気まぐれな小説

コンコン

文字の大きさ
3 / 6

気まぐれな小説②

しおりを挟む
 俺の好きな人は、ノリの良い、明るい人だ。
 高校で同じクラスになった時、あっちから話しかけてきた。
 もともと悪い印象も無かったし、話の返事くらいはしていた。……くらいのつもりだったが、そうして何日も話してる間に、俺たちは友達になった。
 厳密に言えば、俺たちのグループと、アユムたちのグループが合わさって一つのグループみたいになったという感じだ。
 なかでも俺とアユムは仲が良かった。共通の好きな漫画があって、意気投合。
 そのおかげで、俺とアユムは高校を卒業した今も友達のままだ。
 俺が、アユムが好きだと気づいたのは、高二の秋だ。
 いつか告白しなきゃ、と思いながら、卒業してしまった。
 俺は焦燥感に駆られた。
 今からでも何かしなきゃ……デートとか誘っても良いのだろうか、会いたいって言ったら変に思われないだろうか。
 そんなことを色々と考えていたある日のこと。 
 LINEでの会話の流れで、アユムから「実は…彼氏できたんだよね~」という文が、「えへへ」という可愛らしい顔文字とともに送られてきた。
 俺がモタモタしている間に、アユムに彼氏ができてしまったのだ。
 ……それから俺たちは、LINEの回数が減ってしまった。

 アユムは、自ら彼氏について話すことは基本的に無かった。
 しかし今日、初めて彼氏についての話をした。
「ねぇ、○○来てくんない!? 彼氏の愚痴聞いてほしいの!」
 ○○というのは居酒屋の名前だった。
 正直、このLINEメッセージが届いたとき、嬉しいという気持ちが湧いた。
 俺はアユムに言われた通り居酒屋に行った。
 アユムは、お酒は強くないが、おつまみが大好きだった。なかでも好きなのは枝豆だ。
 アユムは枝豆を食べながら話し出した。
「最初はさぁ、私が他の男子と喋ってたらヤキモチ妬いたりしてて〝可愛いなぁ〟って思ってたんだけど~……なんか、SNSフォローしてる男子とかも嫌みたいで! 〝ブロックして〟とか言うんだよ!? 私もとから男友達とか多い方なの知ってるでしょっつーの!」
 俺は、静かに頷いて聞いていた。
 それからも、度々飲みに誘われた。
「彼氏にレントのこと聞かれたから、〝友達〟って答えたの。LINEも見せたよ……そんで納得してくれたと思ったらさ、私がレントって下の名前で呼んだ瞬間〝レント!? 下の名前で呼べるくらい親密な関係なんじゃねぇか!〟って急に顔色変えてキレだして……。」
 一週間に一回くらい、愚痴を聞かされた。
 俺は「なんでそんな奴と付き合ってるの?」と聞きたくなった。
 それでも……俺は静かに頷いていた。

 ある日、いつもは届かないような時間に、突然LINEメッセージが届いた。
「今から家行っても良い?」
 文面から、アユムが辛そうなのを感じた。
 俺は快く受け入れた。
 数分後、俺の家にアユムがやって来た。
 アユムは、目に見えて暗かった。玄関で目が合ったはずなのだが、まるで合っていないみたいな、そんな、光の無い目をしていた。
 家に上がり、立ったまま動かない。
 放心状態という感じだ。
 俺は黙って待つ。するとやがて、アユムは静かに喋り出した。
「はぁ…………。」
 大きなため息から始まった。
「レントと会ってることがバレちゃって、めっちゃキレられちゃった。」
 俺も横に立った。そばに居てあげることぐらいしか、できることが思いつかなかった。
 アユムは、少し俺の方に体を向けた。
「ねぇ。ハグはストレスを三十%軽減させる効果があって、泣くことは、ストレスを半分にさせる効果があるんだって。」
 アユムは俺と目が合うと、俺に抱き着いてきた。
 今度は、ちゃんと目が合った。俺はアユムをしっかりと抱き締め返し、アユムの泣く声を、ただただ黙って聞いていた。
 いくらでも泣いて良いんだよ。
 アユムの水分が全て無くなってしまうんじゃないかと思うくらい、泣き続けていた。
 本当に長いこと泣き続けて、やっと泣き声が消えていく。すると、アユムも落ち着いてきた。
「バレないとは思うけど、私がレントの家に行ったって知ったら、彼キレるかなぁ……。」
 開口一番に、そんなことを言われた。
 気持ちがグチャッとした。
 なんで、そんなクソ彼氏のことが、一番に出てくるんだよ。
 こんなに辛い思いしてんのに……!
 アユムは俺から離れ、笑顔を見せた。目の周りは赤かったが、顔立ちは美しかった。
「あはは。レントとこんな事しちゃって。バレたら本当に殺されるかも。」
 ……美しくはあるかもしれない。でも、そんな力ない笑顔は……見たくなかった。
 俺はどうしても我慢できなくなって、ついに声を出した。
「なぁ……ソイツといて、楽しい?」
 アユムの表情がバッと変わった。
 アユムは声を出そうとして、すぐ止めた。言う事を改めて、今度こそ声を出した。
「迷わず〝楽しい〟って言えなかった時点で違うんだろうね……。それでも、ずっと一緒に居るのは、本当に彼のことが好きだからかなぁ……。」
 虚無に話しかけるように、呟くように、アユムは話した。
「色んな男子と関わってきたけど、初恋を捧げたのも彼だし、私のこと好きになってくれるような人も彼くらいしか居ないし……。」
 そう、いくつかポツポツと呟くと、さっきと違う笑顔を見せた。
「ありがとね。レントのおかげで、ちょっと考えが変わったよ!」
 そうじゃない。
 少しの恐怖すら感じた。
 ちょっと考えを変えたくらいじゃダメだ。なんでわからないんだ。……洗脳されてるのか?
 ああ……そうか……彼氏に洗脳されて、自信を、無くしてしまったんだ。
 このままじゃ……また同じになる。
「……アユム! 気づけよ! ソイツと居たってアユムは幸せになれないんだよ! アユムは……アユムは、ソイツのこと……どんだけ好きなの?」
 アユムは、さっきの涙を忘れるほど、大粒な涙を流した。
「そっか……私……か、彼のことっ……好きじゃ、ないんだ……。」
 アユムを引き戻すには、まだ足りないと判断し、追い打ちをかけた。
「アユム! 別れて良いんだぞ!? 別れる! なぁわかるか!? 別れるんだよ! その後は……っ……俺と付き合えば、良いから!」
 アユムは目を見開いた。
「……ああ……私……レントに、そう言って欲しかったのかも……。〝別れる〟かぁ……。私きっと、その後が怖くて逃げてただけだったんだね……。」
 やっと答えを見つけた。そう言うように、アユムの表情が、すっきりしていた。
「レントは良いの? 私……男なのに。」
「性別とか関係ない、アユムが好き。」
「ふふっ……私、レントが好きみたい。」

 すごく怖かったけど、勇気を出して別れを告げてくれた。
 連絡先も完全に消し、引っ越し、元彼との繋がりを全て絶った。
 俺の家に来たアユムは、俺を見るなり、心の底からの笑顔で、俺に飛びついてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...