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白の星の騎士

エアロダイト

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 誰もいない。上に行ったのかな?

「うーむ?やはり無理か」

 声がする方にいくと男性がいた。機械の影にいて気付かなかった。
バリスタを持ってきて、シフさんと言い争いをしていた男性だ。
 集中しているみたいで、声を掛けたけど反応はなく、何度も声を掛け、やっと気づいてもらえた。


「ん?ここは立ち入り禁止だぞ」
「シフさんにお弁当を届けてくれと頼まれたんです」
「そうか。わざわざすまん。ん?おんしはたしかゴブリンの時のいたな」
「はい。スワロと言います」
「おお!あの時は助かった。島を代表して礼を言おう。私はここエンジ島の島主。ライザ・エンジ」
「島主様でしたか。失礼しました」

 まずい。偉い人だ。失礼なことをしたら、島から追放されるかもしれない。


「こんな小さな島の島主などに権威や威厳なんてないわ。そんなに固くならんでいい。島民も私を敬わんしな」
「そうですか。……よかった」

 ん?ということはシフさんって島主の息子?あの人ってそんな偉かったんだ。
そう言われれば、高貴さがあった気が……気のせいか。
だって、父親のこの人から高貴さはまるで感じられないし。全身に傷痕があって、粗暴な印象を抱かせた。


「これって?」
「これはエアロダイト結晶化装置だ」
「これがそうなんですか」

 エアロダイト。
雲の中に含まれている物質の一つ、これがこの星のエネルギー源なのだ。
 エアロダイトは雲から抽出すると液体で取れる。
しかし、その状態では燃料にならない、結晶化する必要があるらしい。
 その結晶化をするのがこの装置。そして、革命軍が壊したのもこれだ。
本当になにがしたかったんだろう。


「かなり昔に壊れたそうなんだが、今回のゴブリンで輸入に頼るのは危ないと分かったんでな。なんとか直せないか試みておる所だ。見学は許してやるが、触るなよ」

 弁当を一気に食べ尽くすとまた作業に戻った。
 触るなと言われたが、僕なら直せるかも。
トートの情報によると、この装置は壊れていない。
不具合が発生しているだけだ。
 その原因を取り除けば動くはず。
やり方はトートが教えてくれる。


「おい!待て!」

 装置によじ登り、不具合の発生地点へ向かう。
それに気づいたライザさんに止められたが、説明するより実際に直した方が早い。
 直すには装置の中に入らなければならない。そのための入口はネジで止められていた。
高速でそれを外すと装置の内部に入った。


 ここは結晶化の前段階でエアロダイトを結晶化させやすくするための処理をする場所、トート情報によると、ここが一番不具合が起きやすい場所らしい。
 
「これをこうして、こうすれば」
「こら!なにしている」
「よし完了だ!」

 引き剥がされると同時に修理は完了した。
あとは起動させるだけ。ボタンはなく、声に反応するはずだ。
でも、僕じゃ駄目。必要なのはヴィンディス人。籍はヴィンディス人でも僕はジャンクスター人、僕じゃ無理なのだ。


「すいません。『風よ』って言ってもらえませんか」
「何を言っとるのだ。早く出ていきなさい」
「言ってもらえれば出ていきますから」
「しかたないな。風よ?これでいいか?」

 その言葉を受け、装置は稼働を始めた。
消えていたモニターなど点灯する。

「・・・…直ったのか」

 この状況にライザさんは茫然としていた。


 本当に直ったのか確かめてみることになった。
確かめるためには使ってみるのが一番。
 そのためには液体のエアロダイトがいる。
僕もライザさんも持っていない。
 

 下に取りに行かなければならないが、僕じゃたぶん渡してくれない。
だから、ライザさんが取りに行った。
その隙に結晶化装置を調べておく。


 ライザさんは予想より早く戻ってきた。
かなり急いだらしく、虫の息だけど。
 この年齢の人が、この段数の階段を休みなく上り下りしたのだからしょうがない。
ヴィンディスのプラネットスキルに身体能力の強化はなかったはずだし。


 声を掛けてみたが、息が荒く、会話ができない。
話ができるようになるには時間が掛かりそうだ。
 そうだ!あれを飲ませよう。
取り出したのは小さな瓶。中にはある液体が入っている。

「これを飲んでください」

 渡したが、飲む体力もないようだったので、口を開かせ、無理やり飲ませた。
一部、気管に入てゴホゴホとむせているが、害はないから気にしない。

「なんだこれは!体の内から力が溢れてくる!」
「えーと、栄養剤みたいな物です」

 飲ませたのはポーション。練成で作った。
 材料は綺麗な水と肉と野菜、あと入れ物の瓶。
肉と野菜はどちらか片方でも作れるが、その場合劣化ポーションになる。
 これは水とクズ野菜とクズ肉でできている。
野菜と肉は廃棄する物を譲ってもらった。
頻繁に貰いに行っているため、貧乏だと勘違いされて、パン屋の子どもにパンの耳を恵まれたことがある。


 ちなみにこのポーションは完成品を薄めた物。
元が凄いから、薄めても効果がある。
ポーションは回復薬としても効果があるが、本来の使い方は薬じゃない。


 ライザさんが持ってきたエアロダイトは一リットル程。
もっと欲しかったが、貰えなかったそうだ。
 投入する前にエアロダイトを見せてもらった。
色は青。透明度はない。青く着色した水みたいだ。

「入れるぞ」

 装置に入れてから10分。
結晶が出てきた。成功だ。
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