癒し(笑)の魔王~防御力が高すぎて誰にも倒せません~

岳河 夕陽

文字の大きさ
44 / 55
魔王VS魔王?

第42話 (偽)魔王と勇者

しおりを挟む



ザシュッ


「グアァ!?」


背後からの襲撃は、見事ウィルヘルムの右腕を斬り飛ばした。
悪魔といえど血は赤い。傷口から鮮血をあふれさせながら、視界に入った勇者達の姿に一瞬目を見張り、そしてすぐさま睨みつける。


斬り落とした当の本人は、「え、マジで成功したんですけど・・・。」とか言いながら頬を引きつらせているが。


「いいぞ勇者様!出だし上々だ!」


その後ろで、不意打ちの成功を讃える勇者パーティーの魔法剣士。何を隠そう、作戦立案者はこのアガンなのだ・・・勇者パーティーのメンバーと言うよりは、完全に魔王の配下らしくなった今日この頃である。それでいいのか魔法剣士。


「いや、でも、これって・・・」
「背後から襲い掛かるなど卑怯な真似をしおって!貴様それでも勇者か!?」
「ですよねえぇぇぇぇぇぇ!!!」


魔王(偽)が怒鳴った。
思わず同意する夏樹であったが、アガンは揺らがない。


「何グダグダ言ってやがる。生きるか死ぬかの問題なんだよ、んなこと気にしてられるわけねぇだろ。」
「さっきと言ってる事が違いすぎませんかねアガンさんんんんんん!?」


しれっと答えるアガン。建前とは言え、『勇者パーティーが4人で吸血鬼1体をリンチするってどうなんだよ?』とかなんとか言っていたわりに見事なまでの変わり身の早さである。


そして魔王ミストはといえば


「【毒蛾の舞パラサイトダンス】【高位即死魔法アバドン】【悪夢ナイトメア】【捕縛バインド】・・・・・」


せっせとお手製の罠を作っては室内に仕掛けていた。時間がないので、今回は対象指定不可である。
え?勇者が巻き込まれる?大丈夫!状態異常無効があるからね!


「貴様ら・・・外道な真似をしおって・・・加減するのはやめだ!騎士道の何たるかを身をもって学ぶがいい!!!」
「悪魔に騎士道言われたよおい!?」
「いや、別に知りたくないし。」


「フ、フハハ!この私を本気にさせた事、後悔するがいい!!!」
「うっ!?」
「眩しい!」


突如としてウィルヘルムの身体が閃光を放った。黒いオーラの入り混じったそれが収まった時、そこには・・・


「さあ、始めよう。」


翼はより禍々しく、髪とツノが伸び、身体中が硬い鱗に覆われた姿のウィルヘルムが立っていた。


「第二形態出すの早すぎるだろ!?」
「気が短いよね。」
「だな。」
「それじゃない!!!」


至極まっとうなツッコミである。そろそろスキルになるかもしれない。
その間にも、ウィルヘルムは攻撃を仕掛けてくる。


「死ね。」
「なっ!?速っ・・・」
「【物理防プロテク・・・】」


迫る剣を、咄嗟にレヴァンティンで受け止めようと構える夏樹。
シャロンが防御魔法をかけようとするも間に合わない。
ウィルヘルムの剣が夏樹の右腕に届こうとした、その時





ガキイィィィーーーーーーーン





「「「・・・は?」」」
「何い!?」
「よっしゃ掛かった!!!」


ミストの罠が発動した。
今のウィルヘルムは、浮かび上がった小型魔法陣から出る魔力の紐で拘束された状態だ。


敵の身動きが取れなくなったのを認識して、驚きながらも反射的に間合いを取る夏樹。と、


ーーーヴゥ・・・ン


「!?」
「シャロン、フレイア、全方向の物理防壁を!」


着地した足元に小型魔法陣が浮かび上がり、そして


ブフォアァァァ


黄色く細かい粉が部屋中に溢れた。【毒蛾の舞パラサイトダンス】である。


ミストの指示によりシャロンとフレイアは咄嗟に防御魔法を展開したが、夏樹とウィルヘルム、更にミスト、アガンの4人はそのまま巻き込まれる。


「何やってくれてんのミストちゃん!?」
「べつにいいじゃん。巻き込まれても効かないんだし。」
「気持ち!気持ちの問題!!!」
「おい勇者様!隙ができてんだからさっさと倒しちまえ!」
「あああもうヤケだコンチクショオォォ!!!」


夏樹は涙目でウィルヘルムと戦い始めた。魔王とオカンはお膳立てに余念がない。


その後も罠は発動し続けた。夏樹が踏み込めば毒の霧が撒き散らされ、ウィルヘルムが夏樹の首を切り落とそうとすれば足元から槍が突き出される。床を踏まなければいいと思いついたウィルヘルムが翼で軽く浮いた状態になるも、いつの間にやら天井から吊り下げられていた【捕縛バインド】に捕まったり・・・・・


「はぁ、はぁ・・・くっ!このような卑怯な手を使いおって!」
「いやなんかホントすんません!!!」


そんなこんなで、ウィルヘルムだけが満身創痍になっていた。


『もう罠が残ってない・・・。こっからは勇者とあの元聖騎士の悪魔の真剣勝負だよ。』
『ストックは?』
『無い。』


設置した罠が全て発動しきったのを小声で話すミスト。と、


「ク、ククククク!ハハハ!聞いた!聞いたぞ!もう罠は無いようだな!悪魔の聴力をなめるなよ!」


流石に高位の魔物モンスターらしく、その会話を聞き取ったウィルヘルムが一直線に夏樹へと向かう。正に全身全霊の攻撃が繰り出されんとした、その時ーーー


「え、それ何てフラ・・・」


カチッ


ヴゥ・・・ン


「・・・は?」




ッドオォォォォォォォン!!!













「「「・・・・・。」」」
「え・・・あ・・・わ、私の・・・私の翼があぁぁぁ!?」


最後の1つは攻撃魔法であったらしく、発動までに魔法陣から抜け出すのが遅れた翼と尾が吹き飛んだ。


「うん、まあ、そうなるよな・・・。」
「翼が・・・、!?、尾まで!?」


尻尾を切られると動きが悪くなる生き物は多い。床であたふたする悪魔を見て、夏樹は


「すまん、見てられない・・・もう、終わりにしよう。」


ザシュッ





こうして(偽)魔王が討伐され、リリム復活は阻止された。
しおりを挟む
感想 117

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...