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第四章 悪魔召喚編
33、本物の強者(前編)
しおりを挟む近くの森から帰りルーディアと別れた俺とダンは、クエスト完了報告のためにギルドに来ていた。
そして俺は、パーティーの話について確認しなくてはならないことがあるので、ダンを待合場に残して一人、窓口に向かったのだった。
「クエスト完了お疲れ様です。こんな簡単なクエストなのに受けて頂いてありがとうございました!とくに今の時期は海辺で大規模討伐をやっているので、王都に若手や中堅の冒険者が少ないのですよねー」
そういうギルドのお姉さんはいつも通り元気である。流石俺にとっての癒し系お姉さんだ。
それにしても若手や中堅がいないというのは、殆どの冒険者がこの王都にいないということだ。
「そんな状態で大丈夫なのか?」
「はい!一応そのために、SSランクを召集しているので……」
王都の冒険者が少ない今、SSランク冒険者を集結させるというのは、都合がいいのだろう。
そして笑顔だったお姉さんの顔が、言いづらそうに少し歪んだのがわかった。
きっと俺の答えを聞きたいのだ。
「……それで、ダン様からパーティーのために召集があるという話はききましたか?」
「ああ、勿論」
わざわざダンに頼んだぐらいだから、ギルドから言っても断られると思ったのだろう。
実際、罰則は辛いが頑張ればまた取り戻す事はできるからな。
「やっぱり……セイ様は参加されないですよね?」
「いや、今回は参加させてもらう事にした。そのかわりだが、仮面を被っての参加を許可して貰えると助かる」
「か、仮面ですか……?まあそれぐらいでしたら大丈夫だと思います。でも本当に参加で良いのですよね?本当に本当ですよね?」
机に手をついて、前のめりに問いただしてくるその姿に軽く引きつつ、俺は何度も頷いてしまった。
そしてお姉さんは喜びの余り、扉を飛び出して叫んだ。
「ギルド長!!!やり遂げました、セイ様は参加ですよ!!」
「なんだと、よくやった!!これでようやく俺の重荷もなくなる……」
扉が開いてるせいで全部丸聞こえなのだが、もしかすると俺以外は、もう参加を決めたという事なのだろうか。
SSランク冒険者といえばとても癖があるため、行動を一緒にしたくない奴らばかりなのだ。
でもそいつらが全員参加を決めた……?
それはつまり、この召集のために俺が絶対に会いたくない人物も、すでにこの王都に戻って来ている可能性があるということだ。
ならば早くギルドを去った方がいいと思い、いまだ部屋の外でバンザイしているギルドの職員さん達に声をかけたのだった。
その後急いでパーティーの内容を聞いた俺は、ギルドを去るためにダンの元に向かっていた。
待合場にもたれるようにダンがいるのを見つけたが、その隣にいる人物を見て声をかけるのをためらってしまう。
だって俺が絶対に会いたくない冒険者がそこにはいたのだ。
その姿を視認しただけなのに恐怖で震える俺は、気付かれないように咄嗟に屈んでしまった。
周りの冒険者に不審がられても今は気にしていられない。
俺がここまで恐怖するその男は、名をウルといった。
黒い髪と赤い瞳をもち、その外見は震えあがるほどの美貌の持ち主だ。まあ、俺が震えているのはただの恐怖によるものだが……。
なによりこのギルドにただ一人しかいない、8スターSSSランクを持つ男である。
それ自体がウルのためにできたランクであり、その強さは人間を超えている。
そのため進化した上位種族ではないかと、いつも噂されている男だ。
俺はこの男にどうしても会いたくなかった。
それは昔、こいつに襲われかけたことがあるからだ。あのときはダンに助けてもらわなければ、危なかっただろう。
でも正直二人が何を話しているのか気になった俺は、最終的に恐怖よりも好奇心に負けてしまい、バレないようにそっと二人に近づいた。
ようやく聞こえる位置についた俺は、顔を伏せて聞き耳を立てる。
そして聞こえてきた二人の会話に、心臓が止まるかと思ったのだった。
「ねえ、お前も俺と同じでセイを狙っているんだろ?」
「そうじゃねぇって何回言えばわかる」
「何回でも聞くさ、だってお前はこの俺と同じだからな……」
「ふん、お前なんかと同じなわけねぇだろ……いい加減話は終わりだ。お前にセイは絶対にやらねぇよ」
その会話を聞いていた俺は、一体ウルのやつはダンに何を言っているのかと、少し怒りを覚えてしまう。
だからふと顔を上げた俺は、ダンの刺すような瞳がウルに向けられたのを見てしまったのだ。
そして聞いたことのない声色でダンが呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
「……あれは、俺のだ」
その声を聞いた俺は、体の温度が沸騰したかのように熱くなり、何故かその場から慌てて逃げだしてしまった。
そして「それは狙ってるのと何がちがうのさ?」なんてウルが言っているのが聞こえたけど、そのあとの会話はもう聞こえなかった。
ウルとダンが俺の事を話していた。
まるで俺が所有物のような扱いだったのは気になったが、それよりも俺はダンの見た事のないあの冷たい表情に、恐怖を感じてしまった。
その筈なのに、俺はおかしいのだ。
さっきダンが言った───。
『……あれは、俺のだ』
この言葉が、あの低い声で脳裏をリフレインするのだ。
何故だろう。あれを聞いた瞬間体が信じられないほど熱くなってしまった。
だけど俺は認めたくないのに、男だからそんなの絶対に考えられないのに、ダンの声を思い出すだけで胸がドキドキしてしまう。
そのことに混乱しながら歩いているうちに、俺は人通りの少ない場所に出てしまっていた。
ギルド内でもこんな所まで来てしまったのは初めてだし、早く戻らないと。と思った俺は後ろを振り向いた。
そして俺は驚愕する。
「やあ、セイ。久しぶりだね。そして相変わらず綺麗だ。僕が男なんかに初めて一目惚れをさせられたんだから、やっぱりセイのことだけは忘れられないよ……」
その声、その言葉に恐怖で動けない俺の前には、今一番会いたくない存在であり、このギルド最強ランクの男でもある、ウルが怪しげに微笑みながら立っていた。
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