空白に舟を浮かべろ!

SB亭孟谷

文字の大きさ
40 / 41
第三章 創作! 物語の世界!

第39話 浮かべろ

しおりを挟む
 空間に触れた隕石は、光の線に形を変えて、地球に降り注いでいく。

 僕が、『イデア』を『アイデア』に変換したからだ。


「なんてことだ……私の計画が……」

 糸目の男が、隕石が光として分解されていく様を、呆然と見ている。
 
「……イデアとアイデア。スペルはどっちも『I』『D』『E』『A』だ。プラトンの言う『実像の概念』を、それを生み出す『発想』に変換するなんてものすごく簡単な事だったんだよ。……僕にもできるくらいね」

 この日この時、世界中は昼も夜もなく、眩しい光に包まれたという。その光の正体は……宇宙からもたらされた莫大な『アイデア』だ。


「あと一歩で……あと一歩でこの空間に沢山の人間が訪れて……豊かな文明になるはずだったんだぞ。それを君は……」

「あんたには悪かったよ。幾百年かけた計画をこんなにしちゃって。でもさ……カエサルの言葉を思い出せよ。隕石という苦難を乗り越えた人類は、このあとどんなルネサンスを起こすだろう?
 ……何せこの質量のアイデアが、今日地球に降り注ぐんだぜ?
 ……少し楽しみに思えてこないか……?」

 
 糸目の男は、肩を落としてその場にへたり込んだ。

「自分が何をしたのか分かっているのか……人間のいない文化は栄えない。リード君と君、そして隕石が着火剤になって、私の作った文明が栄えるはずだった……
 廃れるぞ。この世界は……それがどういう意味か! 君に分かっているのか! ええ!?」

 男の糸目からは雫が溢れていた。何かに、怯えていた。

「孤独になるんだぞ! 君も! 私も!! 何者にもなれないでこの白い空間にぶら下がる記号の一つになるんだぞ!
 ……死ぬことも許されない……永遠の孤独。独りになるんだぞ……
 耐えられるのか、君は」

 僕は、何も答えられないでただ、地球に降り注ぐアイデアを見ていた。

「世界中の人間に入り口を開けばいいじゃないか。誰かは来るよ」

「保証があってものを言っているのか!?
 何もわかってないな君は!! 言っておくが君は元の肉体に戻れないぞ!? リードだってそうだ!
 君たちが生きていくには、もうこの空間に留まるしかないんだぞ!? この何もない空間に!!」

 僕は黙って宇宙を見ていた。太陽を間近に感じるような、眩しい光だった。

「ルネサンスが起きたとして……誰が物語なんて書くんだ。
 もう、『物を語る行為』は前時代的と呼ばれつつあるんだ。
 誰がここに……物語を書きに来てくれる……」

 震える声で、男は続ける。

「最も読まれている書を知っているな? いうまでもなく聖書だ。なぜ聖書はここまで広まった? それは発行部数が多く、歴史も古く、翻訳の数も多く……何より宗教という強い依存装置があったからだ。聖書に比べたら私の積み上げた百年なんて……なんの価値もない。私は未だ神ではない。そうなるはずだった。そして、君を含む人類全員を導く予定だったのに……君が台無しにした……」

 地球に降り注ぐ光を眺めながら、僕は、リードのことを思った。彼女が、最後に僕にかけた言葉を思い出していた。

『この先、どんなことがあっても私の事を、ずっと信じてくれますか?』

 光達が地球に降るのを見て、僕が思い出すのはどうにも、この一言だった。

「……リードはどうなる?」

「どうもこうもないさ……彼女も君と一緒だ。何者にもなれず、独りぼっちになる。そうならないためにこの世界に来たのに……」

 彼女の言葉が頭の裏で踊る。
 リードの言葉。そしてリードの温もり……
 
『信じる』あれは、どう言う意味だったんだろう?
 彼女が僕の腰に回した温もりを、何度も脳味噌がリピートする。

 そして……

「あ……」

 僕のポケットに、何かが紛れ込んでいることに気がついた。 
 

 おそらくあの瞬間だ。夕陽の中、抱き合ったあの瞬間に、彼女が僕のポケットに紙を忍ばせたんだ……。

 色々な事がありすぎて気が付かなかった……。

「なんだこれ?」

 僕が困ったり、悩んだりすると、いつもリードが導いてくれていた。

 この紙ももしかしたら……それかもしれない?

 僕は紙を広げると、こんな文言が書いてあった……。


 * * * * *



 (   )が出てきた場所まで戻ってください。
 そして、一個前の話に戻って、ライトさんが言いかけた言葉を探して……そこから下を30分経つまで、頭だけ読んでください




 * * * * *

「なあ! さっきまで僕らがいた世界はリードが書いたんだろ!?」

「だったらなんだ……」

「リードは……こうなることもずっと、わかってたんじゃないか!? まだ僕に何か、気がついて欲しい事があるんだ!」

「それはない。……彼女が書いた物語の世界を、当然私は把握している。全てな。もう物語の中に、これ以上ヒントも仕掛けも残っていない。私が言うんだ。断言する」

「あんたが見落としてる事はないのか!?」

「無い。あれば私が先に気がついている。
 私は全て把握している! 鉤括弧の最初と最後も全て読んだ!!」

 イデアが、アイデアになって、人類の絶滅は免れた。
 その代わり、僕たちはこの何も無い世界に取り残されてしまった。何も無い世界で……僕とリードは何に成れるだろう?

 リード、君は、まだどこかに何かを隠しているんだろう?
 僕に何を伝えたいんだ……

 君の声に応えたいんだ! 君を信じる! だから教えてくれ! リード!!
 僕と君は、この世界で何になったらいいんだ!!



 * * * * *

 僕は心でリードに精一杯呼びかけた。
 すると……かすかに彼女の声が聞こえた気がした。


「空白に、何を浮かべたらいいか?
 ライトさんにはもう、わかっているはずですよ?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...