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第五章 兄弟編
50、父上と兄上(後編)
しおりを挟む俺は縋るような瞳でデオル兄上を見ていた。
だって俺だけ意味もなく生まれ落ちたなんて思いたく無かったから……。
そんな俺を見て、デオル兄上が口を開く。
「イル、お前は俺達の中で、一番竜人になれるはずの存在だった」
「……え?」
「ブルーパールドラゴンの呪いについては、王のみが継承されるものだ。そして第5王子の呪いの事もわかっていた。だからこそ父上はそんな呪いさえも超越した存在を作り出せばいいと考えたのだ。しかしお前が倒れたあの日から、全てが狂ってしまった。イルが倒れた後、ようやく時が来たと父上は研究を始めた。その結果、お前の持つ守護竜の呪いによって研究者達は全員亡くなってしまったのだ」
まって、守護竜の呪いで研究者が死んだ!?
まさか俺に害をなそうとしたからブルーパールドラゴンが怒って、呪いがかかったとでもいうのか?
そのせいで俺の呪いは移ると思われて隔離されたのではないだろうか……。
そしてあのとき聞いた噂も、これが原因なのだろう。
「その結果父上は研究を続けられず、いつ殺されるかわからない恐怖から自尊心を失ってしまった。そして全てを教えてくれた父上は、俺が王になったときにその意思を継いで欲しいと言ったのだ!!でも、誰がそんなことをするものか!私の可愛い兄弟達をおかしくしただけでなく、見殺しにしろと言ったも同然だ!」
「では、まさか……」
「ああ、もとからいつかチャンスがあれば討つと決めていた。それが今日だっただけの話だよ」
父上からようやく剣を引き抜いたデオル兄上は、剣から血を振り払い鞘に戻すと、いまだに混乱しているシル兄上を素通りして俺に近づいてきた。
「イル、幻滅したかい?俺はこういう人間なんだ。イルの前だけは最後まで格好をつけていたかったな」
「俺は幻滅なんて……」
「真っ青な顔で言われても説得力がないよ。でもこれが本当に最後になるかもしれないからね、だから血で汚れた体で触れることをどうか許して欲しい」
そう言うと、デオル兄上は俺を強く抱きしめた。
いつもなら嬉しいはずのそれは、血生臭くて何故か目頭が熱くなる。
「俺たちの救いはイル、お前しかいないんだ。だからこれからも兄弟達を頼んだよ」
「で、デオル兄上は?」
「俺はここを今すぐに去ることにする。そしてイルの横へ立つに相応しい人間となったその日に、また戻ってくるよ」
そう言って俺から離れる。
でも今離れたら二度と会えない気がして、俺はつい服を掴んでしまう。
しかしその手を横から阻む手があった。
「イル、今は行かせてあげて下さい。それがデオルを唯一この現状から救う方法です」
デオル兄上に追手がかかるのは時間の問題だ。
だからそんなことはわかっている。
そっと手を離して俯く俺に、デオル兄上はいつものように優しく頭を撫でてくれたのだ。
「イル、大丈夫。俺は普通の人間には負けないから……そうだ、最後に大嫌いな父上が死ぬ間際に言っていた事を教えてあげるよ」
「父上が?」
「ああ、俺は信じてないけどね。父上はこれでも家族を愛してたって……全員が救われる未来を作りたかっただけなんだって……そんなこと最後の最後に言われても、信じられる訳がないよな……」
そう言うデオル兄上は少し震えていた。
確かに、父上はドラゴンの呪いを解くのではなく、超越した人種になれば良いと考え、全てを救おうと思ったのかもしれない。
だとしても死んでしまった今では、事実なんてわからない。
震えが止まり落ち着いたデオル兄上は、改めて俺達を見つめ少し寂しそうに言った。
「それでは、シル兄上、イル、お元気で……。ギル兄上やバレンによろしくと伝えてください」
「こちらの根回しは任せて下さい。すぐにあなたを迎えに行きますからね」
「シル兄上……ありがとうございます。では行って参ります!」
そしてデオル兄上は次の瞬間、早すぎて目の前から突如消えたように居なくなった。
そして残された俺たちは、改めて部屋の状況を確認していた。
「いまだに祝福の鈴は鳴ったままです。そして魔法陣の光は先程よりも増しています。イル、やってくれますね?」
シル兄上の問いに俺は力強く頷く。
デオル兄上が俺へと全てを託してくれたのだ。
そして目の前で息絶えている父上も……。
これ以上のことがおきたとしても、もう後には引けない。
俺は頷くとシル兄上に叫ぶ。
「刻の調律を起動します!!」
ボタンを押す俺の耳には、祝福の鈴がシャランシャランと鳴り響く。
そしてその音が途絶えたとき、再び世界は青く染まったのだった。
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