垢BAN転生【最強に飽きたので次は最弱で世界を謳歌します！】

第三章・都市部

新たな今日と次なる旅立ちへ

   ――ユサユサと体が揺らされる……。

   アルマの体に少しバカり揺れが感じられたのか目を覚ましては、まだ眠くて処理に追い付かない脳で辺りを見回した。

   窓を見ると朝日は差し込んではおらず、曇っていては小雨が窓を濡らしては今日の一日のスタートの気分を少しだけ下げてくれた。
   アルマは雨はあいにく好きじゃなくて、転んで小さな時に大きく擦りむいた記憶があるためにトラウマのようなものすら覚えるも、普通に歩くだけなら問題はさほどもない。

 「おはようございますですよー、さぁさぁ起きた起きた。」

   曇っていてもカルトの心はいつも晴れていて元気な様子。
   どうやら起こしに来たようで、時計を見つめると朝の六時とちょうど良い時間である。

   元々早起きは苦手だが深夜の一件で体に疲労感が残るものの、重い体はなんとか起き上がらせるも完璧に起きたわけではない、
   床に足を一歩踏み入れるのが億劫なだけなのだが。

 「ふぁ、わ……眠ぃよ。 あと五分だけ。」

 「二度寝は許しませんぜっ！ そぉいっ！！」

   カルトは布団を無理矢理剥ぎ取っては二度寝が出来ないようにしてしまう。
   アルマはジーっと睨んでは相変わらず眠そうな表情であり、起きるにはもう少し時間がかかりそう。

   マットレスだけの布団に大の字になってみたが、掛け布団がないと安心感の湧かない性格のアルマは渋々起き上がることに。

 「起きれば良いんだろ……起きれば。」

   アルマのプレイヤー自身の体の時は、朝遅くの十時前後に起きることが大抵なためにどうにも朝の六時に起きると体は驚くようで、上昇する血圧の高さが大きなため息を出させる。

 「はぁーっ、キツいわ……朝から早起きなんて俺には不向きだっつーの。」

 「お姉ちゃんが起こしてこいと言うもんですからな？ 不満をぶつけるならアルタにして欲しいもんですわ。」

   まぁ、でも店の開店や姉妹達の朝食……、それから準備などを要すればメンテナンスの終了時刻の二時間前には済ませておきたいところだし、ちょうどほどよい時間の使い方なのだろう。

 「しょうがねぇなぁ、よっし……眠いけど気合い入れて頑張るか。」

   アルマは自分の頬にパンっと活力を注入してはカルトの部屋から出て行き、リビングへ向かう。



   リビングには朝食の美味しそうな香りが充満しており、焼きたてのトーストからトマトとチーズのサラダにスクランブルエッグ、野菜のコンソメスープに色々美味しそうなものがたくさん。
   さすがのアルマもこれには驚きで、颯爽と椅子に座ると腹の虫が鳴り出す。

 「おはよう……。 ははは、腹の虫が先に挨拶したか。」

 「おはようさねぇ。」

   アルタは夜中の余韻を引きずってるのかアルマの顔を少し見つめただけで頬を染めては、一瞬で顔をそらしてしまう。
   
 「まだお姉ちゃんがドキドキしてますなっ！ まぁ、私もドキドキしてると言えばしてますからなぁ。」

   カルトだって頬は染めているもののアルマの事を普通に凝視することはできる。
   相変わらずな性格には感服するばかりだが、長時間見つめられるとアルマ自身が恥ずかしくなってくるようだ。

 「あ、あんまり見るなよ……恥ずかしいんだからよ。」

 「アルマは照れてますな！ おお、可愛い可愛い。」

 「はいはい、食べないと遅くなるさね……いただきます。」

   冷やかしてばかりのカルトを置き去りにしては、アルタの掛け声でアルマも同時に「いただきます」の掛け声を言っては、山盛りのサラダを堪能した。
   もちろん、コンソメスープは美味しくて二杯はおかわりするほどであった。





   朝食が終了するとアルタは急いで食器を片付けたり、カルトは店の開店のために看板を出したり忙しく、アルマは引続き冒険のために道具を整理したり三人のコンディションを整えた。

   本当は別れ惜しいアルマで、ストーンラットを討伐したならば実力が認められ次なる場所へのクエストに行かなくてはならない。
   都市部からも相当離れているため、毎日会うことは出来るはずもないため名残惜しそうな表情である。

   しかしアルマは悩みに悩んでいたのだ。

   ――事実上ここで確実に詰んだ……か。

   次なる場所へ到着したならば実力試験を受けなくてはならず、いくらストーンラットを討伐したとは言えど過酷なクエストも出てくることは免れぬためにオンラインのアバター同士のバトルが始まる。
   それが何を意味するかはアルマには理解していたはずだ。

   ステータスが一しか無いアルマにとって他のプレイヤーとの対人バトルは勝ち目は存在しないことになるし、一度でも勝って実力が認められないのなら次のクエストも受けることもできない。
   つまりは魔王に会うことも許されない。

 「どうしたものか。」

   イベントのねじ曲げる力も考えてみたが、メインのイベントをねじ曲げる事は出来ないためこの試験は絶対的な通過点であることには間違いはない。

   そして、いくら強い武器を装備しようが勝ち目のないアルマはちょっとだけ不安を覚えた。

 「まぁ、何とかなるだろ。」

   そうでも自分に自己暗示をかけなくては心が潰されそうになるほどだ。

 「なにショボくれてるんだい？ 男だろう？ ビシッと行きな！」

   突如として肩に強い衝撃が走り何事かと振り向いてみると、情けない表情をしたアルマに元気を送ろうとアルタが激励してくれたのだ。

   気持ちは嬉しいけどこんなものでどうにかなるものでもないが、ここは素直に喜んで受け入れなくては心が本当に持たないのは必須。

 「よっしゃ、行くぜ！ どんな苦難でも乗り越えてやるさ！」

   アルマは刀を掲げた。

 「うぉっと、お店の中で抜き身とは危ないですぞぉっ！？ けど、私達のアルマですからな！ いつでも応援はしますわな！」

   カルトもエールを贈ってくれたようで内心は不安でいっぱいだが、その場のアドリブを利かせればどんな苦難でも乗り越えたりねじ曲げたり、様々な対応ができそうな気がしたと少しだけにやけてくる。

 「さて、行く前に……ふふっ。」

 「私もっ！」

   突如として二人に抱き締められては、右頬と左頬に柔らかくてしっとりとしたモノが触れた。
   一瞬何をされたのかわからずフリーズしてしまい、理解するのに三十秒はかかったアルマ。
 
   二人を見つめると赤い顔でモジモジする二人だが、どうやら頬にキスを受けたようだ。

   頬へのキスは信愛や満足感等といったもので、アルマへの感謝は大きいものである。

 「あ、ありがとう。」

   照れくさそうに笑ったアルマだが、次なる場所は遠くにあるために今から行かないと野宿コースになる。
   アルマにとっての野宿は一撃即死のサバイバルなのだからそれだけは避けたいと、感謝の言葉を告げると店を出る。

 「また来るから……心配するな。」

   裏口から見送る二人に手を降りながら武器屋を後にするも、十秒もしないうちにカルトやアルタの開店の掛け声が大きく響き渡る。

   小雨な雨模様の空を見上げては少しだけ微笑むとなぜだか駆け出したい気分になったのか、昔濡れた道路で大きく擦りむいてトラウマになったにも関わらず元気よく今日の一歩を踏みしめたアルマである。