25 / 110
第二章 錬金術師編
20、最高の魔術道具
しおりを挟むルーディアのところから戻ってきて、すでに4日が経っていた。
ここ最近のハードスケジュールに俺の体が悲鳴を上げているのか、本調子に戻るまで時間がかかるようになってきていた。
俺は16歳、もうすぐ誕生日を迎える。そして最短で亡くなった王子は18歳だ。
もう残された時間は、あまり無いのかもしれない。
そんな俺は今日、スライム牧場に来ている。
それは魔術道具に使えそうな素材を、ライムと探すためだ。
何故魔術道具の素材を知っているのかといえば、ルーディアとの話をライムにした結果、最高の魔術道具について教えてくれたのだ。何でも昔あった錬金術師に聞いたとかなんとか……。
それはともかく俺はルーディアのために、新しい魔術道具を作る事に決めたのだった。
「この前来たばかりだけど、凄い量の素材だな。こんなにため込んでどうするんだ?」
「なにを仰っているのですか?ここは全て主の物なのですよ?ですから最終判断は主にお任せいたします」
なんてこった!
ライムに全て任せるつもりだったのに、決定権が俺に戻ってきてしまった。
そんなこと言われても、この量の素材をいきなりギルドに持って行くのもどうかと思うし、国で使ってもらうにも誰にお願いして良いのか、どう言い訳をしたらいいのか全くわからない。
だから俺はいつものように、とりあえず後回しにする事にした。
「これは俺の呪いが解けるまで、とりあえずこのままにしておいてくれ」
「畏まりました」
「それと、もし……もしも俺が呪いに負けて死んでしまった場合は、これを売り払ってライムが生活するための財産にしろ。それでここのスライム牧場を何処かで続けてくれたら嬉しい」
もし俺が本当に死んだとしたら、ここにいるスライムたちの居場所は無くなってしまうだろう。
どうしてもそれだけは避けたかった。
その言葉に顔を歪めるライムを見つめ、俺は笑顔で続きを言う。
「だけど俺は絶対に諦めないから、だからそんな心配そうな顔するなって」
「……その言葉、絶対に信じますから忘れないで下さいよ」
そう言うとライムは俺を引き寄せて、優しく抱きしめた。柔らかい感触に包まれた俺は、ライムを抱きしめ返す。その体は少し震えていた。
「主がもし亡くなってしまったら……」
「うん」
「主の全てを、吸収しますから」
ん???
最近俺は難聴になったのだろうか、周りの人たちが何を言っているのか理解出来ない。
体を離すとライムは少し微笑んだように見えた。
「私はスライムですからね、獲物を取り込むことがこの体でも可能なんですよ?だから、約束です」
そう言いながら、俺に小指を突き出す。
これは俺がライムに教えた、約束をするときに使う方法だ。
とりあえず死ぬ予定がない俺は、その小指に指を絡ませる。
「絶対に死なないで下さい」
そういうとライムは絡まった俺の小指にキスを落とした。
「え?いや、ちょっ……俺が教えたのと違うんだけど!!?」
「私なりにアレンジしてみました。この方が効果がありそうじゃないですか?」
そうだろうか?なんだかそんな気もしてきた……。
驚きつつも、なんだか納得している俺を見たライムは「こんなすぐに流されて……心配です」と、小さな声で呟いているのが聞こえた。
そう思うなら何が心配なのか教えてくれ!!
それなのにライムは何も言ってくれないので、暫くじっと見つめてみる。そんな俺に溜息をついたライムは、ポケットから何かを取り出した。
それはライムの手にすっぽり隠れていて、何を持っているか俺には全くわからなかった。
「では今回、約束した記念にこれを贈りますね……本当はもっといい場所でサプライズしたかったのですが、早めに渡しておかないと、私の気が落ち着きません!」
「……えっと、なにこれ?」
「前に言いましたよね?主に贈るものを作ると。これがお約束の物ですので、さあ手を出してください」
そう言って手を出しているライムに、何だか恐怖を感じつつ俺も手を出す。
その手に、何かがコロンと乗るのがわかった。
そしてギュッと握るように手を包まれたと思ったら、すぐにライムは手を離していた。
「さあ、手を開いてみて下さい」
「えっと、これは……小さいけど指輪?うわっ、なんだ!!?」
そう呟いた瞬間、指輪が突然光りはじめた。
そして光はどんどん大きくなり、俺の手を包み込む。
驚いているとその光は徐々に収束し、いつのまにか蔦模様が施されたライム色の綺麗な指輪が、俺の小指に収まっていた。
「び、びっくりした。なんだこの指輪……」
「その指輪は、全て私の一部で出来ていますので、ご安心下さい」
「は?」
俺はドン引きしつつ、小指に収まっている指輪を撫でた。
触り心地は金属にしか思えないのに、これが全てライムで!!??いやいや、ライムの何処で??
そして何を安心したらいいのか、わからないんだけど!
「ライムの体、どこか欠けてるわけじゃないよな??」
「何を仰っているのですか?私はスライムですから、欠けてもすぐに戻ります」
「確かに、そうだよなぁ……」
俺は盛大にため息をつき、ライムに貰った指輪を改めて見た。
なんというか、俺の執事は愛が重過ぎる……。
「それから、これは主の誕生日プレゼントではありませんので、誕生日は楽しみにしていて下さいね」
「わ、わかった……」
こんなのを見せられたあとに、楽しみにしてくれと言われても怖いだけである。
俺はこれ以上この話はやめようと、ここにきた目的である素材探しを再開したのだった。
「えっと鉱物に付与するための魔石系と、マテリアルは十分だし、ガラスに付与するパウダー素材もあったから、とりあえずはこれでいいかな?」
倉庫にあった必要な物を集め終わった俺は、一度ライムに確認してもらっていた。
「大体のものはこれで大丈夫だと思います。あとは木の棒ですかね」
「木の棒?もしかして大釜をかき混ぜるあの棒の事!?」
「そうです」
前世の本とかで、魔女がかき混ぜてる姿を見た事がある。そう思い出すだけで俺のテンションは上がっていた。
「それは何処の木が良いんだ?」
「そうですね、聖霊樹の枝がいいのでは無いですか?」
「あー、あそこか……」
聖霊樹といえば、呪いを解く素材である聖霊樹の木の実を取りに行くとき、一度向かったことがあった。
その樹がある聖霊樹の森は、レベルの高い魔物の住処でありそこに一歩でも入れば、魔物が途切れることなく襲ってくる場所である。
そのため立ち止まる事はできず、走り続けなくてはならない場所なのだ。
しかし聖霊樹付近には結界が張ってあるため、聖霊樹のテリトリーに入れば、敵に襲われる事はない。
そしてその結界は俺の転移も弾くため、その場所に飛ぼうとしても、少し手前にしか転移できない。
無理に転移をすれば、魔物の群れの真ん中に出る羽目になるので、ある程度安全地帯から走り始めないといけないのだ。
「あそこに行くには、流石にライムに手伝って貰わないと無理だ」
「私も連れて行って下さるのですね。久しぶりにお役に立てそうです」
「ああ、よろしく頼む。それからダンに行く場所と時間を伝えるから、部屋に戻って手紙を出す準備をするぞ」
そう言ったとたん無表情なのにムッとしたライムは、素材と俺を抱き上げてスタスタと歩き出したのだった。
いや、転移するから俺は下ろしてくれ!!
少し拗ねているライムに、その願いは届く事はなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,871
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる