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第5章 近衛隊入隊試験編

試験はスパッと終わらせます!

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 目の前のトリドルさんは壁に寄りかかるとじっくりと、こちらを観察して来た。

「な、何ですか?」
「いやいや、たくましくなったもんだなぁ~って」
「は?」

 いやいや、トリドルさんは私の父親かなんかですか?と出かけた言葉を飲み込み、とりあえず続きを聞いてみることにした。

「あーあ、これならいつでもうちの近衛隊に来て欲しいもんだなぁ~」
「なんですかそれ?勧誘ですか?」
「あー勿論勧誘だよ~。嬢ちゃんだけには内緒な事、教えてあげちゃうぞ!」

 だんだん付き合ってるのがアホらしくなってきた。私はとっとと情報をねだってみた。

「何なんですかそのテンション……そんな前置き良いので有益な情報教えて下さいよー」
「ええクレア、乗ってくれてもいいじゃないか!おじさんは少し寂しい」
「………………」
「……ゴホン。じゃあいいかクレア、よく聞くんだ……………ハロルド近衛隊は実は不人気だ」

 え?

「だからお前が今回の試験で、近衛隊入隊資格を手に入れる事が出来れは入隊は確実なんだ。だから最後まで、試験が終わった後まで気を抜くんじゃないぞ」
「わかってますよそんな事……」

 この試験で上位に入れば確実にハロルド近衛隊に入れる。それはとても嬉しい事だ。
 それなのにハロルド殿下が不人気と言うことに、私の心は動揺してしまった。
 そんな動揺を隠すようにトリドルさんに、殿下について気になっている事を聞いてみた。

「そうだ。殿下は私が近衛に入りたいと志望している事は?」
「……絶対にしらねぇと思うぜ。ましてや自分のところの近衛に来るなんて事はな!」

 そう言いつつも、豪快に笑うトリドルさんは慣れたように私の頭に手を置き、片目を閉じつつも言い放った。

「あの坊ちゃんを一緒に驚かせてやろうぜ!」

 その橙色の瞳は一層激しく燃え盛り、口の端をニヤリと上げる。なんだか私まで楽しみになってきて大きく頭を振りつつ笑顔で返していた。

「勿論です!」
「やっぱ嬢ちゃんはこうでないとな!と、そろそろ時間か?」
「あ、そうでした!ここからは真剣モードでちょちょっと合格してやりますよ!!」

 そう言いつつ私は手を振りながらその場を後にした。
 その後ろでトリドルさんが「おう、頑張れよ!それから試験後までしっかり気を抜くなよー」と叫んでいたのは途中までしか聞こえていなかった。





 
 そして宣告通り、私はちょちょいと試験を終わらせていた。
 なんというか、気がついたときには私の放った風が相手を吹き飛ばし、その倒れた相手の喉元に剣を突きつけていた。

「そこまで!この試合クレアの勝利とする!!」

 その言葉に少し荒くなった呼吸を整える。
 そして試合に勝った充足感に、額の汗を拭う。
 思ったよりも楽勝過ぎて、この昇進試験はいい成績が見込めるのじゃないだろうかと、私はルンルン気分で歩き出したのだった。


 この試合で全ての試験は終了であり、試験結果は後日となる。
 結果発表の際に近衛隊入隊資格を手に入れたものだけが、入隊希望を選ぶ事が出来るのである。希望は出せるが、人気が高いところは成績順となり定員オーバーした人達は人気のないところに回される。
 
 これが王族の人気ランキングの指標にもなっており、毎年第一王子であるジラルド殿下が一位を取っているらしい。
 将来の王になる可能性が一番高いと言われているだけあって、人気も高いのは仕方が無いだろう。
 でもハロルド殿下の人気がない事は知っていたと言えども、心に来るものがあった。

 いつかハロルド殿下の人気も鰻上りに上るように、私もお手伝い出来たらいいのに……。

 と、考え事をしている間にいつのまにか演習場の出口まで来ており、そういえば先程ライズと待ち合わせの約束をした事を思い出したのだった。

 あれ?そういえばライズは終わったら待ってると言っていたはずなのに、まだこちらの演習場には来ていないわ。

 首を傾げつつ、観衆の方へと目を向ける。
 そこには順番を待つ同じ騎士見習いに先輩騎士、それから今日という日だからいる一般の人まで、どうみてもいつもより沢山の人が観戦しているようだった。
 きっとこの後ここの演習場で行なわれる、騎士団長達のトーナメント戦を観にきた人たちだろう。
 そして既にいる人達は場所取りついでの暇つぶしといったところかしら……?

 まあ隊長クラスの戦いなんてそうそう見れるものじゃないから仕方がない。なにより私のような騎士見習いでは会う事すら難しい人達なのだ。
 そんな凄い人達の試合は私だって見たい!そんな惜しむ気持ちを抑えつつ、とりあえずライズを探す事にした。

 どうやらこの演習場には居ないみたいだから、ライズが試合をしているはずの第二演習場に向かってみましょう。

 そう思って第二演習場に向かって見たけどそこにもライズはおらず、あのライズが約束を守らないなんて何かあったのではないかと、焦る気持ちで私は他の演習場に向けて走り出したのだ。
 それなのに何故か私はすぐに道に迷ってしまい、先程からどう見ても人通りのないところを歩いていた……。

 しまった!こっちはもう使ってないはずの第8演習場!ここは端っこの方だから、こっち……いやこっちに行けばいいのかしら?

 演習場は区画が綺麗に並び過ぎていて、看板をちゃんと見ないとすぐに道を一本間違えてしまう。
 ため息を吐きつつ、一つ前の看板まで戻ろうと歩き出したところで誰かの話声が聴こえてきた。

 こんなところに人がいるなんてラッキーだわ!と思いつつ、せっかく近くにいるみたいだから道を聞いて見ようと、私は声のする方へ意気揚々と歩いていく。
 どうやらあそこの角を曲がった所にその人達はいるようだった。

「すみませーん!」

 軽い気持ちで声をかけた人物を見て、私は時が止まった気分がした。
 此方を振り返えった人物もまた驚きに声を発せないようだった。

「なんで……?」

 だってそこには一緒にいるのはおかしいはずの人物がいて……。

「なんで、ライズとあの商人がいるの……?」

 その問いに答える人物は誰もいなかった。
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