運命の赤い糸が切れるまで

まるない。

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一章 リコリス

【1】

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「早く夕凪のところに運命の王子様が現れてくれないかなー」

私は中村咲(さき)18歳。高校3年生。
突拍子もなく話しだしたのは中学からの付き合い同じ高校の夕凪(ゆうな)だ。

そんなことより…

「いや、彼氏いたよな?」

「言ってなかったっけ?1週間くらい前に別れたー。あいつ女癖悪すぎて無理!こっちから捨ててやった!」

やっぱりか…よくわからん事言い出す時は男原因だと昔から決まってる。

「へぇ~。まぁそんなん最初からわかってたじゃん。むしろよく続けてたと思ってたわ」

「普通は咲みたいに頭で考えて割り切ってなんて出来ないの!」

「そんな事ないし、そうだとしても夕凪の話しとはまた別な気がするけど…」

「咲って絶対運命の人とか信じないタイプだよねー」

「まぁ…そだね。思いたい人が思いたい相手に勝手に当てはめてるだけだと思ってるよ」

「でもさー本当にいるなら会いたいって思わない??」

「本当に運命の人ってのがいるなら会えるんじゃないの?運命なんでしょ?笑」

少し挑発的に言ってみて反応を伺ってみる
え、嬉しそう…怖い……

「確かに!!じゃあ夕凪の近くにはもう運命の人がいるのかも!!!」

急に表情がパァッと明るくなってはしゃぐ夕凪を私は出来るだけ菩薩のような表情で見ていた。

「あー!また馬鹿にしてんな!!」

なんだかんだ今まで一緒にいただけあってお見通しのようだ。

「ほら、バイト遅れるよ」

「うわ!まじだ!走ろ!!」

まぁバイト先も同じにするくらいには仲が良かったりもする。

それにしても運命ねぇ……
運命がいつも良いとは限らないもんなぁー
まぁ夕凪はそろそろ良い人と出会えると良いんだけど

「「おはようございまーす」」

特に走らなくても間に合った。
私と夕凪のバイト先は家の最寄り駅にある居酒屋だ。
今日は月曜日だからそんなに忙しくは無いだろう。

「おーう。おつかれー」

カウンター席に座りながら返事をしたのは店長の槙野さんだ。
最近髪の毛が少し寂しくなってきてる普通に寂しい人だ。

「暇そうですね」

「月曜だしな。掃除終わったらだべっとっていいぞ」

「了解っす。じゃあ着替えてこよ」

夕凪を誘って着替えに行く

「かっこいいお客さん来るかな~」

またなんか言ってる。バイトの身からするといくらかっこよくてもお客さんは来ない方が嬉しいけど………
やっぱりそこそこには来て欲しいな。店長の髪の毛が心配だ。

「お客さんで来たところでじゃない?逆ナンでもするの?」

「そんなんタイプだったらしちゃうよ?」

この行動力は本当に尊敬する。

「夕凪は本当にしそうだからな~」

着替えが終わって、それぞれ掃除に取り掛かる。
今日は私がトイレや洗面台、夕凪が洗い場に残ってる食器やグラス類を洗う。私と夕凪が同じシフトの時はなんとなくで分けてやってるけど決まりは無いらしい。高校生のバイトは今のところ私と夕凪だけだから、考えたことも無かったけど。

「店長終わりました。他何かあります?」

「おーぅ、ねぇなーゆっくりしとれ」

店長は来た時と同じ形でカウンターに座ってテレビを見ながら返事をした。

「あ、そうだわ。今日20時にバイトの面接の子来るから忙しくないとは思うけど21時くらいまでは残ってられるか?」

「大丈夫ですよー。高校生ですか?」

あまりにも暇だと店長は帰りたかったら帰って良いよと言ってくれる。
帰ったり帰らなかったりこっちも自由にさせてもらえるのでありがたい。

「いや、大学生みたいだぞ」

「イケメンですか??」

あぁ、そっかこのタイミング……
夕凪の目が輝いている。

「それはわかんねーよぉ。まだ見てねーもん。来るんだからお前らも見れば良いだろ」

笑いながらなんだかんだ答えてくれるところが店長らしい…私も気になってるような言い方なのがかなり不本意だけど

なんだかんだ夕凪や店長と話してたら面接の時間が迫ってきた。
にしてもいくら暇な曜日とはいえ20時まで客が1人も入らないってこの店大丈夫か…?

チャリンチャラーン

店の入り口のベルが鳴った

「いらっしゃいま……面接の方ですか?」

入り口にはいかにも大学生らしい服装をした暗めの茶髪で短髪の男性が立っていた。

夕凪が勝手に男を期待していたけど、本当に男だった。
そもそも性別さえ把握していない店長は何でバイトを募集してるんだ?

「あ、はいそうです。吉村と申します」

特に緊張してる様子もなく答える吉村さん。
初めてのバイトの面接はとても緊張してた事を思い出した。
やはり大学生は慣れているのか。

「吉村さんですね。今店長呼んでくるのでちょっと待っててください」

そう言って何故が時間ギリギリに煙草を吸いに行った店長を呼びに行った。

「店長。よ……面接の方いらっしゃいましたよ」

どーせ名前も知らんだろ

「おー来たか。じゃあちょっと裏入っちゃうから店よろしくなーなんかあったら声かけてくれて良いから」

「わかりましたー」

店長と吉村さんが事務所に入っていくのを見届けたタイミングで夕凪がトイレから帰ってきた。

「えー!!面接の人もう来ちゃったの!?」

そんなに楽しみならなんで時間近くにトイレに行くんだ…

「どうだった?イケメンだった!?」

「普通の大学生って感じだったよ」

「咲の普通がわかんないよー」

「あ、じゃあお茶出しながら見てくれば?」

夕凪は期待しすぎて、それなりにイケメンでも微妙に感じてしまうのでは?
期待に満ちた顔を横目で見ながらお茶の準備を始めた。

「はい、じゃあこれ事務所に持ってって」

「かしこまり!!」

夕凪は元気よくお盆を受け取って事務所に入っていった

1分程して帰ってきた夕凪は更にウキウキしてる。
なるほど、タイプだったか

「めっっっっっちゃかっこいいじゃん!!!!」

「良かったね」

「店長ちゃんと受からせてくれるかなー?」

「あまり落としたって話し聞かないし大丈夫じゃない?」

とっても嬉しそうにしている夕凪をみているとこんな馬鹿げた事でも自分まで嬉しくて、夕凪のことが大切な友達なんだと再認識した。

そもそもこのバイトも夕凪に半ば強引に誘われて始めたようなものだ。
本当は国道沿いのカフェでバイトをしたかったんだが、夕凪がどうしても一緒にバイトしたいっていうもんだから下校途中にあるこのお店『覇王樹』の求人貼り紙を見て応募したのが始まりだった。
もう2年以上ここで働いている。高校でのバイトはここで終わりそうだな。
きっと大学に行っても最寄駅だしここでバイトを続けるんじゃないかと思ってる。
やはり慣れてるのもあるし居心地も良い。
あー大学か…どうしようかな。


ガチャ

「咲、夕凪店番ありがとなー。帰りたかったら上がっていいぞー」

面接が終わったようだ。今は20時48分。50分近くも面接してたのか…いや、絶対雑談だな。

「どうする?」

一応夕凪に上がるかどうか聞いてみる。

「暇だし上がろ!」

夕凪が早く上がれる時に上がらなかったことが無いから聞くだけ無駄な事はわかっているんだが、毎回このやりとりをしてる。

「じゃあ上がります。お先失礼します。」

店長に軽く会釈して着替えを終えて店を出た。
少し前を歩きながら伸びをしている夕凪がくるっと振り返り

「どーする?ポテト食べたくない?」

もうちょっと喋って帰ろうって事だろう
ほとんど毎日一緒にいるのに話しが尽きないんだから凄い。

「今日は帰って勉強するよ。夕凪も勉強しな?同じ大学行くんでしょ?」

「げぇ…勉強かーそろそろしないとまずいよね」

もう暗くなった空を見上げながら渋い顔をしている夕凪の肩に手を置いて

「そろそろどころかうちらもう大分出遅れてるよ」

現実を突きつけてみる。
今は7月、高校3年生の7月だ。
2年生の夏からやって標準と言われている受験勉強を高3の現在ほとんど手を出していないんだから、本当は出遅れているどころの話しではない。

「平村学園大学にしない??」

夕凪が少し上目遣いで聞いてきた平村学園大学は俗に言うFラン大学で、普通に高校に行っていれば名前を書くだけで合格できるようなところだ。

「絶対無い。並木医療福祉大学受からなかったら私就職するから」

並木医療福祉大学は来年の4月から学生を募集する新設の大学だ。
看護、理学療法、作業療法、言語聴覚…と色々な学部があるが私が目指しているのは看護科だ。
地元に大きな大学が出来てくれてとても助かった
受からないことには始まらないが…

「咲は勉強出来るからなー。夕凪は自信ないよぉ」

あからさまに落ち込んでいる夕凪。

「勉強はすれば良いだけだからね。一緒の大学じゃなくたって今まで通り遊べるし良いんじゃない?」

勉強は別に好きでは無い。
ただやればやるだけできるようになる平等さは好きだったりもする。

「そんなこと言ってー!夕凪と離れたら寂しくなっちゃうよ?」

夕凪は頬を膨らましながら訴えかけてくる。

「そうだね!じゃあ勉強頑張って一緒に行こうね!」

こう言えば夕凪は頑張るだろう。私だって出来れば夕凪と同じ大学に行きたいと思っている。
夕凪の存在はいつも大きかった。
………これを言えば夕凪はもっと頑張ってくれるような気もするけど今は言えないな。
シンプルに恥ずかしい。
そろそろ分かれ道だ。

「じゃあまた明日ね」

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