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白の星の騎士

バリスタの一矢

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 アームの組み立てを開始しようとした時、僕を呼ぶ声が聞こえた。

「スワロ!」
「コネコ。なんでここに!?」
「ピギが君のピンチを嗅ぎ付けたのかうるさくてね」

 コネコの腕の中にはピギもいた。
ピギは腕から飛び降り、陣の最前部に向かった。
 突如現れたモンスターに隊員が驚いていたが、ピギは意に介さず、泡をゴブリンに吐く。
泡はゴブリンの顔面に命中すると破裂音が響き、ゴブリンは大きく怯んだ。


 だけど、問題が起きた。一部の隊員がピギに銃口を向けていたのだ。

「僕の仲間です!安心してください!」

 慌ててそれを止める。
しかし、なおも銃口はピギに向けられていた。


「あれに手を出すな」
「しかし、モンスターですよ!」
「状況が分からんのか!あれはどう見ても味方だ!」

 シフさんの一喝でようやく銃口がピギから外れた。


「今は聞かないが、あとで説明しなさい」
「はい」
「それと彼は何ができる?」
「さっきの泡攻撃だけです」
「彼も戦列に加えてもいいか?」
「はい。大丈夫です。いけるか?ピギ?」
「ぴぎぃぴぎぃ!」

 任せろと言っているんだと思う。
 戦列にピギが加わったことで、ゴブリンの侵攻を遅らせることに成功していた。
この隙にパワードアームの組み立てを終わらせよう。


「よし。組み立て終わり!コネコ。付けるのを手伝って!」

 赤樹騎剣もこれで扱える。
しかし、パワードアームはまだテストもしていない。
下手したら、一度赤樹騎剣を振ったら壊れるかもしれない。
 一振りで戦況を一変させる一撃を加える。
そのために狙うのは!


「突撃します!援護を!」
「一斉掃射!」

 僕の要請に応え、再び一斉掃射が始まった。
射線から外れるために、側面から回り込む。
 僕の動きに気付いたゴブリンは棍棒を振ろうとしたが、そこにピギの泡も直撃した。
しかも、当たった場所は耳だ。
 何度も泡攻撃を喰らったことで破裂音に少し慣れてきていたゴブリンだったが、ゼロ距離からの破裂音は慣れでどうにかできるレベルではなかったようで効果が抜群だった。
鼓膜が破れたのかゴブリンは耳を押さえている。


 この隙を逃さない。
一気に距離を詰め、ゴブリンの足元まで到達した。間髪入れずに攻撃をする。

「狙いはここだ!」

 狙ったのは足。ここさえ切り落とせば、勝利は見える。
多少の抵抗を感じるが、それも一瞬。片足を切断した。
 だが、ゴブリンも黙って斬られるだけではなかった。
足を失っても、戦意は衰えてはおらず、棍棒で僕を薙ぎ払ったのだ。


 辛うじて、赤樹騎剣でガードしたけど、衝撃は殺せなかった。
地面を転がっていき、そのまま堀の中に落ちてしまった。
 少し痛いけど、死んではいない。
あの一撃でアームの片腕は損傷し動かないが、赤樹騎剣に傷はなかった。凄い硬度だ。


 まだ戦闘は終わっていない。早く上に登らないと。
堀の石壁に足を掛けようとしたら、ロープが降りてきた。
 誰かがロープを垂らしてくれたのだろう。
登る前に、壊れた片腕を外し、デバイスに入れておく。壊れてしまえばただの重りだ。


 地上に出て、真っ先に確認したのはゴブリンの状態だ。
ゴブリンは片足を失いながらも、まだ立っていた。
だが、追撃の弾丸を受けると、地面に倒れた。


 足を失ったことでゴブリンは機動力を失っている。
トドメを刺す手段は今はないがそれもバリスタが来るまでだ。

「持ってきたぞ!」
「遅い!何やってんだよ」
「これでも急いだ!文句を言うな」

 シフさんと老年の男性が言い争っている。
バリスタだ。ただそのサイズは予想よりはるかに大きい。
巻き上げ機が見当たらないけど、こんなのどうやって引くんだろう?


 その方法はとても原始的だった。
手の空いている人間が集まり人力で引くつもりだった。

「引けぇぇぇぇぇ!」

 老年の男性の号令でバリスタの弦を引こうとするが、弦は固く動いている気配がない。

「やっぱり無理か」
「当たり前だ!巻き上げ機がなければ、こんなの引けるわけないわ!」
「じゃあ持って来いよ」
「砲台と一体になっている物をどうやって持ってくるんだ。この馬鹿者め!」
「二人ともやめてください。そんなことしている場合じゃないでしょ」

 シフさんと老年の男性が言い争いを始めた。
それをカージスさんが止めていた。


 おっと、そんなこと気にしている暇はない。僕も手伝わなくては。
深く息を吸い、全身の力を使って弦を引く。アームの片腕は壊れたが、もう片方の腕は健在だ。その力なら引けるはず!
 
「・・・…嘘だろ」

 弦が動く感触がすると誰かがそう呟いた。
集中しているので、誰かはわからない。


「みんなも手伝え!」

 弦が軽くなった。
弦が徐々に引き絞られていく。
そして、限界に達する。


「発射!」

 矢は発射され、ゴブリンの頭部に命中した。
弾丸も弾くゴブリンの皮膚も大質量の矢は防げなかったようだ。
 頭蓋と脳を貫かれた生物は普通死ぬ。
ゴブリンも例外ではない。

「勝鬨を上げろ!」

 シフさんの掛け声と共に勝利の雄たけびが町全体を揺るがした。
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