平成版!?秋葉原工作室物語

ぎすけ

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第二話「異世界工作室」

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異世界転生やタイムリープの物語は多い。

人々が大量の物語を消費した結果として、物語の中で物語を旅することが始まったのだと思う。

平成初期くらいまでは「あの頃に戻れたら」「結果を知って競馬の大穴を当てて」なんてベタな願いが横行していて、昔のタイムトラベルには夢があった。

今となっては時間を旅したり、異世界で転生した人間は必ず苦労する、たいてい命がけで何かを成し遂げるものというのが常識になってしまった。多くの人は、そんな思いをしたくはない。

2020年ころの作品で「イエスタディ」という映画があった。雷に打たれたショックでビートルズが存在しない世界に飛ばされてしまう主人公が、覚えている限りのビートルズソングを歌って、大人気アーティストになるというストーリーなのだけど、最後に彼は元の教師に戻ってしまう。

「スター?成功?ダルいよね、しかもチートならなおさら」という感じ。
「なんかわかる」という気がする、「今」の気分なのだ。

で、秋葉原工作室の店長に、そそのかされて世紀末の歌舞伎町に行くことになったのだけど、その方法には正直驚いた。

背中を引っ張られて、秋葉原工作室の一室に連れて行かれる(ようやく前回からの続きです)。
店長は手を後ろに回して、いつもの回りくどい話が始める。

「ぎすけさん、この扉の向こうってどうなってるか知ってます?」
「いえ...わからない...です」
「ですよね、ぼくもこの部屋かりておきながら開けたこともなかったんですよ、ついこの前まで」
(そんなわけないだろって...)
返事も相槌も待たずに店長はつづける「ドアに耳を当ててみてください、何かが聞こえます」。

アルミのドアに耳を当てる、耳がひんやりと冷たく、すこし背中がゾッとするような感じがした。

そして、かすかに甲高い声が聞こえた「800円...1時間800円」

「え?これって歌舞伎町のリンリンハウス?」

振り返ると真顔の店長がまっすぐこちらを見ていた。
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