コスモス・リバイブ・オンライン

絆と禁忌

侵攻に備えて

　毒には大きく二つの作用がある。
一つ目は細胞を溶かす作用。
これによって、スケイルたちはケルンだけになってしまったのだ。
　もう一つは再生を阻害する作用。
今まで機獣たちが再生しなかったのはこれのせいだ。


　当然、僕にもその影響があって、内臓はボロボロ。
骨なんてスカスカで、銃なんか撃ったら、その反動で腕の骨が粉砕してしまうだろう。
　この件は内緒にしている。
言ったら、さらに怒られそうだし。


　僕を監視しているのは人間だけじゃない。
スケイルたち機獣もだ。
　今も僕が寝かされているベッドに四匹が寝転がっている。
しかし、踏み潰される恐れはない。
今のスケイルたちは小型犬のように小さいからだ。


　これは最近イドで開発された技術で、機獣の意識を別の入れ物に移しているのだ。
これまで使っていなかったのは、それができないほどレベルのダメージを負っていたから。
　仮の肉体に意識を移している間、本体は休眠状態になり、エネルギーの消費も最小限で済む。
維持費がこれまでの半分以下になるそうだ。


　メリットはそれだけではない。
小さくなったことで、踏み潰される心配はなくなり、機獣とのコミュニケーションも取りやすくなる。
絆を深めるのも以前より簡単になった。


　仮の肉体の作成にはピュニアを産み出したワンダーエッグを使うそうだ。
ワンダーエッグは高価だが、この技術はそれに見合った効果がある。
　この技術が開発されたせいで、ワンダーエッグの需要が急激に高まった。市場では常に品薄状態。
アローさんに頼んで、探してもらったが、手に入らなかったらしい。


　ワンダーエッグが手に入っても、ピギを増やすつもりはない。
ピギとピュニアは無害で可愛いが、育て方を間違ったら、過去のベース２２みたいに大惨事が起こる。
あくまで研究用として、欲しかっただけだ。


　ワンダーエッグは錬金によって、作成されるんだけど、作れる人は少ない。
練成は練成器に材料をつっこんで、生命力を注入するだけ。スキルの補正はあるが、誰がやっても大きな差はない。
　それに対して、錬金は技師の力量が大きく問われる。
ワンダーエッグを作れる技術者はイドでも多くはないそうだ。


　イドに到着して今日で六日目、スケイルたちへの血清投与から五日経過した。
本体の再生は順調に進んでいる。
今で大体半分ぐらい。復活は遠い。
　にゃんこ同盟が所有するバレットリンクスなどの進化済みの機獣もまだだけど、進化前のキャットスは明日にも再生が終わるそうだ。


　この五日間で僕の方も毒のダメージはほとんど抜けている。
まだ完調ではないものの、動いても大丈夫だ。
　相変わらず、ベッドから動くことは禁じられているけど。
スケイルたちに常に見張られており、抜け出すのは不可能だった。


　幸い、共和国の進軍は始まっていない。
万全を期すつもりなのだろう。
　前回の侵攻で虎の子の新機獣が鹵獲される寸前まで行ったため、警戒を強めているんだと思う。
もうしばらく、大人しくしてくれたら、嬉しい。


　実は血清の存在は秘密にしている。
にゃんこ同盟とわんわん組合以外、その存在を伝えていない。
にゃんこ同盟もわんわん組合も常に警備を置き、自分たちのスペースに部外者を立ち入りさせていない。


　ここまで秘密にするのはには理由がある。
血清が完成したことが洩れると、共和国が進軍を再開するからだ。
　敵の態勢が整うのを見過ごす司令官など存在はしない。
勝利する確率が高い時に戦う。当たり前のことだ。
　

　軍に血清を提供しなかったのもこれに関係する。
僕たちはスパイの存在を疑っているのだ。
明確な証拠はないが、ほぼ確実にいるだろう。


　厳戒態勢を敷いているけど、それにも限界がある。
ここは公共の施設、隠し通せるわけがない。
　もう血清の情報は外部に漏れている。さっき、軍から提供を頼まれたのである。
数がないから、断ったけど。


　軍が掴んだということは共和国側も血清の完成の情報を掴んでいるはず。
出撃準備が終わり次第、進軍してくるだろう。
　ユラさんの読みでは早ければ明日、遅くとも明後日には侵攻してくると予想している。
アローさんもそれに同意しており、僕も同じ意見だ。


　それに備えて、戦場となる平原に罠を仕掛けてある。
ステルス性の高い紅霞なら、敵軍に気付かれずに仕掛けることも難しくないのである。
　仕掛けた罠に殺傷能力が高い物はない。
戦後、撤去し切れなかった場合、民間人に被害が恐れがあるからだ。


　軍にも内緒で勝手に仕掛けたから、僕ら以外誰もその存在を知らない。
確実に引っかけることが可能だろう。
　仕掛けたのはいいけど、別に使う機会がなくても構わない。
あくまで有事の際の備えだ。