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風吹く星よ

シルフィードの罪

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 シルフィードとは一体何か。
それは一言で表せる。
シルフィードとはシルレーラなのだ。
そのことをヴィニアちゃんから聞いたのは空魔討伐からクーデター発生までの間のことだ。



「シルフィードの罪っていったい何なの?」

 ずっと気になっていたんだけど、様々な事情が重なったせいでまだ聞けていなかった。
影さんからの情報では統合軍によるクーデターが発生するまでもう少しだけ猶予があるらしい。
余裕がある内に聞いておいた方がいいだろう。


「やっぱり話しておかないと駄目だよな。分かった、話すよ」
「ちょっと待って、みんなも呼ぶから」

 一度で済ませた方がヴィニアちゃんへの負担は少ない。
ユラさんもコネコもマイグラント内にいるから、すぐに集まることができる。


 話は食堂ですることになった。
予め連絡をしておいたので、テーブルには全員分の飲み物が用意されている。
 お茶請けも用意していたが、もうない。
少し目を離した隙に、ピギとヴィニアちゃんがいつの間にか食べ尽くしていた。
 最後に来たのはコネコだ。
彼の顔や手は絵の具で汚れていた。どうやら新作の制作をしていたみたいだ。


 全員が集まったところはヴィニアちゃんはシルフィードの罪について話し始めた。

「空魔との戦いで問題なったのは、奴の憑依能力だ。あの能力の前じゃ弱いシルレーラ様は空魔に操られてしまう。親友のシルレーラ様ならできたけど、それ以外のシルレーラ様相手だと憑依を解除できなかったんだ」

 たしかにヴィニアちゃんと女王はクインシフに現れたシルレーラから空魔を切り離せなかった。
可能ならば、とっくの昔にやっているだろう。


「だから、空魔に憑依されずに戦える肉体が必要になったんだ」
「それとシルフィードに何の関係が?」
「その肉体として用意されたのがシルフィードの原型なんだ。昔の人は卵って呼んでたらしい。卵って言っても本当に卵の形じゃなくて、人型のロボットだったんだって」

 シルフィードよりも前ということはひょっとしてあれかな?


「卵は初代巫女様の時代よりもずっと昔からヴィンディスにあったんだ。ヴェロニカ姉ちゃん曰く太古の遺産なんだって」

 やっぱり先史文明の物か。
シルフィードよりもそっちを調べてみたい。

「残ってないの?」
「未開の島を探索すれば残っているかもしれないけど、私の知る限り持っている人はいないな」

 残念だ。解体してみたかったのに。
でも、現存の可能性は否定されていない。統合軍のことが片が付いたら、卵捜索の旅に出ようかな。


「卵には動力源が抜け落ちていて、動きもしないただのガラクタだったんだけど、シルレーラ様の新たな肉体として、とても都合が良かったみたい」

 ヴィニアちゃんはシルレーラの魂を机に置いた。

「詳しくは知らないけど、シルレーラ様の魂は尋常じゃないエネルギーが秘められているんだ。シルレーラ様の魂を組み込まれた卵はそのエネルギーを受けて、変異。風王機とシルフィードが誕生したんだ」
「なんで二種類ができたの?」

 同じ過程を経たにも関わらず、二種類に分かれたのには理由があるはずだ。


「卵は古い物だったから、質の差があったんだ。それとシルレーラ様の中でも格の違いがある。風王機は卵の中でも特に質が良い物にシルレーラ様の中でも高位の方の魂を組み込んだらしい」
「蜜蜂みたいね」
「何で?」

 ユラさんによると、働き蜂と女王蜂は卵の段階では全く同じで、栄養価の高いローヤルゼリーを食べさせた個体が女王蜂になるそうだ。空王機とシルフィードの関係と少し似ているかも。
 ユラさんははにーさんに聞いたらしい。さすが蜜蜂騎兵団、蜂について詳しい。


「魂をシルフィードに移すのは空魔との戦いが終わるまで。空魔との戦いが終われば、全てのシルフィードを破壊し、魂を解放を約束をしていたんだ」

 ここまで聞いたら、シルフィードの罪は容易く想像できた。

「だけど、その戦闘力を惜しんだ一部の権力者が破壊せずに隠し持っていたんだ。それが今も現存するシルフィードなんだ」

 まさに大罪だ。
人間を信頼し、自身の魂を預けたのに、約束を破るなんて。

「空王機は大丈夫なの?」

 空王機は分解されてはいるものの、一応現存している。
博物館の地下で見たあの機体には妙な威圧感を感じた。あれにも魂が残っているのかも。

「今の空王機に魂はないよ。分解されたときに解放されたんだ」

 じゃあ、あの威圧感は残滓かな?
空王機に組み込まれたシルレーラはどれほどの高位の個体だったんだろう?


「仲間のシルレーラはどうして黙っているんだ?」

 コネコと同じことを僕も考えていた。
全てのシルレーラがシルフィードになったわけじゃない。
シルレーラの中には空魔の支配を跳ね除けた個体もおり、彼らはシルフィードにならず、そのままのはずだ。
普通なら同族がそんな仕打ちを受けていたら取り戻しに動くはずだ。


「シルレーラ様は新たな戦いを望まなかった。それに巫女を信じたんだよ。いずれ全ての魂が返されるって。未だ返されていないけどね」
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