コスモス・リバイブ・オンライン

霧の魔

安全

　連れ戻される前に、ルドフィーの町から離れないと。
連れ戻すためにファルシュを出されたら、さすがに捕まるしかない。
強引に振り切ろうとして、撃墜なんてしてしまったら大惨事になる。


「始めに謝っとく。ごめんね」
「えっ」
「この機体、すごく速いんだ。怖いかもしれないけど、我慢してね」
「大丈夫。あたしジェットコースターとか得意だし」
「そう？じゃあ大丈夫かな」

　それを聞いて、安心した。それなら心置きなく加速できる。
　スラスターの出力を上げ、ブースターも点火した。
ＦＡ４は急加速。あっという間にルドフィーの姿が見えなくなった。


　ここまで来れば、もう追ってくることはできまい。一安心だ。
　しかし、一安心できない人もいる。ユラさんである。


　加速からずっと悲鳴を上げ続けている。
身体に掛かる負担はジェットコースターとは比べ物にならないレベルだから、しょうがない。
　でも、大丈夫。死ぬことはない。
彼女に着用してもらった鎧には人体に加わる負荷を軽減してくれる機能がある。
彼女が悲鳴を上げれるだけの元気がまだあるのもこれのおかげだ。


　名付けてセーフティアーマー。
パイロットに掛かるＧなどの負担を軽減するために開発中の物だ。
　このアーマーに使われている技術はヴィンディスの物じゃない。
ジーイフとギングの技術だ。


　セーフティアーマーは一種のパワードアーマー。
パワードアーマーに備わっている人体保護機能を抜き出し、それを強化した物である。
　さらにここにジーイフの技術で作った高レベルのメディカルマシンも追加してある。
このメディカルマシンはポーションを使った物で、ジルコニアなどに装備してある物よりずっと性能が高い。
もし、肉体に異常が発生した場合でもポーションが散布されてすぐに治療してくれる。


　ただし、セーフティアーマーはまだ実験段階で未完成品。
テストすらほとんどできていない。
実験体になってくれる人がいなかったせいだ。


　普通なら僕がやるべきなんだけど、僕がやっても無意味。
至高の肉体のせいで、まともなデータが取れない。
大抵の負荷なら素で耐えてしまうからだ。
　セーフティアーマーはヴィンディス人用に作っている物。
それじゃあ意味がない。


　そもそもこのアーマーの開発の経緯はあの忍者型ロボットの搭乗者候補を増やすためだ。
肉体が耐えれないなら耐えれるようにすればいい。
どうしても、あの機体を格納庫で腐らせたままにしとくのは嫌だった。


　最初はコネコに実験を頼んで快諾してくれたんだけど、二回目から拒否られた。
一回目の時にすこし失神しただけなのに。
　失神しても、すぐに起きれるように電気ショックが流れるようにしておいたのがまずかったのかも。
だって、気絶したままだと危険だし。
　

　実験中、コネコは失神と覚醒を何度も繰り返した。
実験終了後、開口一番に

「鬼！悪魔！外道！」

と罵られた。ピギも一緒に罵ってきたから地味にショックだった。


　他に実験体を探したけど、ＮＰＣに頼むことはできなかった。
ちゃんと死なないように管理しているけど万が一の危険もあるからだ。
だから実験体になってくれるプレイヤーを探していた。動物実験はピギに止められたし。


　エンジ島にはプレイヤーがいないので、やむなく人形でテストをしてたんだけど、人形じゃ有用なデータは取れなかった。
それでも改良を繰り返したので、確実にコネコの時より性能が向上している。
まだ人間で試せてなかったから、ユラさんは本当にグッドタイミングだ。


　航路の半分ぐらいまで来た。
ユラさんはもう悲鳴を上げておらず、静かだ。
アーマーから送られるバイタルは正常、精神的に疲れているだけだろう。
　ユラさんは今の所、失神してない。
もっと激しく動いても大丈夫かも。
データは多いほどいい。というわけでブースターの出力を最大まで上げた。


　肉体にさらなる負荷が襲い掛かった。
ここまで行くと僕もキツイ。これに耐えれるようになったらセーフティアーマーは完成といえるだろう。

「あっ、気絶した」

　加速から１０分、ついにユラさんが気絶した。
　やっぱりこのレベルはまだ無理か。
ブースターの推力を落とす。


　ユラさんはちゃんと生きているし、身体に異常はない。
ポーションがちゃんと治してくれている。
　もう十分データも取れたことだし、通常のファルシュと同じぐらいの速度にしよう。
電気ショックは停止させておこう。やりすぎれば、二回目を拒否されるかもしれない。
完成までまだまだ実験は必要なのだ。


　拠点まで安全飛行で行こう。
あと一時間もすれば、到着だ。
　今更だけど、プレイ初日なのに酷いことをした。
寝かしておいてあげよう。


　暇だし、データのチェックをしよう。
拠点に到着する前に、改良プランを立案しておく。
　今のままじゃ、とても実戦に使えない。
早く忍者型が縦横無尽に動く姿が見たい。