上 下
644 / 816
星海から訪れる侵略者

マルヴェ

しおりを挟む
◇ケルヴィン視点

 スワロはすでに酒場から出て行った。
剣闘士を探すために、コロッセオに向かったのだろう。
 本当は俺が出場するのが、一番だったんだけどなぁ。
専属契約はしているけど、話せば分かってくれるはずだ。


 あのクソ男をボコボコにする機会を逃すのは惜しいが、恩人の頼みだから、仕方ない。
あの人がいなかったら、俺は今も酒場で呑んだくれているままだっただろう。

「これでよろしいんで?」
「ああ。ご苦労だったな」

 奥に隠れていた爺さんが姿を現わした。
彼が俺の恩人だ。


 この爺さんは只者ではない。
爺さんとその弟子がいなければ、あの寅は倒せなかっただろう。
 奴をレール上に誘導する作戦を立案し、見事成功させたのは彼らなのだ。
しかし、その功績を知る者は少ない。彼らは過度に目立つことを好んでいない。
その功績を鉄道警備軍に譲ったのだ。もし、それがなかったら、英雄として讃えられていただろう。
 

 もしかしたら、彼らがあいつらと敵対することになったのは爺さんの差し金かもしれない。
この爺さんなら、それぐらいできてもおかしくない。

「言っておくが、私が手を回したんじゃないぞ。いずれこうなることぐらいは分かってたな」
「というと?」
「彼らは目立っているからな。現に駅に入ってすぐに情報が入ってきた。そう遠くない内に、あいつらに目を付けられるのは自明の理だ。……まあ、こんなに早く揉めるとは思ってもいなかったんだが」

 爺さんにも読めないことがあるとは意外だった。


 あの婆は必ず失脚させる。
それがもう一人の恩人への恩返しにも繋がるはずだ。
 もう一人の恩人は寅に殺されたコロッセオのトップだ。
あの人にも世話になった。あの人は誰よりも剣闘を愛していた男だ。
彼のためにもコロッセオを正常化させなければ。


◆視点終了

 ケルヴィンさんのアドバイス通り、スポーツ部門の剣闘士から、パイロット候補を探すことにした。
早速、コロッセオで物色する。
 剣闘機を使用したスポーツには様々な種類がある。
スカウトするなら、戦闘に通ずるスポーツの剣闘士がいい。
自分との闘い系のスポーツだと、対戦相手がいる闘いには対応できないと思う。


 目を付けたの一対一のラグビーのような競技だ。
自陣にボールを持ち込んだら、勝利。
敵への過度な攻撃は禁止されているが、ボールを持った相手へのタックルなどは禁止されていない。
その激しさはバトル部門にも引けを取らないほどだった。彼らならすぐにバトル部門に転向できるだろう。


 一日に行われる競技は多い。
コロッセオ以外にも試合が行われており、一人で全てを観戦することはできない。
みんなで手分けして、目ぼしい剣闘士を探す。
優先するのはプレイヤーかな?NPCだとしがらみが多くて、引き抜くのが困難だ。


 見つけ出した候補は五人、全員がプレイヤーだ。
ランクはまだ最下位だけど、勝率は高く、そう遠くないうちに昇格するに違いない。
まだどこの工房にも所属していない。彼らならしがらみはないだろう。


 クランにスカウトするかは未定。
そちらは実力だけじゃなくて、人格も見ないと、勧誘できない。
星の獣にはNPCも所属しているし、危険なテクノロジーも所持している。
危険な思想を持っている人を所属させるわけにはいかないのだ。


 今は急ぎなので、人格面は無視。
一時雇いという形で、雇い入れようと思う。
 とりあえず、実力が上の人から勧誘してみよう。
一人ぐらいは承諾してほしい。


 幸い、お金ならある。
相場以上の額を提示すれば、承諾してくれるだろう。
 拒否されたら、さらに候補を探さないと。
バトル部門よりも絶対数は少ないが、スポーツ部門もかなりの数の剣闘士が在籍している。
探せば、候補は他にも見つかるはずだ。


 候補の一人の試合を観戦していたが、考え事をしていたせいで、いつの間にか試合が終わっていた。
どっちが勝ったのかすら分からない。
 席を発とうとすると、誰かに肩を叩かれた。
振り向くと、そこには少女がいた。どこかで見覚えがある。

「剣闘士を探してるの?」
「君はたしか……」
「お久しぶりです。お兄さん」

 彼女と会ったのはお祭りの時、僕VSフラワー姫親衛騎士団の戦いで僕に賭けてくれていた子だ。
彼女はダァンのプレイヤーだったのか。


「私はマルヴェ。よろしくお願いします」
「スワロです。最近では極悪鬼って呼ばれてます」
「剣闘士が必要なんでしょ?だったら、私がおすすめ」
「僕が探してるのは勝てる剣闘士なんだけど?」
「大丈夫。私、強いよ。誰にも負けない」

 どこからその情報を集めたのかは知らないけど、凄い自信だ。
とりあえず、テストしてもいいかも。
まだ他に声を掛けている人もいないし。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,789pt お気に入り:30

秘密の男の娘〜僕らは可愛いアイドルちゃん〜 (匂わせBL)(完結)

Oj
BL / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:8

俺の妹が優秀すぎる件

青春 / 連載中 24h.ポイント:596pt お気に入り:2

顔の良い灰勿くんに着てほしい服があるの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:0

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,075pt お気に入り:1,292

役目を終えて現代に戻ってきた聖女の同窓会

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,755pt お気に入り:77

処理中です...