蛮族のサティスファクション

狂えるクルーエル

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ガルム・ウルフィナは獣人種族ウルフィナ族の族長の娘である。
狼男とヒトの娘の混血を起源に持つウルフィナ族。頭に狼の耳を有する彼女らは、定住せず気ままな狩猟採集生活を送っている。

「獲物のキャラバンを発見しました!食糧輸送隊商の模様!いい匂いです!」
「報告ありがとう、エキドナ。第一分隊は正面から襲撃。その隙に第二分隊が背面に回り込む」
「挟み撃ちですね~。血が沸き立ちます」
「ふふ、今夜のディナーが楽しみね」

ウルフィナ族にとって最大の愉悦。
それは、他種族の肉を食べることである。
ガルムは爬虫類人の肉が好きである。
涎が出るのを抑えながら、襲撃の時を心待ちにしていた。

一方、獲物となったキャラバン隊の護衛隊長は、案内人と会話していた。
「旦那、このあたりはよく賊が出ますぜ、やっぱり迂回した方が良かったんじゃ…」
「かまわん。我ら銀匙騎士団の武を以ってすれば、モンスターや賊など一捻りにしてくれる」
「やれやれ、どうなっても知りませんよ」

その時だった。

「11時方向より騎兵接近!あの旗は…白夜騎士団⁉︎」
「何だと⁉︎我ら銀匙騎士団の宿敵ではないか!」
「総員戦闘準備!迎え撃つぞ!」
護衛隊長の命令で、銀匙騎士団が展開する。

「はは、奴らまんまと釣られやがった」
「戦場跡で拾った白夜騎士団の旗、役に立ちましたね」

3ヶ月前、近辺で白夜騎士団と銀匙騎士団の間で会戦が発生していた。
白夜騎士団は新興宗教、白夜教の信徒によって構成されている。
一方の銀匙騎士団は名門貴族の私兵。
会戦では質量ともに勝る銀匙騎士団が圧勝し、戦場跡には白夜騎士団の旗が多数散乱していたのだった。

「敵騎兵接近、数7!撃ち方用意!」
銀匙騎士団はこの時代の主力兵器、マスケット銃を装備している。
「狙うは先頭!撃ち方始め!」
20人の騎士団兵が、マスケット銃を先頭めがけ斉射する。
「ぐはっ!」
第一分隊のダウエルが被弾、落馬する。
だが残る6騎は統制を失わず、接近を続ける。
「白夜の残党め、ここで討ち果てるつもりか。次弾装填!もたもたするな!」
一方、背後からは別動の第二分隊、4騎が接近していた。
その中には
「いまのうちだ!」
4騎の中にはガルムとエキドナも含まれていた。
血湧き肉躍る戦場の空気に胸を高鳴らせながら、ガルムはサーベルを握りしめる。
だが、次の瞬間、ガルムの左脇で爆発が起こる。

「うわぁーッ!」
爆風に吹き飛ばされ、ガルムは天に放り投げられる。
そのまま地に落ち、気絶。
「姫様がやられた!」
「落ち着け!シベール、姫を救護!アライヴは私と陽動!」
「くそっ!」
弓騎兵アライヴはキャラバンめがけ弓を射掛ける。牽制射撃である。
だが直後、アライヴの脳天を銃弾が貫通する。
「アライヴ!」
「逃げましょう、エキドナ様!相手が悪すぎました!」
「そんな!姫を見捨てては逃げられない!」
「貴方にまで死なれてしまっては、我々は滅亡です!どうか撤退を!」
「わかったわ…」

エキドナは天に向かって鏑矢を打ち上げる。
撤退の合図である。
陽動の第一分隊が引き返す。
が、銀匙騎士団の射撃により、2匹が討ち取られる。

「ふん、こんなもんですよ」
「流石です、閣下」

騎士団員は意識を失ったガルムを回収し、手錠を嵌める。

「面白い獲物が手に入りましたな、閣下」
「参謀総長さんも、さすがですなあ」
2人の青年が談笑する陰で、ガルムは獣用の檻の中に放り込まれるのであった。

「こ…ここは…」
ガルムは自分が、全裸で液体の中に浸けられていることに気がついた。
わけがわからない。
口には水晶のマスクが取り付けられており、呼吸はできる。

「水晶の、檻…?」

水晶の檻は薄暗い部屋の中にあり、辺りは明るい。
水晶の檻は横並びに多数配置されており、中には爬虫類人、猫人、犬人などが閉じ込められているのが見えた。
皆、ガルムと同じように、水晶のマスクを装着し、身体には黒い紐が取り付けられている。
しばらくして、ガルムは動く人影を認めた

「目が覚めたようね」
「エキドナ…⁉︎」

彼女の前に現れたのは、白い衣服を纏ったエキドナだった。

「あれから1ヶ月。サンプルの収集に、随分苦労したわ」
「エキドナ…まさかお前、銀匙騎士団に内通していたのか」
「アッハッハッハ!正解!閣下はあんたを裏切れば美味しいご飯を恵んでくれるって約束してくれたわ!最近食べた魚人のプリーストの脳なんて、そりゃもう頭が蕩けるほど美味しかったわ…!」
「くっ、この売女め…!」

ガルムの怒りに満ちた目を見て、エキドナは鬱屈した目で提案する。

「何とでも言うが良いわ。あなたに選択肢をあげる。一つは銀匙騎士団の団員として、”銀匙閣下”に忠誠を尽くすこと。もう一つは、身一つで野山に帰って、野良犬のように生きること。私だって知的種族としての最低限の良心は持ち合わせているわ。狼神フェンリルと聖母ルーヴェに誓って、この約束は守るわ」

唐突な問いに、ガルムは逡巡した。
2人の間には、長い沈黙が続いた。
「そう、答えないのね」
エキドナは悲しげな目でガルムを見る。
「しばらく眠ってなさい。閣下と対応を協議するから」
ガルムは自らに首輪が嵌められていることに気がついた。そして首輪から、薬液が注入される。
「くうっ…」
妙な感覚に驚き、ガルムは喘ぎ声をあげる。
そして彼女は、再び深い眠りに落ちていくのだった。

深い眠りの中で、ガルムは夢を見た。
暗黒の空間の中で彼女の前に現れたのは、身長7mほどの、黒く巨大な6本脚の鶏であった。
そのグロテスクな見た目に、ガルムは戦慄する。

「我が怖いか…」

6本脚の巨鶏は、低い声でガルムに語りかける。

「ああ、そうだな…」
「我が名はケンタブロイラ。ヒューマンの業により生み出されし邪神」
「フン、あまりに美味そうで、腹が鳴るよ」
「お前にヒューマンに抗う力を授けよう。我が脚の一本を喰らうがよい」
「いいのか…?」
ガルムは苦笑する。
ケンタブロイラは左の中脚を差し出す。
「じゃあ、遠慮なくいただくとしよう」
ガルムは巨鶏の脚に齧り付く。
血に顔が汚れるのも気にせず、一噛み、二噛みと食らいつく。
そのあまりの美味に、ガルムは恍惚を覚える。
「我との契約は成った。獣の道を生きるがよい」
「ありがとう…そうさせてもらうよ」
ケンタブロイラは、再び闇の中に吸い込まれていくのであった。

オクトダール王国は豊かな経済と高度な文化を有する世界第一の大国である。
だが、成長に伴い国民の教育レベルが向上したため、低賃金の単純労働力の不足に悩まされていた。
そのため、辺境に住まう獣人種族を奴隷として飼い慣らし、単純労働に従事させていた。
ところが、王国民の中に獣人種族の権利擁護を主張する勢力「ビーストライツ」が現れた。
王国国民は9割がヒューマン、残り1割はエルフやドワーフによって占められる。
主としてヒューマンの、裕福で議論好きな若者集団がビーストライツの思想にかぶれ、奴隷を使用する農場や工場に対して脅迫文の送付や設備破壊などの嫌がらせを繰り返していたのである。

過激派組織ビーストライツの次なるテロの標的。
それは王国南西部のツィカト平野に位置する、「超おっぱい牧場」であった。
超おっぱい牧場では、200匹の乳牛娘を飼育している。
だが、何者かが牧場で乳牛娘が暴行される漫画を出版。
牧場主、超兆蝶は乳牛娘に対する暴行を否定した。
だが、「自由を奪った状態で殴るなんて…!」とキレたビーストライツ総長は、攻撃命令を下したのだった。

「起きろメス狼。エサの時間だぞ」
「んっ…!」
全身に電流を流され、ガルムは目を覚ます。
「ここは…」
「命令だ。指示されたターゲットを撃破しろ」
ガルムは狼型のマシンザウルス級ガーディアンのコックピットに閉じ込められていた。
コックピットは騎乗型であり、馬やバイクに跨るような格好になっている。

「獣人種族万歳!」
「悪しきヒューマンに裁きの鉄槌を!」

ビーストライツの戦闘員達がこちらに進撃してくる。
その中には、全長18mほどの、鋼の巨人の姿もあった。

「あれはガーディアンだ。お前はあれを狙え」
「ふん…さっきから話しかけてくるお前、何者だ」
「俺は銀匙騎士団の参謀総長、コンラートだ」
「私が貴様の言いなりになるとでも?…ぐああああっ!」

ガルムの全身に、高圧電流が流される。

「おとなしく俺の指示に従え、メス狼。獲物は食わせてやる」
「はあ、はあ…ふん、ヒューマンの小猿らしいやり方だな」

ガルムは仕方なく、コンラートの命令に従うことを選択する。

「よろしくお願いしますね、ガルムさん」

サングラス、長髪の男性から通信が入る。

「私の名前は超兆蝶。超おっぱい牧場の主です。今回は私の牧場の防衛のため、貴方がた銀匙騎士団に協力を依頼させていただきました」

右側に、数機のガーディアンが展開する。

「お前が眠っている間に、知識をインストールしてやった。とりあえず、戦ってくれ」
「わかった…」

ガルム、超兆、京一、シキミの4機が配置につく。

<<ここでミドル戦闘。勝利の場合>>

ガルムとエキドナは、死亡したビーストライツ戦闘員の肉に喰らいついていた。

「はあ、はあ…うまい、うますぎる」
ガルムは久々の食肉で、幸福感に満たされる。

「今回の貢献で、お前達には王国三等国民の地位が付与される。よかったな」
「あ、ああ…」
「人類が一番、うまいものを食えるんだ。これからも銀匙騎士団の団員として、貢献してほしい」
「わかった、誓おう」

邪神ケンタブロイラと契約し、獣の道を選んだガルム。
彼女の冒険は、始まったばかりである。
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