カエルのマユちゃん。

SB亭孟谷

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弱者の盾 下

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 かの大岡越前、『三方一両損』並の攻防手が、小学2年生の肩に重たくのしかかった。

 麻由は熟考の末、

「わかったじゃあこうしよ! ハムちゃん、半分だけドーナッツを返して」

 ハムスターは、ガクガクと震えながら小刻みに数回頷いた。

「それで、ワンちゃんのドーナッツを半分猫ちゃんに分けてあげて」

「ワン!!」

 御意にござりますー! と異界の忠犬は答えた。……口をもぐもぐしながら。

「……ワンちゃん?ドーナッツは?」

「ワン?」

 柴犬は足元を足元のニオイをクンクンとかいだ。

「ワン!! ワンワン! ワン!!」

 一大事にごさります! 洋菓子が賊に盗られてございます!と、柴犬は答えた。

「ワンちゃん、ドーナッツ食べちゃったの!?」

「ワンワンワン! ワンセー!」

 其のようにございます! 反省! と犬は返した。

「シャー!!」

 猫の目から滝のような涙が流れ、虹を作った。

 その光景を見たハムスターは、滝のような涙に怯えて、

「はわわわ……ああ……うわあああ」

 と大粒の涙をポロポロこぼした。

「じゃあ、じゃあこうしよう!もうこのドーナッツを二人で半分個にするしかないよ!
 勝手に食べちゃったハムちゃんも悪いけど、ドーナッツ無視して遊んでた猫ちゃんも悪いよね!?」

「遊んでないジャン! あと30分以内に火を起こさないと危険ジャン! キャンプ舐めんなジャン!」

「うう……うううう……うわああ……」

「ワンワンワン」

「グア」

 もう! みんなわがままだな!
 
 小学2年生は、思わず眉間に皺を寄せ、ほっぺを膨らませたのであった。

「猫ちゃん、そんなこと言ったってもうドーナッツは無いんだから、半分で我慢するしか無いからね!」

「悲しいジャン、夜に向けてタンパク質の補給が生命線ジャン」

「じゃあ他のものでなんとかすればいでしょ!」

 両者譲らず。不毛な言い合いをよそに、ハムスターがそぉぉっと……ドーナッツを口に運んでモグモグした。

 それに猫が気がついて思わずヒートアップした。

「食うなジャン!!」

「は……はぶはぶはぶ……」

 猫に詰められて、大泣きしながらもハムスターは口を止めない。相当な食い意地だ。

「やーめるジャン!!」

 ぺちん、と、ついに猫から手が手が出た。

「あ、あう……あうぅぅ……」

 悲しいほど威力のない猫パンチだが、ハムスターは相当痛そうだ。
 ……演技かもしれないが。

「やめなさい!」

 見てられない大乱闘を麻由が制した。

「もう喧嘩はなしだよ!いいね!」

 猫はかなり不満そうだが、ハムスターは両目に大粒の涙を浮かべながら、コクリコクリと頷いた。

「じゃあ、半分に分けるから。ハムちゃんドーナッツ返して」

 麻由が手をハムスターに差し出す。すると……

「あ……あう……」

 ハムスターは硬直してしまい、ドーナッツが体から離れない。

 猫は短い足で貧乏ゆすりをはじめた。

「『あう』じゃないよ! 本当はハムちゃんのドーナッツじゃないんだからね!」

 流石に麻由が叱っても、ハムスターはカタカタ……と震え、上目遣いで麻由を見ながら固まっている。

「震えたって駄目だよ! 半分でいいってハムちゃん言ったよね?」

「ううぅ……」

 そして、ついにドーナッツがハムスターの手を離れた。

 麻由が、ドーナッツをなるべく均等に、縦に割ろうとしてその時である。

「あ! ……ああ……ああうう……」

 ハムスターが今日一番大きい声を出し、思わず麻由の手が止まった。

「え、なに?この割り方じゃ嫌なの?」

「うぅぅ……ひぅ……あうう……」

「でもそんな、綺麗に半分こできないよ。頑張るけど」

「あわ……うう……」

 すると、ハムスターは地面にドーナッツの絵を描いた。

『こう、分けてくれ』と言う要望だろうか。

 そこには……ドーナッツを縦や横ではなく、

 円の外周と、『内径の辺り』つまりドーナッツの穴のスレスレの部分に点線を引いた。

 これで面積的には平等だろう、とハムスターは言ってるのだ。

「……お前!! 猫ちゃんに『ドーナッツの穴でも食ってろ』って言ってるジャン!!」

 猫の頭からは湯気が出ていた。

「ひぃ……う……ううう……」

 ハムスターは、潤った瞳で麻由を見つめ、両前足を合わせて『お願いします、お願いします』と訴えてきている。

「これは……流石にちょっとなあ……」

 一行に事態が解決の日の出を見ない状況に、麻由も困り果てていた。

 すると……

「グア」

 そういえば先ほどからいたカエルが、口から、先ほど丸呑みにしたドーナッツをポーンと出した。

「え! マユちゃんくれるの!?」

「ギョアンワ」

「優しい!! ありがとマユちゃん!!」

 麻由は、カエルに抱きついた。

 猫は、カエルの口から、……というか、胃から出てきた、湿ったドーナッツをじーっと見ている。

「よかったね! 猫ちゃん」

「…… 食べたくないジャン……」

「なんで! せっかくマユちゃんが出してくれたんだよ!?」

「『だから嫌』なんジャン! なんか汚いジャン!!」

「なんでそんなワガママなの!?」

 再びモメだした猫と麻由を尻目に……ハムスターは麻由の手からドーナッツをそお……っと奪い返し、

人間と怪異の怒鳴り合いを肴に、ドーナッツをハムハム食べ出した。
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