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セイシュウ

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第三章 旅

第40話 高度1万メートル①

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「まだ、着かんのかいな……」

 葛西がシートに背中を投げ出し、天井を仰いでぼやいた。

「寝て起きても、まだ飛んどるやん……地球どんだけ広いねん」

 時計を見ると、フライトはすでに十時間を越えていた。

「映画、何本観たことか……一本目のラスト覚えてないな」

 シートモニターには、再生中の映画が止まったままになっている。おそらく途中で寝落ちしたのだろう。

「……雨宮君は?」

 視線を横に向けると、彼はまだ描いていた。

 雨宮は体をわずかに傾け、肘掛けに肘を乗せた姿勢のまま、相も変わらず液タブとにらめっこをしている。
 肩は微動だにせず、ペン先だけが淡々と動き続けていた。

(集中力……すごすぎる)

 葛西も呆れたように目を細め、肩をすくめた。

「まだ描いてるやん……」

 ちょうどそのとき、通路の先から軽やかな足音が近づいてきた。
 現れたのは、キャビンアテンダントのアンナだった。
 整った制服に身を包み、落ち着いた笑みを浮かべたまま、三人の様子を見にきたようだった。

「お飲み物、お持ちしましょうか?」

 やわらかな声とともに、ふわりと微笑む。

「アンナさん、コーヒーください」

 葛西が手を上げ、朗らかに答える。

「あ、俺も」

「僕も……」

 軽く会釈を返すと、アンナは静かに機内のサービスエリアへと戻っていった。

 数分後、トレイを手に再び現れた彼女が、温かいコーヒーを一人ひとりに丁寧に配っていく。

「お待たせしました。どうぞ」

 白い紙カップからは、香ばしい香りが立ち上り、機内の空気をわずかに和らげていく。

「ありがとうございます」

「助かりますわ、ほんま……」

 葛西はカップを両手で包み込み、ふぅっと息を吐いた。

「……長いフライト、大変ですよね」

 アンナが笑みを湛えながら、隣の座席の背にもたれるようにして言った。

「フランスから日本は、こんなにも遠いんですね」

 苦笑いを浮かべながら返す。

「わかります。私も慣れるまでは大変でしたよ」

「そない乗ってないから、まだ慣れないですわ」

 葛西の言葉に、アンナは控えめに微笑んだ。

「では、しばらくしたらお食事をお持ちしますね。何かあれば、遠慮なく呼んでください」

「ありがとうな、アンナさん。ええ対応やわ」

「……本当に、癒されました」

 二人の言葉に丁寧な一礼を返すと、アンナは再び通路を静かに歩いていった。

「……ええ人やな」

 葛西がぽそりと呟く。

「うん……」

 英斗もカップを口に運びながら、小さく頷いた。

「そういえば、長時間の移動でミッションが発生したりしないのか?」

「ないない、そんなんあったら怖いやん」

「乗り物での移動中では聞いたことないな」

「そんな事例あってみ? 絶対乗らへんで」

 葛西が苦笑いを浮かべる。

「それもそうか」

 肩をすくめた――その時だった。

「……ん?」
 機体が、ごくわずかに揺れた。

 俺と葛西が同時に顔を上げた。

「……今、揺れたか?」

「ちょっと、気のせいちゃう?」

 葛西が首をかしげた直後、アナウンスが入る。

『ただいま、軽度の揺れを感知しました。飛行に影響はありませんので、ご安心ください』

「……よかった」

「まぁ、空やし多少はな……って言いながら、揺れたあとのコーヒーめっちゃ怖いねんけど!」

 葛西が大事そうにカップを抱えながら言う。

「吉野君が余計なフラグ……」

 ——そのときだった。

 鋭い警報音が、機内の空気を切り裂いた。

 全員の思考が一瞬止まったように感じた。誰も動かず、誰も声を出さない。

 あの雨宮でさえも、ペンを止めて顔を上げる。

 静寂を破ったのは、葛西の低い声だった。

「そんなアホな……ありえへん」

 俺はライブラを確認した。

【ミッション】
 迎撃依頼
 ランク:C
 人数:3
 期限:12時間
 場所:現在地

 強制開始まで 3分前

「開始まで3分!」

 その叫びを皮切りに、葛西の声が飛ぶ。

「雨宮君は機長の近くで待機や!」

 雨宮は再びペンを動かし始める

「雨宮!雨宮!」

 動く様子が無い

「……もうええ! 吉野君、代わりに行ってくれ!」

「俺はここで見張る!」

 足早にコックピットへ向かう途中、アンナがこちらに気づき、ただならぬ様子にすぐ理解を示した。「吉野さん……まさか――」

「はい。ミッションが出ました。場所は“現在地”。……つまり、ここです。コックピットにも出現の可能性があります」

 一瞬だけ、アンナの目が見開かれたが、すぐに冷静さを取り戻し、頷いた。

「分かりました。機長に伝えます。」

 そう言うと、アンナはドア横のインターホンに手を伸ばし、機長席と交信を始めた。口調は丁寧だが、言葉にははっきりと緊張が乗っていた。

「機長、こちらアンナ。“現在地でのミッション”が発生。そちらにも出現するかもしれません――」

 受信側からも応答があり、彼女は頷いた。

「機長も事態を把握しました。緊急モードに切り替えます。……お願いです、気を付けてください」

 その声に英斗も小さく頷き、装備が展開されるのを感じた。

 鎧と刀が現れた、ミッションが開始されたようだ。

 機内は揺れている。誰かが不穏な気配を察知しているかのように、遠くで誰かの足音が響いた。静かな空の旅は、もう終わりを告げていた。

 葛西の姿が見える。軽装のアーマーが光を受けて、鈍く鈍色に反射していた。

 目が合う。互いに声は出さなかった。ただ頷き合うだけで、状況は共有できていた。

(どこだ……どこにいる……)

 視線を巡らせる。客席、天井、足元、すべてが疑わしい。  まるで「いつ出てくる?」と問いかけてくるような空間の圧が、皮膚を伝ってくる。

 アンナから声がとぶ
「コクピットには異常ありません!」

「近くに反応はある!なんで見えへんねん!」

 葛西の声。いつもの調子は消えていた。

 突如、機体がぐらりと大きく傾いた。

 思わずよろめく

 それまで淡々と続いていた振動が、突如として重たく軋むようなものへと変わる。
 座席がきしみ、天井の照明が不規則に明滅する。耳の奥で、異音のような風切り音が唸った。

 直後――

 轟音と共に、右側のエンジンが火を噴いた。

「っ……!」

 機体の外、窓の向こうで火花がはじけるのが見えた。細く、だが確かに尾を引く光の線。
 警報音が機内を引き裂くように鳴り響く。

「右エンジン、損傷確認!」

 アンナの声が鋭く響き、即座にインターホンへ手を伸ばす。
 その目には明らかな緊張が宿っていたが、声は訓練された者らしい冷静さを保っていた。

「コックピット、こちらキャビン。右エンジンに火災、損傷確認。緊急プロトコルに切り替えます――!」

 何が起きたのか――誰も言葉にできず、ただその場に立ち尽くしていた。

 そんな中、葛西がふと動く。
 彼の視線の先には、ひたすら液タブにペンを走らせていた雨宮の姿があった。

 雨宮は窓の外をじっと見つめたまま、狂いのない線を描き続けていた。

 葛西がその視線を追う。窓の外――ちょうど、火を吹いたエンジンのあたりだ。

「嘘やろ……外に、おんのか……?」

 呟くその声には、信じられないという色が濃かった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 旅の始まりは穏やかに――そんな希望はあっさりと裏切られる。
 初の長距離フライト。新たな仲間たち。そして、空の上で突如発生する強制ミッション。
 密室に等しい機内での戦闘、その緊張感はこれまでとは一線を画します。

 空の旅は、過酷だった。

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