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第二章 Nosis
第33話 迎撃
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《Cランク迎撃任務が発生。各プレイヤーは直ちに迎撃態勢を取ってください。
全職員は武器を携帯後所定の配置につくように。繰り返します……》
警告音が短く何度も鳴り響く。
先ほどまでの穏やかな空気が、一気に張りつめる。
「吉野! わしらから離れるでないぞ!」
エイリクの怒鳴り声が、鼓膜を震わせる。酒好きな陽気爺が、ここまで真剣になるとは。
「まずは拠点の外へ出るのである!」
ハーコンの声も重く響く。その短い言葉に、緊迫した空気が一層濃くなる。
エイリクとハーコンの緊迫した声が飛ぶ。
俺は反射的に立ち上がり、二人のあとを慌てて追った。
――空気が変わった。
まるで、見えない何かが、この拠点を包囲しているかのように。
二人は拠点から少し離れたところで立ち止まった。
「やつら魔物は近くの人間を襲いよる。
わしらが離れれば、ヴェルコールの皆が安全じゃ」
「迎撃任務は、とにかく数が多いである」
ハーコンは持っていた大盾を静かに地面に立てる。その重厚な音が、耳に残る。
「まぁCランクじゃて、ワシらがおれば、すぐに片が付く
本部からの指示を聞き逃すでないぞ」
エイリクがライブラを確認しながら、俺の方をちらりと見た。
その時――
ザッ、ザザッ……と、草をかき分ける音が、風に乗って耳に届いた。
音は、一本の線のようにこちらに近づいてくる。
やがて、それが何本も、四方八方から聞こえ始めた。
「……来るぞ」
エイリクが小さく呟く。
「来るである!」
ハーコンが声を張る。
風が止む。
森が、静かになる。
その一瞬の“静”を切り裂くように、暗がりの向こうで、何かがざわりと蠢いた。
――それは“数”だった。
光の届かぬ木々の合間から、ひとつ、またひとつと現れる赤い光。
目だ。無数の赤い目が、闇の中でこちらを睨んでいた。
「……キラーアントじゃ!」
エイリクの声が響くと同時に、姿を現したそれは――人の倍ほどもある、巨大なアリ。
ギチギチと音を立てる顎。
黒光りする、鎧のように硬質な外殻。
太く節くれだった脚が地面を叩くたびに、土が派手に舞い上がった。
「吉野! 吾輩の後ろに隠れるのである!」
ハーコンが俺の前に立ちはだかる。
「わしは左をやる。主は右をやれい!」
エイリクの号令とともに、二人は左右へと散る。
エイリクがやや腰を落とし、両手で斧を構えた。
その斧に、一瞬だけ重たい気配が宿る。
「ヴァルグリンド・クリーヴァー!」
叫ぶと同時に、エイリクの斧が風を切る。
薙ぎ払われた一撃が、前方のキラーアントをまとめてちぎり飛ばした。
跳ね上がった断片が、赤黒い霧とともに宙を舞う。
「みたか吉野! 攻撃こそ最大の防御じゃ!」
続けて、ハーコンの前にも別の群れが押し寄せてくる。
その動きを静かに見据えながら、ハーコンが低く呟いた。
「オブデュレイト・ウォール!」
彼の目の前――地面が割れ、轟音と共に巨大な岩壁が隆起する。
突如現れた障壁に、アリたちの進軍がせき止められた。
その壁に向かって、ハーコンが自らの盾を叩きつける。
ガンッ!!
「ストーンヘイル」
衝撃が壁を走り、瞬時にそれが爆ぜた。
砕けた岩片は凄まじい勢いで前方に飛び散り、
散弾のようにキラーアントたちを次々と粉砕していく。
「防御こそ最大の攻撃である。」
一瞬で群れが霧散した。地に残るのは、静寂だけ。
轟斧(ごうふ)のエイリク。不動のハーコン。
その異名は、伊達ではなかった。
ギチギチと音が聞こえてきた。
再びキラーアントの群れが押し寄せる。
少数だがオークも混じっている。
「アリんこはわしらが叩き潰す、お主はオークをやってみせい」
恐怖は完全には消えていない。けれど、二人の存在、
そしてさっきスケルトンを倒せたという“確かな手応え”が、俺の背中を押した。
もう、逃げる理由はなかった。
二人はキラーアントを蹴散らし始めると
オークの一体が向かってきた。
俺は剣を構え迎え撃つ。
オークは眼前に迫ると、太い腕で槍を振りかぶる。
「うおぉぉぉッ!!」
俺は叫びながら、剣を思いきり横に払った。
金属と金属がぶつかる高音――オークの槍と、俺の剣が火花を散らす。
「ぐっ……!」
重い。強い。腕がしびれる。
それでも、後退しない。踏みとどまる。剣を握る手に力を込める。
(ちからはオークのほうが上……それでも!)
オークの槍が、今度は突きの形でこちらを狙う。
紙一重で避ける――が、風圧で肩が揺れた。
踏み込む――が、槍が地面を抉り返すように薙ぐ。
以前とは違う。
オークの槍――かろうじて、だが捌ける。
前は逃げることしかできなかった。
でも今は、ほんのわずかでも“対等に”戦えている。
(やれる……!)
槍が振り上げられたその一瞬、俺は全身の力を込めて駆けた。
「ッらああああああああ!!」
突進。
槍の刃先が肩を掠める。激痛。熱が走る。
だが止まらない。
剣を構え、渾身の一撃をオークの胴に叩き込む。
――ズシャァッ!!
手応えがあった。肉を裂く感触。
オークの目が見開かれ、咆哮とともに後退する。
血が噴き出す。それでも倒れない。
岩のような筋肉を切り裂いた。
もう一歩。剣を振り上げる。
「おぉぉぉッ!!」
上段から振り下ろした斬撃が、オークの肩口から胴までを深く裂いた。
その瞬間、オークの動きが止まる。
ドサリ。
巨体が崩れ落ち、地面に倒れ込む。
俺はその場に膝をついた。
息が荒い。全身が重い。肩が痛む。
(勝った……!)
その痛みが、俺が“前よりも強くなった”という、紛れもない証に感じた。
「もう一体行ったである!」
振り向くと、別のオークが槍を構えながら突っ込んできていた。
俺は再び剣を構える。――もう、恐怖はなかった。
それから俺は、合計三体のオークを倒した。
全身は汗でびっしょりだったが、不思議と気力は尽きていなかった。
「二人は何でスキル名称を叫ぶんだ?」
息を整えながら気になったことを聞いてみた。
「心の中で唱えるだけでも発動するのであるが、
気合を入れて叫ぶと技の威力が上がるのである」
ハーコンがすぐに答えてくれた。
冗談みたいな話だが、きっと本当のことなんだろうな。
俺も使えるスキルを覚えたら叫んでみようと考えていると。
通信機からノイズ混じりの声が響く。
「魔物は南側に集中しています。手の空いた者は南側へ援護をお願いします!」
「わし等が向かう」エイリクが即答する。
「了解しました。至急向かってください」
「吉野、次に行くぞい!」
俺たちは小走りで南側へと向かった。
♦
現地に到着すると、六人のプレイヤーが必死に応戦していた。
キラーアントとオークに混じって――
一際巨大な影が、地面を揺らしながら立っていた。
「サイクロプスであるな」ハーコンが低く唸る。
「ありゃあ、あやつらでは荷が重いのう」
それは、まさに“巨人”と呼ぶにふさわしい存在だった。
一つ目の怪物。サイクロプス。
鋼の棍棒を握り、荒々しく地面を踏み鳴らし、吠えるたびに空気が震える。
俺の手が自然と汗ばむ。
「Cランク任務にでるのは珍しいであるな」
「どれ、わしらが――」とエイリクが一歩を踏み出した、そのときだった。
ズン――と地を揺らすような足音とともに、ひとりの男が巨人に向かって走り出す。
「ダグラス・ケイン……!」俺は思わず息を呑んだ。
先ほど会ったばかりの男。ノウシス最強と呼ばれた存在が――
今、巨人の前に立ちはだかろうとしていた。
ダグラスは、ただ真っ直ぐにサイクロプスへ向かっていく。
その姿は、まるで自分が相手を“狩る側”だと信じて疑わない者の歩き方だった。
「一人で行く気か!?」誰かが叫ぶ。
だが、ダグラスはそれに答えない。
目の前の怪物を、ただ“壁”のように見据えたまま歩き続ける。
サイクロプスが唸り声を上げ、腕を振りかぶる。
棍棒が空を裂きながら、勢いよく振り下ろされた。
「ダグさんっ!!」
誰かが声を上げたその瞬間――
ダグラスの身体が、音もなく横に消えた。
まるで風のようなステップで、棍棒の直撃をいとも容易くかわす。
そしてそのまま――
「ハァッ!!」
全身をひねり、跳び上がりながら右の拳を突き上げた。
巨体の腹部に――その拳が、突き刺さる。
ドゴォォンッ!!
サイクロプスの巨体が浮く。いや、正確には――跳ね上がった。
「な……」俺の口が開きっぱなしになる。
巨人が地面に激突する。
衝撃で地面にヒビが走り、土煙が舞い上がる。
粉塵の中から立ち上がるサイクロプス――だが、動きが鈍い。
そこへ、さらにダグラスが追撃に移る。
「レヴナント・ブレイカー」
低く、しかしはっきりとした声が、空気を震わせる。
ダグラスの拳に、青白い光が宿る。
次の瞬間――
「オオオオオッ!!」
突撃。
そのまま巨人の腹へ、光を纏った拳が炸裂。
衝撃波が走った。
光と土煙が四方八方へ弾け飛び、まるで空間そのものが震えたように感じた。
サイクロプスの巨体が大きく仰け反り――そして、後方へ倒れ込んだ。
ゴォォォォンッッ!!
大地が揺れるほどの轟音。
地面が凹むほどの衝撃。
――動かない。
サイクロプスは完全に沈黙していた。
誰もが、しばらく声を失っていた。
「……よし、終わりっと」
ダグラスは、まるでちょっと重い買い物袋でも持った後みたいに、肩をぐるぐると回していた。
「サイクロプスは異常な再生能力があって面倒なんじゃがな」
「まぁまぁやるであるな」
周囲のモンスターの死骸が消え始める
終わったみたいだな! お疲れ」
そう言い残し、ダグラスはゆったりとした足取りで拠点へと戻っていった。
その背中には、どこまでも揺るがぬ強者の風格が漂っていた。
……これが、ノウシス最強の男か。
ただ圧倒されるしかなかった。けれど、その胸の奥――
自分でも気づいていない。
その時、英斗の中に“何か”が灯り始めていた。
それはまだ小さな火種。
だが、確かに――燃え始めていた。
全職員は武器を携帯後所定の配置につくように。繰り返します……》
警告音が短く何度も鳴り響く。
先ほどまでの穏やかな空気が、一気に張りつめる。
「吉野! わしらから離れるでないぞ!」
エイリクの怒鳴り声が、鼓膜を震わせる。酒好きな陽気爺が、ここまで真剣になるとは。
「まずは拠点の外へ出るのである!」
ハーコンの声も重く響く。その短い言葉に、緊迫した空気が一層濃くなる。
エイリクとハーコンの緊迫した声が飛ぶ。
俺は反射的に立ち上がり、二人のあとを慌てて追った。
――空気が変わった。
まるで、見えない何かが、この拠点を包囲しているかのように。
二人は拠点から少し離れたところで立ち止まった。
「やつら魔物は近くの人間を襲いよる。
わしらが離れれば、ヴェルコールの皆が安全じゃ」
「迎撃任務は、とにかく数が多いである」
ハーコンは持っていた大盾を静かに地面に立てる。その重厚な音が、耳に残る。
「まぁCランクじゃて、ワシらがおれば、すぐに片が付く
本部からの指示を聞き逃すでないぞ」
エイリクがライブラを確認しながら、俺の方をちらりと見た。
その時――
ザッ、ザザッ……と、草をかき分ける音が、風に乗って耳に届いた。
音は、一本の線のようにこちらに近づいてくる。
やがて、それが何本も、四方八方から聞こえ始めた。
「……来るぞ」
エイリクが小さく呟く。
「来るである!」
ハーコンが声を張る。
風が止む。
森が、静かになる。
その一瞬の“静”を切り裂くように、暗がりの向こうで、何かがざわりと蠢いた。
――それは“数”だった。
光の届かぬ木々の合間から、ひとつ、またひとつと現れる赤い光。
目だ。無数の赤い目が、闇の中でこちらを睨んでいた。
「……キラーアントじゃ!」
エイリクの声が響くと同時に、姿を現したそれは――人の倍ほどもある、巨大なアリ。
ギチギチと音を立てる顎。
黒光りする、鎧のように硬質な外殻。
太く節くれだった脚が地面を叩くたびに、土が派手に舞い上がった。
「吉野! 吾輩の後ろに隠れるのである!」
ハーコンが俺の前に立ちはだかる。
「わしは左をやる。主は右をやれい!」
エイリクの号令とともに、二人は左右へと散る。
エイリクがやや腰を落とし、両手で斧を構えた。
その斧に、一瞬だけ重たい気配が宿る。
「ヴァルグリンド・クリーヴァー!」
叫ぶと同時に、エイリクの斧が風を切る。
薙ぎ払われた一撃が、前方のキラーアントをまとめてちぎり飛ばした。
跳ね上がった断片が、赤黒い霧とともに宙を舞う。
「みたか吉野! 攻撃こそ最大の防御じゃ!」
続けて、ハーコンの前にも別の群れが押し寄せてくる。
その動きを静かに見据えながら、ハーコンが低く呟いた。
「オブデュレイト・ウォール!」
彼の目の前――地面が割れ、轟音と共に巨大な岩壁が隆起する。
突如現れた障壁に、アリたちの進軍がせき止められた。
その壁に向かって、ハーコンが自らの盾を叩きつける。
ガンッ!!
「ストーンヘイル」
衝撃が壁を走り、瞬時にそれが爆ぜた。
砕けた岩片は凄まじい勢いで前方に飛び散り、
散弾のようにキラーアントたちを次々と粉砕していく。
「防御こそ最大の攻撃である。」
一瞬で群れが霧散した。地に残るのは、静寂だけ。
轟斧(ごうふ)のエイリク。不動のハーコン。
その異名は、伊達ではなかった。
ギチギチと音が聞こえてきた。
再びキラーアントの群れが押し寄せる。
少数だがオークも混じっている。
「アリんこはわしらが叩き潰す、お主はオークをやってみせい」
恐怖は完全には消えていない。けれど、二人の存在、
そしてさっきスケルトンを倒せたという“確かな手応え”が、俺の背中を押した。
もう、逃げる理由はなかった。
二人はキラーアントを蹴散らし始めると
オークの一体が向かってきた。
俺は剣を構え迎え撃つ。
オークは眼前に迫ると、太い腕で槍を振りかぶる。
「うおぉぉぉッ!!」
俺は叫びながら、剣を思いきり横に払った。
金属と金属がぶつかる高音――オークの槍と、俺の剣が火花を散らす。
「ぐっ……!」
重い。強い。腕がしびれる。
それでも、後退しない。踏みとどまる。剣を握る手に力を込める。
(ちからはオークのほうが上……それでも!)
オークの槍が、今度は突きの形でこちらを狙う。
紙一重で避ける――が、風圧で肩が揺れた。
踏み込む――が、槍が地面を抉り返すように薙ぐ。
以前とは違う。
オークの槍――かろうじて、だが捌ける。
前は逃げることしかできなかった。
でも今は、ほんのわずかでも“対等に”戦えている。
(やれる……!)
槍が振り上げられたその一瞬、俺は全身の力を込めて駆けた。
「ッらああああああああ!!」
突進。
槍の刃先が肩を掠める。激痛。熱が走る。
だが止まらない。
剣を構え、渾身の一撃をオークの胴に叩き込む。
――ズシャァッ!!
手応えがあった。肉を裂く感触。
オークの目が見開かれ、咆哮とともに後退する。
血が噴き出す。それでも倒れない。
岩のような筋肉を切り裂いた。
もう一歩。剣を振り上げる。
「おぉぉぉッ!!」
上段から振り下ろした斬撃が、オークの肩口から胴までを深く裂いた。
その瞬間、オークの動きが止まる。
ドサリ。
巨体が崩れ落ち、地面に倒れ込む。
俺はその場に膝をついた。
息が荒い。全身が重い。肩が痛む。
(勝った……!)
その痛みが、俺が“前よりも強くなった”という、紛れもない証に感じた。
「もう一体行ったである!」
振り向くと、別のオークが槍を構えながら突っ込んできていた。
俺は再び剣を構える。――もう、恐怖はなかった。
それから俺は、合計三体のオークを倒した。
全身は汗でびっしょりだったが、不思議と気力は尽きていなかった。
「二人は何でスキル名称を叫ぶんだ?」
息を整えながら気になったことを聞いてみた。
「心の中で唱えるだけでも発動するのであるが、
気合を入れて叫ぶと技の威力が上がるのである」
ハーコンがすぐに答えてくれた。
冗談みたいな話だが、きっと本当のことなんだろうな。
俺も使えるスキルを覚えたら叫んでみようと考えていると。
通信機からノイズ混じりの声が響く。
「魔物は南側に集中しています。手の空いた者は南側へ援護をお願いします!」
「わし等が向かう」エイリクが即答する。
「了解しました。至急向かってください」
「吉野、次に行くぞい!」
俺たちは小走りで南側へと向かった。
♦
現地に到着すると、六人のプレイヤーが必死に応戦していた。
キラーアントとオークに混じって――
一際巨大な影が、地面を揺らしながら立っていた。
「サイクロプスであるな」ハーコンが低く唸る。
「ありゃあ、あやつらでは荷が重いのう」
それは、まさに“巨人”と呼ぶにふさわしい存在だった。
一つ目の怪物。サイクロプス。
鋼の棍棒を握り、荒々しく地面を踏み鳴らし、吠えるたびに空気が震える。
俺の手が自然と汗ばむ。
「Cランク任務にでるのは珍しいであるな」
「どれ、わしらが――」とエイリクが一歩を踏み出した、そのときだった。
ズン――と地を揺らすような足音とともに、ひとりの男が巨人に向かって走り出す。
「ダグラス・ケイン……!」俺は思わず息を呑んだ。
先ほど会ったばかりの男。ノウシス最強と呼ばれた存在が――
今、巨人の前に立ちはだかろうとしていた。
ダグラスは、ただ真っ直ぐにサイクロプスへ向かっていく。
その姿は、まるで自分が相手を“狩る側”だと信じて疑わない者の歩き方だった。
「一人で行く気か!?」誰かが叫ぶ。
だが、ダグラスはそれに答えない。
目の前の怪物を、ただ“壁”のように見据えたまま歩き続ける。
サイクロプスが唸り声を上げ、腕を振りかぶる。
棍棒が空を裂きながら、勢いよく振り下ろされた。
「ダグさんっ!!」
誰かが声を上げたその瞬間――
ダグラスの身体が、音もなく横に消えた。
まるで風のようなステップで、棍棒の直撃をいとも容易くかわす。
そしてそのまま――
「ハァッ!!」
全身をひねり、跳び上がりながら右の拳を突き上げた。
巨体の腹部に――その拳が、突き刺さる。
ドゴォォンッ!!
サイクロプスの巨体が浮く。いや、正確には――跳ね上がった。
「な……」俺の口が開きっぱなしになる。
巨人が地面に激突する。
衝撃で地面にヒビが走り、土煙が舞い上がる。
粉塵の中から立ち上がるサイクロプス――だが、動きが鈍い。
そこへ、さらにダグラスが追撃に移る。
「レヴナント・ブレイカー」
低く、しかしはっきりとした声が、空気を震わせる。
ダグラスの拳に、青白い光が宿る。
次の瞬間――
「オオオオオッ!!」
突撃。
そのまま巨人の腹へ、光を纏った拳が炸裂。
衝撃波が走った。
光と土煙が四方八方へ弾け飛び、まるで空間そのものが震えたように感じた。
サイクロプスの巨体が大きく仰け反り――そして、後方へ倒れ込んだ。
ゴォォォォンッッ!!
大地が揺れるほどの轟音。
地面が凹むほどの衝撃。
――動かない。
サイクロプスは完全に沈黙していた。
誰もが、しばらく声を失っていた。
「……よし、終わりっと」
ダグラスは、まるでちょっと重い買い物袋でも持った後みたいに、肩をぐるぐると回していた。
「サイクロプスは異常な再生能力があって面倒なんじゃがな」
「まぁまぁやるであるな」
周囲のモンスターの死骸が消え始める
終わったみたいだな! お疲れ」
そう言い残し、ダグラスはゆったりとした足取りで拠点へと戻っていった。
その背中には、どこまでも揺るがぬ強者の風格が漂っていた。
……これが、ノウシス最強の男か。
ただ圧倒されるしかなかった。けれど、その胸の奥――
自分でも気づいていない。
その時、英斗の中に“何か”が灯り始めていた。
それはまだ小さな火種。
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