇気を出して別れを告げてくれた。
 連絡先も完全に消し、引っ越し、元彼との繋がりを全て絶った。
 俺の家に来たアユムは、俺を見るなり、心の底からの笑顔で、俺に飛びついてきた。
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