やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた

文字の大きさ
74 / 110
第五章 兄弟編

50、父上と兄上(後編)

しおりを挟む

俺は縋るような瞳でデオル兄上を見ていた。
だって俺だけ意味もなく生まれ落ちたなんて思いたく無かったから……。
そんな俺を見て、デオル兄上が口を開く。

「イル、お前は俺達の中で、一番竜人になれるはずの存在だった」
「……え?」
「ブルーパールドラゴンの呪いについては、王のみが継承されるものだ。そして第5王子の呪いの事もわかっていた。だからこそ父上はそんな呪いさえも超越した存在を作り出せばいいと考えたのだ。しかしお前が倒れたあの日から、全てが狂ってしまった。イルが倒れた後、ようやく時が来たと父上は研究を始めた。その結果、お前の持つ守護竜の呪いによって研究者達は全員亡くなってしまったのだ」

まって、守護竜の呪いで研究者が死んだ!?
まさか俺に害をなそうとしたからブルーパールドラゴンが怒って、呪いがかかったとでもいうのか?

そのせいで俺の呪いは移ると思われて隔離されたのではないだろうか……。
そしてあのとき聞いた噂も、これが原因なのだろう。

「その結果父上は研究を続けられず、いつ殺されるかわからない恐怖から自尊心を失ってしまった。そして全てを教えてくれた父上は、俺が王になったときにその意思を継いで欲しいと言ったのだ!!でも、誰がそんなことをするものか!私の可愛い兄弟達をおかしくしただけでなく、見殺しにしろと言ったも同然だ!」
「では、まさか……」
「ああ、もとからいつかチャンスがあれば討つと決めていた。それが今日だっただけの話だよ」

父上からようやく剣を引き抜いたデオル兄上は、剣から血を振り払い鞘に戻すと、いまだに混乱しているシル兄上を素通りして俺に近づいてきた。

「イル、幻滅したかい?俺はこういう人間なんだ。イルの前だけは最後まで格好をつけていたかったな」
「俺は幻滅なんて……」
「真っ青な顔で言われても説得力がないよ。でもこれが本当に最後になるかもしれないからね、だから血で汚れた体で触れることをどうか許して欲しい」

そう言うと、デオル兄上は俺を強く抱きしめた。
いつもなら嬉しいはずのそれは、血生臭くて何故か目頭が熱くなる。

「俺たちの救いはイル、お前しかいないんだ。だからこれからも兄弟達を頼んだよ」
「で、デオル兄上は?」
「俺はここを今すぐに去ることにする。そしてイルの横へ立つに相応しい人間となったその日に、また戻ってくるよ」

そう言って俺から離れる。
でも今離れたら二度と会えない気がして、俺はつい服を掴んでしまう。
しかしその手を横から阻む手があった。

「イル、今は行かせてあげて下さい。それがデオルを唯一この現状から救う方法です」

デオル兄上に追手がかかるのは時間の問題だ。
だからそんなことはわかっている。
そっと手を離して俯く俺に、デオル兄上はいつものように優しく頭を撫でてくれたのだ。

「イル、大丈夫。俺は普通の人間には負けないから……そうだ、最後に大嫌いな父上が死ぬ間際に言っていた事を教えてあげるよ」
「父上が?」
「ああ、俺は信じてないけどね。父上はこれでも家族を愛してたって……全員が救われる未来を作りたかっただけなんだって……そんなこと最後の最後に言われても、信じられる訳がないよな……」

そう言うデオル兄上は少し震えていた。
確かに、父上はドラゴンの呪いを解くのではなく、超越した人種になれば良いと考え、全てを救おうと思ったのかもしれない。
だとしても死んでしまった今では、事実なんてわからない。

震えが止まり落ち着いたデオル兄上は、改めて俺達を見つめ少し寂しそうに言った。

「それでは、シル兄上、イル、お元気で……。ギル兄上やバレンによろしくと伝えてください」
「こちらの根回しは任せて下さい。すぐにあなたを迎えに行きますからね」
「シル兄上……ありがとうございます。では行って参ります!」

そしてデオル兄上は次の瞬間、早すぎて目の前から突如消えたように居なくなった。
そして残された俺たちは、改めて部屋の状況を確認していた。


「いまだに祝福の鈴は鳴ったままです。そして魔法陣の光は先程よりも増しています。イル、やってくれますね?」

シル兄上の問いに俺は力強く頷く。

デオル兄上が俺へと全てを託してくれたのだ。
そして目の前で息絶えている父上も……。
これ以上のことがおきたとしても、もう後には引けない。
俺は頷くとシル兄上に叫ぶ。

「刻の調律を起動します!!」

ボタンを押す俺の耳には、祝福の鈴がシャランシャランと鳴り響く。
そしてその音が途絶えたとき、再び世界は青く染まったのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...