運命の赤い糸が切れるまで

まるない。

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一章 リコリス

【2】

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「ただいま」

別に言わなくても良いんだろうけど、なんとなく言ってしまう。なんとなく言えるってだけで恵まれているんだろう。

「おかえりー早かったね?」

キッチンの奥の方から聞こえるこの声は母親だ。

「暇だから上がって良いって」

質問に軽く答えながら2階の自分の部屋に向かう
荷物を置いてリビングに向かう。
リビングのドアを開けた先には父親が座ってテレビを見てる。

「…………………ただいま」

「…………………………………」

無視か。
まぁいつものことだ。特段珍しい事では無い。

「勉強してくる」

さっさと部屋に戻ろう

「えーご飯食べないの?」

「賄いで軽く食べ………」

(まずい!)

ガンッッ

音と共にテレビのリモコンが壁に当たって落ちた。
痛い…
反射的に避けた時に食器棚の角に肩をぶつけたようだ。

「てめぇ飯も食えねーほど勉強しなきゃいけねーなら勉強なんかやめちまえ!まかないだぁ?ふざけてんじゃねぇよ。バイトも許してねぇぞ!」

また、父親の琴線に触れてしまったらしい。
こうなると誰も止められない。

「ちょっと!良いって大丈夫だから!咲部屋行ってなさい!」

母親が前に立ち塞がりながら私を逃がそうとする。これが得策じゃ無いことくらい流石に18年も生きてればわかる。私は床に手をついてそのまま頭を下げた。

「ごめんなさいお父さん。生意気な口をききました。私が間違いでした。」

「そもそも!お前が!甘やかして育てるから!こんなんに!なるんだろうがぁっ!!!」

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

とばっちりを食らった母親を怒鳴りながら無抵抗な私の身体を何か重たい物で叩きつけている。
こんな時は無感情に限る。ただ痛いものは痛い。なんだこれ。内臓に響くような痛みがずっと続いてる。あぁ…いつまで続くんだろう……



ガチャ

「ただいまー」

玄関から聞こえた声は弟の京だ。その途端父親は手を止めて玄関に向かった。

「おかえり。今日は早いな」

父親が京に声をかける。

「雨降ってきたから先輩達がもう終わりだってさ」

「そうか。今週末は試合だろ?」

「うん。まだ俺は1年だから応援だけだけどね」

「京は頑張ってるなぁ!」

京と話した父親が機嫌良さそうに自室に行く足音を聞いて慎重に頭をあげた。母親は泣いていたようで顔がぐちゃぐちゃになっている。周りを見るとテーブルの端にボコボコになった2リットルの烏龍茶のペットボトルが置いてあった。これで叩かれてたのか。
部屋に戻ろう。何も言わずにリビングを出た。階段を登るたびに身体が軋んで痛い。
いつからこうなったんだろう…

部屋に戻って、机の引き出しの奥に隠してある煙草を取り出して窓際に向かった。
出窓に腰をかけて窓を半分開けながら火をつける。
不良だから父親がああなったのかと言われれば違う。むしろ逆だ。中2の時に父親からの暴力が始まってどうしても家にいたくなくて、夜な夜な外で遊んでいた時期があった。その時に付き合った人の影響で吸い始めた。それからずっとやめられないでいる。

思うに女が煙草を吸い出すのは大抵男の影響だと思ってる。付き合う男がろくな奴じゃ無いと彼女にも煙草を吸わせるんだよな。良い男は自分が吸ってても絶対彼女にも勧めたりはしないだろ。まぁそんな事に気づいた時にはもう手遅れだったりもするけど…

父親には両親がいるだけで恵まれているとずっと言われてきた。その度にこんな奴ならいない方がよっぽどマシだと頭の中で悪態をついてきた。最初のきっかけはなんだっただろうか…
なんとなく過去を振り返りながら色々な事を思い出していた。



ふぅ…………

暗闇の中に部屋の明かりで白く光る煙を見てぼーっと見ているこの時間が好きだ。
 


「よし…勉強するか」

あんな父親でも学費は出してくれる。世の中には自分で借金をして学校に行っている人がいる中かなり恵まれていると思う。その中身は世間体だとか見栄えとか色々あるみたいだが、出してくれるならそれでいい。暴力も慣れてきたしむしろこれを耐えてるだけで大学4年間の400万なら安いもんだと思う。

「んーっ!」

思いっきり伸びをして時計を確認する。

もう12時か……そろそろお風呂入って寝よう。

部屋を出ると家の中が静まりかえっていてみんな寝ているんだなとわかる。あまり音を立てないようにしよう。

ゆっくり階段を降りていると、やはり叩かれた背中や脇腹が痛む。
あぁ痛い……
壁にもたれるようにゆっくり降りて行きお風呂についた。
髪の毛を流しながら曇った鏡にシャワーをかけると脇腹に大きめのアザを見つけた。後ろを向くと背中にもいくつものアザができている。

「酷いことするよな、ほんと」

なんとなく声に出した。

お風呂を出て頭をタオルで拭きながら歯磨きをし部屋に戻った。

ベットに入りスマホの連絡を確認する。

バイト先のグループチャットに【よしむら】が追加されている。やっぱり受かったか。夕凪が喜ぶな。

時計をふと見ると12時40分。寝よう……







ピピピッ   ポチ

アラームをかけないと起きれないけどアラームの音が好きじゃない。一度気持ちよく起きれるようになるかと思って好きな曲をアラームの音に設定したことがあったけど、好きな曲が嫌いな曲になってからはデフォルトの音にしている。

リビングに降りるともう誰もいなかった。
親は仕事、弟は部活だろう。
ダラダラと制服に着替えて学校に向う。朝ごはんはいつもは食べない主義だが昨日は父親と同じ食卓に座るのが嫌で夕飯を断ってしまったからお腹が空いてる。

コンビニで買い食いするか…
コンビニに寄って肉まんを食べながら学校に向かっていると前から知っている顔が歩いてくる。

「さーきー!!」

「おはよう夕凪学校逆だよ」

「おはよう!なーに言ってんの!咲を迎えにきたんでしょ!」

いやまぁわかるけど…止まって待ってれば…?

「受かってたね!昨日のイケメン!!」

やっぱりその話しだよなぁ。

「今日からいるかなー?」

あの店長なら有り得る。あ、でも

「うちら今日シフト入ってなくない?」

「あー!そうだった!!いつもならハッピーな日なのに!!!」

「今日は図書館で勉強するんでしょ!」

「えええええええええええ」

絶対逃がさん。



キーンコーンカーンコーン

「「あ、遅刻」」



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