コスモス・リバイブ・オンライン

絆と禁忌

機獣は相棒

【人間さんと会話できるなんて新鮮ですわ】

　ミドリはお淑やかな女性だった。ただ、少し天然も入っている。

【リコリスに伝えて。心配しなくてもいずれ良くなるって】

　思念波は口に出す言葉よりも、感情が強く表れる。
ミドリから届いた感情は苦しみ。良くなるというのも嘘だ。
なんとかしなきゃ。


　問診ができるなら、治療の効果が分かりやすい。
色々試した結果、効果があったのはハイポーションと万能解毒剤の組み合わせだった。
それも劇的なものではなく、再生までは至っていない。
　それでもやらないよりはマシだ。
ミドリだけではなく、スケイルたちにも同じ物を投与しておく。


　スケイルたちとも交信は成功している。
クリアにも交信を試してもらったが、雑音が多くて、上手く聞き取れないらしい。
僕の思念波は人外専門なのかも。
……何故だろう、少し悲しい。


　機獣たちにも人間と同じように性格の差があるようだ。
ミドリは少し天然が入ったお嬢様。アローさんのスケイルは気高い女騎士。
パッション君のニックは兄貴肌。メービ君のエレクトラはツンデレ猫といった感じ。


　ペットは飼い主に似ると言うけど、女性陣の機獣はそれに近い。リコリスさんたちの影響を受けたのだろう。
一方、男性陣の機獣もパイロットの影響を受けていると言える。
特にニックはパッション君が抜けているから、この性格になったんだと思う。


　ミドリたちの治療は一段落した。
あとは毒のサンプルが手に入ることを祈ろう。

「こっちもお願いにゃー」

　にゃんこ同盟からも治療を頼まれている。
彼らの機獣も毒に侵されているのだ。


　タマさんの機獣であるバレットリンクスのルナをはじめ、にゃんこ同盟の猫型機獣も同じ毒にやられている。
にゃんこ同盟の機獣たちがいる部屋に入ると、にゃんこ同盟の人達が縋りついてきた。

「うちの、うちのフウちゃんをよろしくにゃー！」
「俺の姫ちゃんも頼むにゃー！」
「にゃーにゃーうっとおしい！ちゃんとやるから離れろ！」

　わんわん組合からも頼まれたので、クリアと手分けして、治療に当たる。
彼女たちの機獣たちに投与して回ったら、ハイポーションも万能解毒剤もほとんど無くなってしまった。
ギリギリだったけど、薬は全員に行き渡っている。
　毒のことは聞いていたので、予め大量に用意しておいたのは成功だった。
また作らないと。

　多少は改善したが、完治には程遠い。
やはりこの毒専用の解毒剤が必要だ。
毒の返還交渉が上手く行けばいいんだけど。
　ちなみに両クランの機獣たちと交信すると、大半からパートナーへの伝言を頼まれた。
踏み潰しそうになって怖いから、足にじゃれつくのはやめてほしいそうだ。


　その後、軍やそのほかのプレイヤーからも治療の要請があった。
しかし、この治療はあくまで若干の改善。毒の苦しみを和らげることしかできない。
にもかかわらず、治療費は高額にならざる負えない。薬はタダじゃないのだ。
　

　プレイヤーの一部はそれでもいいから治療をしてくれと頼みこんできた。
リコリスさんたちやにゃんこ同盟、わんわん組合と同じく、彼らにとって機獣は大事なパートナーなんだろう。
　軍は値段を提示したら引いた。
軍は公共機関、無駄遣いはできない。大して効果がない治療に大金は出せないのだろう。
　彼らだって、機獣を大事にしていないわけじゃない。
軍の中にも自費で自身の相棒の治療を頼む人がいたし。


　頼まれた治療は終わらせた。
今は椅子に座り、生命力の回復を待っている。
　足りなくなった薬の練成で生命力はだいぶ減ってしまった。
ハイポーション級の練成は生命力の消費は大きいのだ。
　

　クリアはリコリスさんたちに思念波の指導している。
僕が機獣と会話したことが、彼女たちに火を付けた。彼女たちも機獣と会話したいらしい。
　だけど、機獣との交信は雑音が多いせいで、会話は不可能。
しかし、無駄にはならないだろう。
雑音だらけでも、感情ぐらいは読み取れるのだ。
それにひょっとしたら、イド人なら聞き取れるかもしれないし。


　パッション君がリコリスさんとの思念波の相性でショックを受けている。
悪かったわけじゃない。メービ君に負けたのがショックだったらしい。

「実の弟に勝てるわけないよ」
「俺とリコ姉ちゃんはいずれ恋人になるんだ。弟なんかに負けるなんて」

　ショックを受けるのはいいけど、僕の傍で落ち込むのはやめてほしい。
無視できない。


　いつまでもウジウジしているパッション君の脳天に拳が振り下ろされた。
鈍い音が周囲に響き渡る。
　格闘技をやっており、痛みに慣れているはずのパッション君が声も出せずに蹲っている。
どれだけ強く殴ったんだろう。
　殴ったのはアローさんだ。
パッション君は気づいてなかったが、ユラさんと共に今しがた戻ってきたところだった。