71 / 110
第五章 兄弟編
48、ギル兄上倒れる(後編)
しおりを挟むガイの問いに思考を放棄していた俺は、とある答えにたどり着いた。
あれだ、ガイは純粋そうに見えて意外にあれなのかもしれない。
まあギル兄上がこの年頃だったとき、凄いヤンチャですでにヤリまくりだったらしいからな……。
そんなところまで似ないといいのだけど。
しかし思考を彼方に飛ばしていた俺に、ガイは容赦なく詰め寄ってきていた。
「で、どうなんですか?兄上とエッチできますか?」
「まって、今その話必要?」
「必要ですよ!父上の生死がかかってるんですから……この間父上が言ってたんです。イル様を抱けば全て治るって!」
ギル兄上はブレないというか、そっち方面でも本当に好かれていたことに驚きだよ!?
頭の中でツッコミをいれたおかげなのか、逆に冷静になった俺はしっかりとお断りを入れることにした。
「ガイには申し訳ないけど、それはギル兄上が適当に言ったことだ。だから俺を抱いたとしても、状況はかわらない……」
「そう、ですよね。頭ではわかっていたのですが、父上のことを考えると冷静になれなくて……」
事実を突き付けたことで、ガイは俯いてしまった。
でも俺にガイを励ますことはできない。
だってギル兄上を救う方法を知っているのに、それを教えてあげることも、実行することもできないのだから。
「……イル様、こんな変な話に付き合ってくださってありがとうございました」
ガイ自身も一応さっきの問いがおかしい事に気づいていたようで、それに少し安心してしまう。
でも、無力な俺はガイに申し訳なくて頭を下げていた。
「俺では力になれず、すまない」
「そんなことありませんから、どうか顔を上げてください。俺はイル様に会えて、こうして話せたことがとても嬉しかったので……」
そう言って俺の手を取るガイは、顔を上げた俺をじっと見つめて過去のことを話し始めた。
「とても小さい時のことだから覚えてないでしょうけど、俺は昔イル様に会ったことがあるんです」
「昔?」
「はい、まだイル様が元気だった頃です。初めて見たイル様はとても可愛くて……実は俺の初恋の人だったんです」
「は、初恋!?いや俺男だぞ!」
混乱した俺を見て、ガイは少し可笑しそうに笑う。
「はは……そう思いますよね。でもその日は少し長い髪を下ろしていらしたので、俺は勘違いしてしまったんですよ」
「うぅ……確かに、小さい頃は髪を伸ばして一つにまとめていた頃があったような気がする……それはすまなかった!」
「いえ、俺はそれがイル様でよかったと思っています。だってイル様は、昔と全然変わってなかったのですから。だから再び出会えた事に感謝させて下さい」
そう言って、ガイは素早く俺の手にキスを落とした。一瞬の出来事に俺は何も言えずに、ぼーっとしてしまう。
何よりも俺は、その姿を昔見た記憶があったのだ。
確かあれは4歳ぐらいで、俺がまだ元気に庭園を走り回って遊んでいたときだ。
そこで確かに小さい男の子と遊んだ記憶がある。
そのときの俺は仲良くなってくれたその男の子が、突然手にキスをしたことに余りにも驚いてしまい、その場から逃げ出してしまったのだ。
そしてその後、それがガイと知ることもなく距離を置くようになった。
置いたというか、誰かの手で遠ざけられたような感じだった。
「こうしてあなたにまた出会えたこと、父上のおかげとも言えるのが悲しいところですね……」
その泣きそうな笑顔を見て、ガイは本当にギル兄上の事を父親として大好きなのだとわかってしまう。
だからこそ、今の俺は一体何をしているのだろうと、自分自身に怒りを覚えてしまったのだ。
俺は助ける方法を知っているのに、何もしていない。
でもそれは、父上とギル兄上どちらを選べばいいのか、悩んでいるから仕方がないと思っていた。
本当は、そんなの言い訳でしかなかったんだ……。
だって俺は、今まで父上から見放された存在だとわかりきっていたはずだ。
それに比べて兄上達は、ずっと俺を治す手段を探してくれていた。
ならば選ぶのはどちらなのか、すぐにわかることだったんだ。
だからもう迷わない。
───俺は、父上を討つ。
そう決意した俺は、ガイに向かって口を開いた。
「ガイ、ギル兄上は俺が必ず助けてやる。だからもう少しだけ待っていてくれ」
その言葉に、ガイが目を見開く。
そんなガイを部屋に残し、俺は急いでシル兄上の元へと向かう。
シル兄上はあのとき何かを考えていた。
あの冷たい瞳から考えて、兄上は父上を討ち取るつもりなのだろう。
今はその準備をしているに違いない。
だからこそ、俺はシル兄上の元へと急ぐのだった。
27
あなたにおすすめの小説
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。
時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!?
※表紙のイラストはたかだ。様
※エブリスタ、pixivにも掲載してます
◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。
◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる