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魔王VS魔王?
第42話 (偽)魔王と勇者
しおりを挟むザシュッ
「グアァ!?」
背後からの襲撃は、見事ウィルヘルムの右腕を斬り飛ばした。
悪魔といえど血は赤い。傷口から鮮血をあふれさせながら、視界に入った勇者達の姿に一瞬目を見張り、そしてすぐさま睨みつける。
斬り落とした当の本人は、「え、マジで成功したんですけど・・・。」とか言いながら頬を引きつらせているが。
「いいぞ勇者様!出だし上々だ!」
その後ろで、不意打ちの成功を讃える勇者パーティーの魔法剣士。何を隠そう、作戦立案者はこのアガンなのだ・・・勇者パーティーのメンバーと言うよりは、完全に魔王の配下らしくなった今日この頃である。それでいいのか魔法剣士。
「いや、でも、これって・・・」
「背後から襲い掛かるなど卑怯な真似をしおって!貴様それでも勇者か!?」
「ですよねえぇぇぇぇぇぇ!!!」
魔王(偽)が怒鳴った。
思わず同意する夏樹であったが、アガンは揺らがない。
「何グダグダ言ってやがる。生きるか死ぬかの問題なんだよ、んなこと気にしてられるわけねぇだろ。」
「さっきと言ってる事が違いすぎませんかねアガンさんんんんんん!?」
しれっと答えるアガン。建前とは言え、『勇者パーティーが4人で吸血鬼1体をリンチするってどうなんだよ?』とかなんとか言っていたわりに見事なまでの変わり身の早さである。
そして魔王はといえば
「【毒蛾の舞】【高位即死魔法】【悪夢】【捕縛】・・・・・」
せっせとお手製の罠を作っては室内に仕掛けていた。時間がないので、今回は対象指定不可である。
え?勇者が巻き込まれる?大丈夫!状態異常無効があるからね!
「貴様ら・・・外道な真似をしおって・・・加減するのはやめだ!騎士道の何たるかを身をもって学ぶがいい!!!」
「悪魔に騎士道言われたよおい!?」
「いや、別に知りたくないし。」
「フ、フハハ!この私を本気にさせた事、後悔するがいい!!!」
「うっ!?」
「眩しい!」
突如としてウィルヘルムの身体が閃光を放った。黒いオーラの入り混じったそれが収まった時、そこには・・・
「さあ、始めよう。」
翼はより禍々しく、髪とツノが伸び、身体中が硬い鱗に覆われた姿のウィルヘルムが立っていた。
「第二形態出すの早すぎるだろ!?」
「気が短いよね。」
「だな。」
「それじゃない!!!」
至極まっとうなツッコミである。そろそろスキルになるかもしれない。
その間にも、ウィルヘルムは攻撃を仕掛けてくる。
「死ね。」
「なっ!?速っ・・・」
「【物理防・・・】」
迫る剣を、咄嗟にレヴァンティンで受け止めようと構える夏樹。
シャロンが防御魔法をかけようとするも間に合わない。
ウィルヘルムの剣が夏樹の右腕に届こうとした、その時
ガキイィィィーーーーーーーン
「「「・・・は?」」」
「何い!?」
「よっしゃ掛かった!!!」
ミストの罠が発動した。
今のウィルヘルムは、浮かび上がった小型魔法陣から出る魔力の紐で拘束された状態だ。
敵の身動きが取れなくなったのを認識して、驚きながらも反射的に間合いを取る夏樹。と、
ーーーヴゥ・・・ン
「!?」
「シャロン、フレイア、全方向の物理防壁を!」
着地した足元に小型魔法陣が浮かび上がり、そして
ブフォアァァァ
黄色く細かい粉が部屋中に溢れた。【毒蛾の舞】である。
ミストの指示によりシャロンとフレイアは咄嗟に防御魔法を展開したが、夏樹とウィルヘルム、更にミスト、アガンの4人はそのまま巻き込まれる。
「何やってくれてんのミストちゃん!?」
「べつにいいじゃん。巻き込まれても効かないんだし。」
「気持ち!気持ちの問題!!!」
「おい勇者様!隙ができてんだからさっさと倒しちまえ!」
「あああもうヤケだコンチクショオォォ!!!」
夏樹は涙目でウィルヘルムと戦い始めた。魔王とオカンはお膳立てに余念がない。
その後も罠は発動し続けた。夏樹が踏み込めば毒の霧が撒き散らされ、ウィルヘルムが夏樹の首を切り落とそうとすれば足元から槍が突き出される。床を踏まなければいいと思いついたウィルヘルムが翼で軽く浮いた状態になるも、いつの間にやら天井から吊り下げられていた【捕縛】に捕まったり・・・・・
「はぁ、はぁ・・・くっ!このような卑怯な手を使いおって!」
「いやなんかホントすんません!!!」
そんなこんなで、ウィルヘルムだけが満身創痍になっていた。
『もう罠が残ってない・・・。こっからは勇者とあの元聖騎士の悪魔の真剣勝負だよ。』
『ストックは?』
『無い。』
設置した罠が全て発動しきったのを小声で話すミスト。と、
「ク、ククククク!ハハハ!聞いた!聞いたぞ!もう罠は無いようだな!悪魔の聴力をなめるなよ!」
流石に高位の魔物らしく、その会話を聞き取ったウィルヘルムが一直線に夏樹へと向かう。正に全身全霊の攻撃が繰り出されんとした、その時ーーー
「え、それ何てフラ・・・」
カチッ
ヴゥ・・・ン
「・・・は?」
ッドオォォォォォォォン!!!
「「「・・・・・。」」」
「え・・・あ・・・わ、私の・・・私の翼があぁぁぁ!?」
最後の1つは攻撃魔法であったらしく、発動までに魔法陣から抜け出すのが遅れた翼と尾が吹き飛んだ。
「うん、まあ、そうなるよな・・・。」
「翼が・・・、!?、尾まで!?」
尻尾を切られると動きが悪くなる生き物は多い。床であたふたする悪魔を見て、夏樹は
「すまん、見てられない・・・もう、終わりにしよう。」
ザシュッ
こうして(偽)魔王が討伐され、リリム復活は阻止された。
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