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風吹く星よ
謁見1
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侍女さんは偉い人物に違いない。
運転手の態度から察すると、彼よりも遥かに上の立場の人間みたいだった。
「こちらでしばらくお待ちください」
謁見はまだ準備中らしく、控室に通された。
調度品はどれも高そうだ。下手に触って壊したら、大惨事。
椅子に座って、時間が来るのを待つ。
ユラさんも同じ考えみたいだけど、コネコは部屋の中を動き回っている。
「あんまりウロチョロしないでよ。壊したらどうするの?」
「安心しろ。一流の品なのは間違いないが、度が過ぎるレベルの物はないぞ」
「そうなんだ。あの絵とか高そうだけど」
「あれは版画だ。量産できるから、一点物の芸術品よりも若干価値が落ちる。それにこの作品は悪い作品ではないんだが、摺師が未熟だな。絵師と彫師は超一流なだけに惜しい作品だ」
コネコは自分で作るのも得意だけど、他人の作品の批評も得意だ。
彼の審美眼は正確。鑑定スキル以上に頼りになる。
彼が言うんだから、そうに違いない。
「摺師って何?」
「版画は分業で作られることがあるんだ。摺師は完成した版木を紙に転写する職人だ。これを摺った者は下手ではないんだが、まだまだだな」
「優れた鑑定術をお持ちですね。その版画は国が保護している芸術家の作品なんです。絵師、彫師、摺師の三人組なんですが、それを摺ったのは摺師の弟子なんです。師が摺った物は王立博物館に所蔵されています」
「ほう?それは観てみたいな」
侍女さんが補足を入れてくれた。
コネコの見立ては正しかったようだ。
「この部屋で一番高いのはその椅子だ。壊すなよ」
「それを早く言ってよ!」
コネコが指さしたのは僕たちが座っている椅子だ。
壊さないように慌てて立ち上がった。
侍女さんに聞いてみると、この椅子を含んだテーブルセットは国宝と称された家具職人の作品。
謁見の間に置いてある玉座もその職人の作品らしい。
この部屋の中で最も高額で、他と比べると桁が一つ違うそうだ。
そんなものを控室に置かないでほしい。
謁見の準備が終わったようで、謁見の間の前まで案内された。
「どうしよう。……逃げたい」
「陛下は寛大なお方です。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
侍女さんが慰めてくれたが、そんなことで緊張は収まらない。
ユラさんも緊張している様子だ。
コネコはいつもと変わりない。
彼の頭の中には謁見の間の壁画のことしかないのだ。
そんな彼を見ていると、緊張が多少和らいだ。
謁見の間の大きな扉がゆっくりと開いた。
入口から玉座まで赤い絨毯が敷かれている。
絨毯の両脇には国の重鎮らしき人物がズラッと並んでいた。
ベラさん曰く、頭でっかちの大臣もここにいるんだろう。
女王の傍には護衛の近衛隊が控えている。
ヴェルウィドウさんも当然いる。
知り合いを見つけたことで、少し緊張が解れた。
女王は玉座に腰掛けていた。
青と白のドレスを纏い、その気品に圧倒されてしまった。
ベールで顔が覆われているが、薄っすら透けて見えるその顔は整っているのが分かる。
グリンナイツが熱を上げるのも理解できる。行き過ぎだとは思うけど。
……ベールで隠されているが、顔の印象は誰かを彷彿させた。
でも、これほどの気品を持つ人は知り合いにいない。気のせいだろう。
謁見は楽隊の演奏から始まる。
ファンファーレが奏でられた。
次は玉座の脇に直立していた男性の長々しい前口上。
別に聞く必要はない。
この部分は時節の挨拶みたいに基本的に定型文で、どんなことを喋っているのかは聞かなくても知っているからだ。
次は献上品を女王に渡す。
ここにも作法がある。
デトックスストーンの入った箱を頭上に掲げ、周囲の人間に示した。
謁見の間は感嘆の声が響いた。声は大臣などの観衆から上がっていた。
観衆は箱に釘付けになっている。
コネコの作った箱はそれほど美しいのだ。
芸術に関する知識がない人間でも、その美しさに魅了される。
それに、謁見の間に来ることが許されているのは全員上流階級の人間。
教育を受けた彼らは芸術への造詣が深いから、普通の人よりもその価値が理解できるのだろう。
献上品は女王に直接手渡しはしない。
傍仕えの女官がトレイを持ってきた。
プラスチック製の安物じゃなく、銀のトレイだ。
トレイに箱を乗せると、女官が箱を女王の下に運んだ。
箱は女王の手に渡る前に爆弾などの凶器がないか、チェックを受けている。
鑑定スキルを使うだけなので、あっという間だ。
精密検査は謁見の間に入るずっと前にしている。
検査後に細工されている可能性があるため、二段階のチェックが行われているそうだ。
実際、過去にそういう手口を使った暗殺事件があったらしい。
謁見中に検査をするため、この制度ができた当初は優雅さに欠けるとか伝統を穢すなどの理由で反対意見が多かったそうだ。
だが、要人の命を守るためなのだから仕方ないことだと思う。
運転手の態度から察すると、彼よりも遥かに上の立場の人間みたいだった。
「こちらでしばらくお待ちください」
謁見はまだ準備中らしく、控室に通された。
調度品はどれも高そうだ。下手に触って壊したら、大惨事。
椅子に座って、時間が来るのを待つ。
ユラさんも同じ考えみたいだけど、コネコは部屋の中を動き回っている。
「あんまりウロチョロしないでよ。壊したらどうするの?」
「安心しろ。一流の品なのは間違いないが、度が過ぎるレベルの物はないぞ」
「そうなんだ。あの絵とか高そうだけど」
「あれは版画だ。量産できるから、一点物の芸術品よりも若干価値が落ちる。それにこの作品は悪い作品ではないんだが、摺師が未熟だな。絵師と彫師は超一流なだけに惜しい作品だ」
コネコは自分で作るのも得意だけど、他人の作品の批評も得意だ。
彼の審美眼は正確。鑑定スキル以上に頼りになる。
彼が言うんだから、そうに違いない。
「摺師って何?」
「版画は分業で作られることがあるんだ。摺師は完成した版木を紙に転写する職人だ。これを摺った者は下手ではないんだが、まだまだだな」
「優れた鑑定術をお持ちですね。その版画は国が保護している芸術家の作品なんです。絵師、彫師、摺師の三人組なんですが、それを摺ったのは摺師の弟子なんです。師が摺った物は王立博物館に所蔵されています」
「ほう?それは観てみたいな」
侍女さんが補足を入れてくれた。
コネコの見立ては正しかったようだ。
「この部屋で一番高いのはその椅子だ。壊すなよ」
「それを早く言ってよ!」
コネコが指さしたのは僕たちが座っている椅子だ。
壊さないように慌てて立ち上がった。
侍女さんに聞いてみると、この椅子を含んだテーブルセットは国宝と称された家具職人の作品。
謁見の間に置いてある玉座もその職人の作品らしい。
この部屋の中で最も高額で、他と比べると桁が一つ違うそうだ。
そんなものを控室に置かないでほしい。
謁見の準備が終わったようで、謁見の間の前まで案内された。
「どうしよう。……逃げたい」
「陛下は寛大なお方です。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
侍女さんが慰めてくれたが、そんなことで緊張は収まらない。
ユラさんも緊張している様子だ。
コネコはいつもと変わりない。
彼の頭の中には謁見の間の壁画のことしかないのだ。
そんな彼を見ていると、緊張が多少和らいだ。
謁見の間の大きな扉がゆっくりと開いた。
入口から玉座まで赤い絨毯が敷かれている。
絨毯の両脇には国の重鎮らしき人物がズラッと並んでいた。
ベラさん曰く、頭でっかちの大臣もここにいるんだろう。
女王の傍には護衛の近衛隊が控えている。
ヴェルウィドウさんも当然いる。
知り合いを見つけたことで、少し緊張が解れた。
女王は玉座に腰掛けていた。
青と白のドレスを纏い、その気品に圧倒されてしまった。
ベールで顔が覆われているが、薄っすら透けて見えるその顔は整っているのが分かる。
グリンナイツが熱を上げるのも理解できる。行き過ぎだとは思うけど。
……ベールで隠されているが、顔の印象は誰かを彷彿させた。
でも、これほどの気品を持つ人は知り合いにいない。気のせいだろう。
謁見は楽隊の演奏から始まる。
ファンファーレが奏でられた。
次は玉座の脇に直立していた男性の長々しい前口上。
別に聞く必要はない。
この部分は時節の挨拶みたいに基本的に定型文で、どんなことを喋っているのかは聞かなくても知っているからだ。
次は献上品を女王に渡す。
ここにも作法がある。
デトックスストーンの入った箱を頭上に掲げ、周囲の人間に示した。
謁見の間は感嘆の声が響いた。声は大臣などの観衆から上がっていた。
観衆は箱に釘付けになっている。
コネコの作った箱はそれほど美しいのだ。
芸術に関する知識がない人間でも、その美しさに魅了される。
それに、謁見の間に来ることが許されているのは全員上流階級の人間。
教育を受けた彼らは芸術への造詣が深いから、普通の人よりもその価値が理解できるのだろう。
献上品は女王に直接手渡しはしない。
傍仕えの女官がトレイを持ってきた。
プラスチック製の安物じゃなく、銀のトレイだ。
トレイに箱を乗せると、女官が箱を女王の下に運んだ。
箱は女王の手に渡る前に爆弾などの凶器がないか、チェックを受けている。
鑑定スキルを使うだけなので、あっという間だ。
精密検査は謁見の間に入るずっと前にしている。
検査後に細工されている可能性があるため、二段階のチェックが行われているそうだ。
実際、過去にそういう手口を使った暗殺事件があったらしい。
謁見中に検査をするため、この制度ができた当初は優雅さに欠けるとか伝統を穢すなどの理由で反対意見が多かったそうだ。
だが、要人の命を守るためなのだから仕方ないことだと思う。
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