コスモス・リバイブ・オンライン

ベース２２

錆錆

　警戒しながら通路を進む。
怪物と遭遇することなく、広間の入口まで戻ってくることができた。
頭だけ出して、広間の様子を確認する。
　……いた。怪物だ。数は一体。
まだこちらに気付いていない様子だ。


　長い吹き矢を手に取る。
ここから打ちたいけど距離が離れすぎている。
仮に当たっても刺さらないかもしれない。
　選択肢は二つ。
こちらから近づくか向こうが近づくのを待つか。
　どちらにもメリットとデメリットがある。


　近づく方のメリットは上手く近づければ主導権をこちらが握ることができることだ。
部位狙いをできるぐらい近づければ足を狙える。そうすれば勝利は確定だ。
　デメリットは射程に入る前に気付かれると危険なこと。
吹き矢を打つ体勢を取ることができない可能性がある。
そうなると死ぬのは確実だ。


　待つ方のメリットは待つだけなので危険性が薄いこと。
戦闘に突入しても通路で戦えるから敵の機動力を抑えることができること。
デメリットは待っている間に二体目が現れる可能性があること、そして長時間気を抜くことができないことだ。
　後者は叫んだりしておびき出せばなんとかなるけど、別個体を引き寄せてしまう可能性が高くなる。
弱点が判明していても複数体を同時に相手なんてできない。
向こうの方が圧倒的に強いし。


　結局近づくことに決めた。
決め手は複数体相手取る危険性を考慮したから。
　足音を出さないように摺り足で移動する。
装備が何かに当たって音が出ないように気を付ける。


　広間は二層式で上段と下段に分かれており、今いるのは下段。
中央にある階段で上段に行ける。
　狙撃をするには上段の方が都合がいいけど、行くことは難しい。
なぜなら怪物は階段の近くに陣取っているからだ。


　物陰を移動しながら、決めていた狙撃ポイントへ向かう。
慎重に慎重を重ねたおかげで気付かれずに目的地、中央の時計台の陰に潜れた。
標的までおよそ１０ｍ、ここからなら狙える。


　作成した吹き矢の中で一番長い物を構えた。
狙う場所は足。機動力を封じる。そうすれば後はこっちのものだ。
　大きく息を吸い込み、肺に溜めた全ての空気を筒に流し込んだ。
空気によって釘が押し出され、高速で飛んでいく。
ちゃんと練習したから、狙いは正確……だと思う。


　釘は僕の狙い通り怪物の左足に突き刺さった。
釘自体は怪物の体に比べたら小さいので大したダメージを与えられないけど、あの釘は錆びまみれ。
錆が体内に侵入した痛みで怪物は悲鳴を上げると左ひざを地面についた。

　この隙を逃せない！

　陰から飛び出した。
怪物は動けないけど腕を伸ばせるので油断できない。
　腕を伸ばしても攻撃できないと思われる後方に回り込み、そこから釘を打ち込んだ。
三発打ち込んだら、ＬCクズを浴びた時のように地面に倒れた。
怪物の爪を頭に刺してとどめを刺した。


　こいつは死んでいるけどまだ油断はできない。
あの悲鳴で他の個体がこっちに来ているかもしれない。
再び時計台の陰に隠れて、急いで釘を吹き矢に装填する。


　最後の一本、最初に使った吹き矢に釘を詰めている時に怒号のような叫びが聞こえた。
反対側の通路に怪物がいた。
今度の個体は今まで遭遇したものよりも大きい。


　角度的にばっちり目撃されたのでもう不意打ちはできない。
すぐに持っていた吹き矢を打ったけど、避けられてしまった。

「だったらこれならどう！」

　口に短い方の吹き矢３本全てを当て、息を吹き付け発射した。
一発で駄目なら三発同時発射だ。
　微妙に角度を変えたので、釘は放射状に飛んでいく。
怪物はそれも回避しようとしたが避けきれず、一本が腰に当たった。


　ダメージを与えたけど一本じゃ仕留められない。
仲間を殺された怒りなのか、それとも釘を打ち込まれた怒りなのか分からないけど、怒号を上げてこちらに突進してきた。
　大口を開けて突っ込んできたから、錆水の入った缶を投げ込んだ。
缶は一回転したせいで水が大分零れたけど、ちゃんと口に入ってくれた。


　水を飲んでしまった怪物は倒れるどころか絶命した。
釘を打ち込むよりも錆水を飲ませた方がダメージが大きいみたいだ。
今回みたいに大口を開けてくれないと難しいけど。


　戦闘がひと段落したのでドロップを回収したけど、戦利品の中に毒袋はなかった。
たぶんレアドロップとかそんな感じなんだろう。
爪は１本しか手に入らない場合もあったけど、肉塊は一体当たり最低でも５個以上手に入った。
　釘を再利用したかったけど、無理そうだ。
先端が完全に潰れていて、打ってももう刺さらない。


　上段でしばらく吹き矢を構えていたけど、怪物はもう来なかった。
警戒しているのかそれともこのセクションにもういないのか分からない。
油断はできないけど探索を始めよう。