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第三章 調合編
27、ルーディアからのお願い
しおりを挟むルーディアは新しい魔術道具を一つ一つ確認すると、その出来に感心していた。
「これを作った人はとても凄腕の職人ですよね?とてもお金がかかったのでは……」
「いや、これを作ったのは俺の冒険者仲間だ」
「ぼ、冒険者!?」
本業は鍛冶屋だけど……。
どちらにせよ魔術道具を作る事が本業ではないので、その事は黙っておく事にする。
「まあ、元から武器を自分で作ってるような、物作りが好きなやつなんだ」
「冒険者には貴方といい、変わった方々が多いのですね……」
このままルーディアの冒険者に対するイメージが、曲がっても困るので俺は一言添えておく。
「いや、そんなやつ稀だ。冒険者はもっと戦う事だけ考えてる奴の方が多い」
「そ、そうですよね。僕がたまたまそういう方々と出会ってしまっただけですよね」
まあ俺もダン以外の冒険者に、あまり会ったことが無いから知らないんだけど……。
でもルーディアのイメージを戻す事が出来たならよかった。
「あの、今度この方に合わせて頂いても?」
「え、これを作ったやつにか?」
「ええ、どうしてもお礼を言いたいものですから」
本当、ルーディアは真面目だなと感心してしまう。
それよりもルーディアとダンを引き合わせて大丈夫なものか……うん。どちらも穏やかな性格だし、問題ないきがする。
「わかった。今度確認してみる」
「ありがとうございます。ところで、その方とは長いのですか?」
「ああ、そうだな……もう7年ぐらい一緒に冒険しに行ってる気がするな」
と、言っても月に二回会うかどうかだから、会ってる回数は少ない気がする。
その答えにルーディアは顔をしかめて、何か呟いた。
「そんな長いのなら、もしかするとライバルの可能性もありますね……」
「ライバル?」
「いえ、こちらの話です。僕もセイともう少し仲良くなりたいです」
仲良く?
すでに俺はだいぶ心を許しているので、仲が良いと思っていたんだけど……そうではなかったのかと、少しショックを受ける。
そんな俺を見ていたルーディアは、何か思いついたのか俺の手元に視線を落としていた。
「あの少し宜しいですか?試したいことができましたので、左手の魔法陣を見せて下さい」
そう言いながらルーディアは、近くにあった丸い魔石が埋め込まれたネックレスを取り出した。
「セイがその魔法陣を使えるようになったとき、すぐわかるようにこのネックレスを光らせようかと思います」
「それは助かる。確かに使えることに気がつかないのはもったいないからな。それにずっと気になってたんだが、この魔法陣は何に使えるんだ?」
俺が魔法を流せない体のせいで、この魔法陣を使用することはできない。
だからこそ、どんな効果があるのか凄く気になっていたのだ。
「それは秘密にしておきましょう。さあ左手を出して下さい」
「む……わ、わかった」
教えてもらえなかった事は残念だけど、ここで駄々を捏ねたら俺のイメージに関わる。
だから大人しく左手を差し出した。
「ありがとうございます。この魔法陣に先ほど見せたネックレスと紐付けをする項目を増やします。また少しくすぐったくなると思いますが、我慢して下さいね」
そう言うとサラサラと俺の左手の甲に、新たな線を描き込んでいく。前も同じ作業を見たけど、やはりルーディアは器用だ。
しかし今の俺に、そんな事を考える余裕はなくなっていた。何故か前のときより、とてもくすぐったく感じてしまったのだ。
「……ッ……!!」
我慢をするため、目を瞑って他のことを考えようとしたが、閉じたせいでさらにくすぐったく感じてしまう。
もう声を抑えるのが限界だと思ったそのとき、ルーディアから終わりを告げる声がかかった。
「……はい、出来ましたよ」
「あ、ああ。ありがとう」
た、助かった。俺のイメージは崩れなかったはずだ!と、冷静に返事をする。
そんな俺を見て、ルーディアはクスクスと笑い出した。
「す、すみません。くすぐったそうにしているのを知っていて、最後の方はインクのついていないペンで手を撫でていました」
「な、なななな!!!?」
「駄目なのはわかっていたのですが、セイが我慢している様子をもっと見ていたくて……つい」
全然イメージを守れていなかったことに恥ずかしくて、俺は両手で顔を覆った。
そしてルーディアは動かなくなった俺の首元に、そっとネックレスをつけてくれたのだった。
暫くしてから復帰した俺は、ルーディアへ単刀直入にお願いをするため、頭を下げていた。
「俺のために刻の調律を作ってくれ!」
「それはもちろん僕がやります。ですがこちらの魔術道具には、魔法陣を施さなくては使えませんので、できれば調合は来週まで待っていて頂けますか?」
「そんなにかかりそうなのか?」
既にある魔法陣を描き込むだけだから、そんなにかかるとは思っていなかった俺は、首を傾げてルーディアを見た。
「ええ……残念ながら。これを作るには新しい魔法陣を考えなくてはなりませんので」
「新しい魔法陣?」
「そうです。僕が今まで描いていたものは、僕の魔術道具の素材に合わせて考えたものです。ですが今から使う魔術道具の素材は全くの別物です。ですからこれの良さを100%以上引き出すためには、新しい魔法陣を考えなくてはならないのです」
理解した俺は「成る程」と相槌をうち、来週まで結果が分からないことに少し不安になる。
今使っている魔術道具の魔法陣を研究するのに、すでに何年もかけているはすだ。だからこそ新しい魔法道具をより良い物にするのに、1週間で出来るのだろうか……?
「大丈夫です。今まで蓄えた知識が僕にはありますから」
「ルーディア……」
どうやら不安だったのが顔に出ていたのか、ルーディアは安心させるように俺の頭を撫でたのだった。
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