外見は冷徹、内心は尊死!? ギャップ全開の侯爵夫人、ざまぁも愛も母印です!

蒼月柚希

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断罪と未来!――母は見届ける

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 ――朝霞の王都。――

 私は侯爵邸の執務室にて、静かに<母の愛の水鏡>を覗いていた。
 鏡の向こうでは、王城の大広間――。

 玉座の前には、麗しの私の旦那様、氷結の宰相レオン・ベルシュタインの姿がある。

 黒の正装に、銀糸の紋章が煌く。
 あの冷静な眼差し。
 どれほどの重責を背負っていても、微動だにしない背筋。

(……やっぱり、世界で一番素敵ですわね、私の旦那様。)

 そう呟きかけて、私は慌てて頬を押さえた。
 冷静に。冷静に。今は恋する乙女ではなく、侯爵夫人。
 彼の右腕として、この国の安寧を陰で支える立場なのだから。

 水鏡の傍らでは、ルンルンたちがブゥン(任せときな姐さん!)と羽音を響かせている。
 百体以上の働き蜂が、王城の各所に潜伏し、音もなく情報を届けてくる。

「さて、皆。記録と中継、抜かりなくお願いね。」

「ブゥン!(任せな!)」

 頼もしい返事が響く。
 私は微笑み、水鏡の映像に視線を戻した。

「――第二王子リュシエル・ディルハルト。及びマリアナ伯爵令嬢。これより、侯爵家襲撃および虚偽断罪に関する尋問を行う。」

 国王陛下の声が響く。
 会場に緊張が走った。

 映像の中で、王子と妹は顔を青ざめさせている。
 その背後には、彼らの両親である伯爵夫妻。

(あらあら。自業自得というものですわね……。)

 私は紅茶を一口すする。
 香ばしい茶葉の香りが、少しだけ張り詰めた心を和らげた。

 王の隣に立つ旦那様が、一歩前へ進み出る。
 鋭い刃物のような研ぎ澄まされた声が、広間を満たした。

「陛下。まずはこちらをご覧ください。」

 旦那様が掲げたのは、私がルンルンを通じて届けた魔道結晶。
 その光が水晶球のように浮かび上がり、会場中央に映像を投影する。

 そこに映るのは、舞踏会での真実。
 ド派手な妹が自ら裾を踏み、転げ落ち、姉を陥れる瞬間。
 そして、息子――ファザードが令嬢を抱き上げて逃げ出す場面。

 それだけではない。
 エリーゼ嬢が、今までどれだけ家族に虐げられてきたのか、
 そして使用人たちをどれだけ助けてきたのかという証言が、次々と語られる。

 城に勤める者たちからも。
 彼女がいかに優秀であり、どれだけ王子のわがままに振り回されていたかが証言された。

「ま、まさか……!」

「これは捏造だっ!」

 王子と伯爵夫妻の叫びが響く。

(ええ、いつもの台詞ですわね。でも残念。
 これはあなた方の“生中継”付き証拠映像ですのよ。)

 私は小声でつぶやき、ルンルンに合図を送る。
 即座に次の結晶が起動し、刺客たちの証言映像が連続で投影された。

『第二王子殿下の命令でした。』

『報酬はマリアナ様の従者経由で……!』

『伯爵夫妻が、報酬は城から出るからと……!』

 次々と白状する刺客たち。
 彼らはすがすがしいほどに、晴れやかな顔で証言している。
 中には、日に日に顔色がよくなり、肥えてきた者さえも……。

 旦那様は、ただ一言も発さず、静かにその映像を見守っていた。
 そして、すべてが終わった瞬間――。

「……これが事実です。」

 氷の刃のような静かな、そして鋭い声。
 広間の温度が、一瞬で氷点下となる。

「国家の名を騙り、罪なき者を貶め、我が家を襲撃した――。
 その罪、万死に値する。」

 王子と妹が震え、伯爵夫妻が膝をついた。

 国王はゆっくりと立ち上がり、重々しく言い渡す。

「第二王子リュシエル、及びその協力者マリアナ伯爵令嬢並びに伯爵夫妻。
 王家の名を汚した罪により、すべての爵位を剥奪し、領地を没収する。」

 その瞬間。
 水鏡の端で、ファザードが静かに安堵の息を吐き、
 エリーゼ嬢が小さく礼をした。

(……よく頑張りましたわね、お二人とも。)

 よく見れば、二人はお互いの手を強く握りしめている。
 そして自然と顔を見つめ合い、にっこりと微笑んだ。

(う、初々しいですわ。ずっとそのままでいてくださいまし~~!!)

 これが世に言う、“尊死とうとし”なのか……。

 私は鏡の前で、そっと胸に手を当てた。

(……終わりましたわね、旦那様。)

 水鏡の中で、旦那様は静かに玉座へ向かって頭を下げる。
 そして、退廷する前に――
 ふと、ほんの一瞬だけこちらに視線を送って……いる?!

 そして、茶目っ気たっぷりにウインクをし、声を出さず口だけ動かすと、
 また前を向いて静かに立ち去っていった。

(唇の動き……。え?“ア・イ・シ・テ・ル”って、旦那様~~~!!もうもうもう~~~!!)

 彼の、妻に対するねぎらいの言葉。
 そう、彼はすべて分かっている。

 自分の背後に誰が立ち、どんな想いで支えているのか。
 それでも私が表に出ることを望まないことも、
 彼は尊重してくださる。

 ――だから、私は影でいい。

 すべてが終わり、夜。
 私は静かに水鏡を閉じ、ルンルンたちを労った。

「皆、よく働いてくれましたわ。これで、エリーゼ嬢の名誉も守られました。」

「ブゥン♪(お仕事完了でいっ!)」

 可愛い羽音が、部屋に響く。
 私はふっと笑みを浮かべた。

 そんなとき、背後の扉が静かに開く。

「……やはり、ここにいましたね。」

 低く柔らかな声。
 振り向けば、レオンが立っていた。

「旦那様……お疲れさまでした。」

「……すべて、あなたのおかげですよ。ありがとう。」

 そう言って、彼は静かに私の手を取り、唇を落とす。

「公の場では申し上げられませんでしたが――
 あなたの支えあってこそ、私は宰相でいられるのです。」

 その言葉に、胸が熱くなった。

「……そんなこと、ありませんわ。
 私はただ、あなたと息子を見守っているだけですもの。」

「それが、何よりも強い支えです。」

 彼はそう囁き、そっと私を抱き寄せた。

「本日は、少々疲れました。
 ひとつ、ご褒美を頂いてもよろしいでしょうか。」

「え?」

「この後の時間を、すべて私にお預けくださいませ。」

 そう言うと旦那様は、私の唇に優しく自分のを重ねた。

 窓の外では、満月がきらめいている。
 ルンルンたちは静かに羽音を響かせ、
 水鏡の上に、温かな光の輪を描いた。

(今日も、我が家は平和ですわね。)

 私は彼の胸の中で、そっと微笑んだ。

氷の宰相と、その影を支える妻――静かな夜に、満月だけが見守っていた。
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