42 / 59
シーズン3
シャクレパンダー
しおりを挟む何の音もない、冬の夜の松原である。
宏明が仕事を終えて家路に向かっている最中 、明らかに自分をつけている気配を感じた。
自分の後ろをコソコソと、壁や電柱に隠れながら跡をつけてくる。
しかし自分の面積が隠れる対象より大きいために、帰って鬱陶しく思えてしまい……
「何ですか」
宏明は声をかけた。
声をかけた相手は、白と黒の毛むくじゃらの四つ足の動物……いや、はっきりと、パンダであった。
青いズボンを履いる。顎が、異常にしゃくれている。
宏明が声をかけても、まだ自分は隠れているつもりなのか、顔と異常にしゃくれた顎の半分を電柱から出して、じ……っと宏明をみている。
また怪異か。最近増えたよなあ。宏明は異常に顎のしゃくれたパンダを見ながらそう思っていた。
パンダは真面目な顔のつもりなのだろうが、しゃくれ過ぎた顎のせいでふざけて見える。
そのふざけたような顔がコンプレックスだから隠れているのかな?
宏明はそこまで察すると、気にせずに家路に戻ることにした。
「宏明さん」
電柱から声がする。異常に顎がしゃくれたパンダが話しかけている。
宏明が振り返ると、パンダは姿勢を崩さず半分電信柱に隠れてじー……っと宏明を見ていた。
「初めまして。わたし、『シャクレパンダ』と申します」
怪異の名前は見た目そのままだった。どうやら自分の容姿にコンプレックスを持っているのとは違うのかもしれない。……だとするならなぜ隠れているのだろうか。
「はい。何か御用でしょうか?」
「宏明さんにお伝えしないといけない、大事な用事がございます」
「……はい」
「その……あまり大きな声で話せない内容でございまして」
「はあ」
「こちらまで、きていただけますか?」
怪異に頼まれた。面倒臭えなあ、と宏明は思ったが、宏明の中では怪異とは面倒臭いものに成り果てていた。
宏明が、パンダが隠れている電信柱の前までやってくると……
「もう少し、近くまで来れますか?」
と頼まれた。訳もわからず、宏明は耳をパンダの口元まで近づけると、
「ぷう」
生暖かい息を吹き込まれたと思い、思わず視線をパンダに向けると、
先ほどまでパンダの口があった場所には、ズボンで隠れていたはずのパンダの尻があった。
「くっせえな!!」
思わず宏明が大きな声を出すと、
いつの間にかズボンを上半身に『履き替えて』いたパンダの尻が、後ろ足で孔明の胸ぐらに掴みかかってきた。
「貴様!! 怪しい奴め!!」
「わ! なんだ何だ!? 尻がしゃべってる!?」
「尻とは失礼な!! 小官はFBIのブラウン捜査官だ!!」
パンダの尻は、ものすごい力で宏明を突き飛ばした。
これまで、数多くの怪異と接触してきた宏明だが、上半身と下半身で性格の違うパンダの怪異は初めてだ。
「おい! 怪しいそこの貴様! この辺りでパンダを見なかったか!?」
「……パンダ?」
「そうだ!! (ぷう。)……失礼。
凶悪なパンダだ!! それはそれは(ぷり)……失礼。
それはそれは悪いパンダだ!」
「ん?どういったパンダです?」
「顎がしゃくれていること以外特徴がないパンダだ!(プススーー)失礼。
とにかく悪い! 奴はな!(ぷう)
人の顔に、屁をこくようなパンダだ!!(ぷぷーー)……失礼」
「はあ……」
「あと一歩なんだ。あと一歩で(ぷーーー)
あと一歩で奴を追い詰めることができるのに!(ぷす)
いつもあと一歩の所で取り逃す!(ぷり)
全くしたたかなパンダだ!!」
「多分ですがー……」
「何だ! 貴様やはり(ぶ)……失礼。
貴様やはり何か(ぷ)っているな!!」
宏明は、なんと説明したらいいのかわからなくなってしまい……
「多分一生見つけられないんじゃないすかね……」
と、思ったままの言葉を放った。
「何を貴様ー!(プププププ)」
勢い凄まじく、尻(と屁)が迫ってくる!
「来んな! 来んな来んな! 近寄るな!」
宏明は、尻(と屁)を押し退ける。
もう嫌だ。関わったらダメな怪異だ。さっさと退散しよう。
宏明が、足早にその場から離れようとすると……
「宏明さん……」
『上半身の方』の声が聞こえてくる。
振り返ると、案の定、いつの間にかズボンを下半身に履き替えた、異常に顎のしゃくれたパンダが、草の茂みに隠れている。
宏明は大きくため息をついて……
「また今度……」
と言ってその場を離れようとした。
「あ、お待ちください宏明さん。
他の者、特に警察機関には聞かれてはまずい内容なのでございます。」
「左様ですかさようならー」
宏明はパンダも見ずに立ち去ろうとすると……
「と言いますのは、この町で何が起きているかと、黒鉄様の居場所でございます」
思わぬ名詞に、ついに宏明は足を止めた。
「親父の?」
「はい……」
「居場所って……どういうことですか?」
宏明は、パンダの声がする方に近づいた。
「……逃さんぞ貴様ーー!!」
草の茂みから尻が飛び出した。
宏明は踵を返して、走って家まで逃げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる