日々是成長・HDリマスター(本編の少し前のお話)

９月１日

９月１日。
移り変わりて廻るもの。














   神界の東の郊外にある浜辺にて、九月ともなるとやはり海水浴客はもうほとんど見えなくなるこの時期。
   昨日までの賑やかさはどこに行ったのかと物寂しげに語る九月という暦に、静かな浜辺は何を言うわけでもなく静寂に包まれている。

   この浜辺に小さな海の家が存在しており、よく見ると裏手の方で何やら洗い物をしている少女が一人垣間見える。

 「忙しい時期も終わったねぇ……ふぅ。」

   夏場の浜辺では、焼きそばなどと言った定番のメニューを作るための鉄板を片付けたり忙しい。
   そんな海の家海風堂シーフードのたった一人の店員の彼女はせっせこせっせこと忙しなく働いてる。

   店内は六人が限度の畳のお部屋で、半強制的に相席にせざるを得ないほどの狭さなのだがこれまた良い雰囲気の店内は人気である。
   現に今も店員の居ない店内の畳にも一人のお客さんが静かにうどんを食べている。

 「ここのうどんは美味いな。」

   黄金色の髪の毛を震わせては、揚げ玉に葱の絡んだ出汁の味わいが深いうどんをすすっては汁まで飲み干す。
   鉄板を洗い終わった彼女は片付けてくると、その彼のとなりに座ってはニコニコしている。

 「ヨグ君はよく来るねぇ。」

   黄金色の髪の彼は外碓 遥空そとうす ようくと呼ばれており、皆からはヨグと呼ばれている。
   そして店員の彼女は深城 海凛しんじょう まりんであり、笑顔が素敵なのだ。

 「このうどんにも一つの過程に全てが詰まってる……実に深い。」

 「ヨグ君の言ってることはあまりわからないけど、美味しいってことだよね。」

   彼はひとつを全てと捉え、また全てをひとつと捉える難癖強い神様であり、神名という本当の神の名こそは教えてはくれないもののこう見えて時間を超越する神だとは海凛は聞いたことがある。
   思想は人それぞれと言うのは本当に面白い。

 「この麺は手作りか？」

   遥空はこの麺がとても好きみたいなご様子。

 「市販のだよ？ えーと……第七界の七刻っていうところで売ってるの。」

 「第七界のか……。 俺は第一界出身だからあまりわからないが今度行ってみるか。」

   顎に手をあてては少し考え込む。
   うどんとは何か、ここの店に来てからうどんに対しての執着は変わった彼なのだから全てを追求したくてたまらない様子。

 「一度、第百八界に行ってみると良い、そこのうどんの麺も俺は好きだからな。」

   そう言うとレジにてうどん代の五百四十円を置いてゆくとあくびをかましながら跳んでゆく。
   黄色く淡い光を放ちながら西の方へと消えてゆく彼だが、久々に故郷の話をしたら一度戻ってみたくなった彼女でもある。
   そして、紙に臨時休業の文字を綴ったそうな……。