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第三章 調合編

21、聖霊樹の森(前編)

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「くそっ、右からもきてるから避けろ!!」
「貴方に言われなくても……主、少し頭を下げてください」

ライムにそう言われて、俺は大人しく頭を下げる。
すぐに俺達の上を狼型の魔物が通り過ぎて行くのを確認し、そいつの腹に魔術を打ち込んだ。
キャインと声を出し倒れるその姿は、すでに遠い。それは俺達が高速で移動しているため、そう見えるのだった。

ここは聖霊樹の森、一度足を踏み入れれば二度と帰ってこれないと噂される場所だ。
そのためSランク冒険者でも、4人以上を推奨としている超上級者向けダンジョンである。

しかしこの森の中にある聖霊樹には、Sランク級の素材が豊富に存在している。
なによりその美しい景色は、冒険者にとって死んでもいいから一度は来てみたい場所、とされていることから毎年何人もの冒険者が、この森で散っているらしい。

そんな場所に俺達が来たのは、魔法道具を作るための素材である、聖霊樹の枝を採りに来たからだ。
なによりここはずっと走り続けないと死ぬダンジョンであり、そのため俺を抱えるライムと戦闘要員のダンに、一緒について来てもらっていた。


そして少し時は遡り、それは聖霊樹の森に入る前の事。
早朝にここに来た俺たちは、森の前で作戦を立てていた。
そして朝早く来たのには、もちろん理由がある。
どうしても昼までに聖霊樹の枝を手にして、早めに王都へ帰りたかったからだ。

「そのためには、ひたすら走ってその樹まで辿り着く必要がある」
「まあここでマラソンするのは普通の事だけどな。でもセイはもっと早く行きてぇって事だろ?」

そう言って、ダンはニカっと笑う。
普通は聖霊樹の森を往復しようと思ったら、1日はかかる。でもそれを大幅に短縮する必要があった。

「そうだ、そのためにスピードアップを使う」
「空を飛んで行くわけではないのですね?」
「この森は、木の上に出られないようになっているし、木の間を飛ぶには方向転換がしづらくて、ぶつかってしまうからな」

ライムの疑問に、俺の魔術による欠点を伝えると「成る程」と頷いた。
だからこそ、俺たち全員にスピードアップをかけなくてはならない。

「スピードアップをかけた上で走り抜ける。でも俺はその速度に足がついていけないから、悪いが邪魔にならない程度に担いでいって欲しい」
「わかった、任せろ」
「承知いたしました」

素直に頷く二人は、体力がないからだろ?なんて聞いてこない。だからこそこの二人の優しさに、少し申し訳なくなってしまう。

そして先程から、ライムが何故かダンを睨んでいる。
そんなライムの視線などお構いなしに、ダンは俺に話しかけてきた。

「セイ、俺が抱えてやろうか?」
「あ、ああ。ダンがそれでいいなら……」
「お待ち下さい!」

そういうと、俺はライムにヒョイっと持ち上げられていた。

「主は私が責任を持って運びますので、貴方は絶対に触れないでください」
「お、おい……ライム?」

そう言いつつライムは、ダンをさらに睨みつけた。
そんなライムを見て、ダンがフッと笑う。何というか大人の余裕って感じがする。

「しょうがないな。ライムはしっかりセイを守ってやるんだぞ!」
「いい加減、私をあなたの息子のように扱わないでください!!!」

ダンが息子を見るような目でライムの頭を撫でると、ライムの怒りは頂点を突破したようだった。
正直、こんなに感情を露わにしているライムを見たのは、初めてかもしれない。

そんなこんなして、俺たちは聖霊樹の森へと足を踏み入れたのだった。


森に入ってから思ったのは、敵の多さと強さだった。
やはり今回三人で来たのは正解だった。
流石にダンが強いといえども、俺を抱えながら敵を切り裂き走ることは出来ないだろうからな……多分。

そんな事を考えつつ、景色が凄い勢いで移り変わり、もうすぐ聖霊樹の聖域が見えてきていた。
前も一度この三人でここに来た事があるため、ある程度慣れてきたのかもしれない。

でも正直な話、俺がお荷物だったはずなのに、こんなに早く着けるとは思っていなかった。
因みに俺がお荷物な件は、二人が捌き切れない敵を倒しているので許してほしい。


「あのシルバーウルフを切り倒したら、その勢いのまま聖域に乗り込むぞ!!」

ダンのその声が聞こえたときには、すでにシルバーウルフだった物が真っ二つに横切っていき、その勢いのまま俺達は聖域の中に転がるように入り込んだのだった。
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