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呪いが解けた翌朝の次の日。公爵様の災難はまだ続きます。
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謁見の間を後にした一行は、皇城奥の応接室へと通された。
重厚な扉が閉まるや否や――空気が、さらに重くなる。
そこにいるのは、ターニャ王女とその執事(悪魔)、皇帝夫妻、宰相、騎士団長、そして――項垂れるように立つ、公爵。
ターニャとその執事以外は、疲れ切った様子でソファに腰を下ろした。
「さて、」
にこやかな声で、皇帝が口を開く。
「さて。ここからが“逃げ場のない話”だな、コンラッドよ。」
「え?」
笑顔なのに、恐怖しか感じない。
それから後の“間”が、さらにそれを引き立てた。
「なぜなのです!!」
皇妃の声が、応接室に響き渡った。
「私たちという“これ以上ない見本”が目の前にいるというのに!!」
「そうだ! 私たちという最高の見本があるのに、何をどうしたら、あそこまで拗らせるのだ!!」
皇帝夫妻、ぴったり肩を寄せ合い、頭までくっつけながら説教を開始する。
「幼少期から共に育ち、信頼を重ね、互いを想い合い――」
「愛とは積み重ねだと、日々その背中を見せてきたはずだ!!」
発する言葉にまで連携を組み、おまけに仲良く手まで握りしめている。
「それを!!」
「“愛さない宣言”とは何事だ!!!」
「私たちの愛が、足りなかったのかしら?」
「なら、もっと見せつけてやらないといけないね?」
「もう、エドったら……!(はーと)」
「フィアこそ……(はーと)」
――やめろ。今この場でそれをやるな。
俺は今、死刑台の前に立っている。
「兄上達のその姿が、見るに堪えないからでしょう……。」
公爵は小さく呟き、うつむいたまま拳を震わせた。
いちゃつきながらの説教という、精神攻撃力の高すぎる光景に、宰相と騎士団長は視線を逸らす。
「また始まったな……このバカッ…………」
「原因の一端は、ここかもしれませ…………」
二人が小声で言い合う一方。
ターニャは腕を組み、冷ややかな目で公爵を見据えていた。
「感情論はそこまでじゃ。次は“事実”の話をするぞえ。」
ぴたり、と空気が締まる。
「本来――」
ターニャの声が低くなる。
「最初に呪いの生け贄となるはずだったのは、“妹”――侯爵家の方じゃった。」
公爵の瞳が、大きく揺れた。
「……なに?」
何であんな品位の欠片もない女と……。
思わず皇帝に視線を送るも、兄は分からないと言わんばかりに首をコテンと傾けた。
その姿を見た皇妃は、『かわいい!』といって、皇帝の頭をよしよしとなで始めた。
皇帝は幸せそうに、皇妃に頭を差し出してとてもうれしそうにしている。
見た目は弟にも引けを取らない、夕日のように綺麗な赤毛に金眼のイケメンだというのに……。
「そこ、少し自重せい!」
ターニャの一言で、皇帝夫妻はお互い顔を見合わせると。
「かしこまりました。」
「分かりましたわ。」
と、軽やかな返事を返し、穏やかな笑みを浮かべた。
そんな二人をターニャはチラリと見た後、深いため息をこぼす。
「呪いには条件があるのです。」
そんなターニャに構うことなく、執事が言葉を継ぐ。
「“醜い魂”でなければ、呪いは成立しないのです。」
ターニャは頷いた。
「初代皇帝カナタの所業を深く反省した皇族はのう、賢くなったのじゃ。」
「賢い者は、愚かな選択をしませんからね。」
残念そうに、悪魔がつぶやく。
「よって――」
ターニャの口元が、皮肉に歪む。
「皇族そのものを、呪い殺すことができなくなったのじゃ。」
沈黙。
「だからですね?」
悪魔が、楽しげに微笑んだ。
「“獲物”を外から引き入れる必要があったんですよ。あえて皇族に近づけ、欲と虚栄と嫉妬で魂を腐らせ――」
クククッと楽しそうな声を漏らしながら、悪魔は話を続ける。
「呪いが成立したところで、回収するんです。」
「つまり」
宰相が喉を鳴らした。
「これまでの“事故死”や“不幸”は……」
顔色を無くした宰相が続けた。
「全部、私の選別です!」
悪魔は、何の悪びれもなく楽しそうに答えた。
「極上の悪意は、熟成が肝要ですから~。」
艶めかしい笑み。
だというのに、湧くのは恐怖だけだった。
「……だが。」
ターニャの声が、少しだけ険しくなる。
「今回だけは、想定外じゃった。」
ちらりと、公爵を見る。
「なぜか“姉”が、ターゲットになってしもうた。」
「本来、あの娘は“贄”になる魂ではなかったのです。」
悪魔は眉をひそめた。
「正直に言えば、不満です。彼女に触れたら……私、たぶん消されます。」
忌々しげに告げる悪魔に、公爵は息を呑む。
「あえてユリアーナが選ばれたのは、『もう許してやってもよいのでは?』という神のお慈悲か……もしくは」
「もしくは?」
一同が固唾を呑んで見守る。
数秒後、ターニャが真剣に悩みながら言った。
「……わらわが、呪いという遊戯に、飽きてしまったからかのう?」
その瞬間、一同の気力がふっと抜けた。
「……それなのに」
ターニャはゆっくり告げる。
「そなたは、その娘を傷つけた!」
公爵の体が、びくりと跳ねる。
沈黙が重く落ちた。
「よって、裁定じゃ!」
ターニャははっきり言い放つ。
「コンラッド。こなたには――ユリアーナを“探す権限”を、五年間封印する。もちろん国を挙げてもじゃぞ、皇帝よ!」
「なっ……」
「接触、探索、干渉、すべて禁止じゃ!」
反射的に声を上げかけた公爵だったが、皇帝の鋭い視線に言葉を飲み込んだ。
「異論は認めぬぞ。よいな?」
「……」
何も言い返せない。
「そして」
悪魔が、ふっと楽しそうに言う。
「私とターニャ様は、この世界に残ります。五年間。あなた方を“経過観察”という名目でね。」
ウインクまでして、茶目っ気たっぷりに言う。
だが、それに反応する者はいなかった。
ターニャも、にやりと笑った。
「そなたが何を学ぶか――ユリアーナがどんな未来を選ぶか――全部、見届けてやろうではないか!」
声たかだかに居座り宣言をするターニャと、それに恭しく従う、考えの読めない執事。
応接室にいた全員が感じていた。
はたして。
これから始まる五年間、平和に暮らせるのか――と。
公爵は握りこぶしを震わせたまま、従うことしかできない今の自分に失望していた。
そして――。
取り返しの付かないことをしてしまった、自分に対して。
重厚な扉が閉まるや否や――空気が、さらに重くなる。
そこにいるのは、ターニャ王女とその執事(悪魔)、皇帝夫妻、宰相、騎士団長、そして――項垂れるように立つ、公爵。
ターニャとその執事以外は、疲れ切った様子でソファに腰を下ろした。
「さて、」
にこやかな声で、皇帝が口を開く。
「さて。ここからが“逃げ場のない話”だな、コンラッドよ。」
「え?」
笑顔なのに、恐怖しか感じない。
それから後の“間”が、さらにそれを引き立てた。
「なぜなのです!!」
皇妃の声が、応接室に響き渡った。
「私たちという“これ以上ない見本”が目の前にいるというのに!!」
「そうだ! 私たちという最高の見本があるのに、何をどうしたら、あそこまで拗らせるのだ!!」
皇帝夫妻、ぴったり肩を寄せ合い、頭までくっつけながら説教を開始する。
「幼少期から共に育ち、信頼を重ね、互いを想い合い――」
「愛とは積み重ねだと、日々その背中を見せてきたはずだ!!」
発する言葉にまで連携を組み、おまけに仲良く手まで握りしめている。
「それを!!」
「“愛さない宣言”とは何事だ!!!」
「私たちの愛が、足りなかったのかしら?」
「なら、もっと見せつけてやらないといけないね?」
「もう、エドったら……!(はーと)」
「フィアこそ……(はーと)」
――やめろ。今この場でそれをやるな。
俺は今、死刑台の前に立っている。
「兄上達のその姿が、見るに堪えないからでしょう……。」
公爵は小さく呟き、うつむいたまま拳を震わせた。
いちゃつきながらの説教という、精神攻撃力の高すぎる光景に、宰相と騎士団長は視線を逸らす。
「また始まったな……このバカッ…………」
「原因の一端は、ここかもしれませ…………」
二人が小声で言い合う一方。
ターニャは腕を組み、冷ややかな目で公爵を見据えていた。
「感情論はそこまでじゃ。次は“事実”の話をするぞえ。」
ぴたり、と空気が締まる。
「本来――」
ターニャの声が低くなる。
「最初に呪いの生け贄となるはずだったのは、“妹”――侯爵家の方じゃった。」
公爵の瞳が、大きく揺れた。
「……なに?」
何であんな品位の欠片もない女と……。
思わず皇帝に視線を送るも、兄は分からないと言わんばかりに首をコテンと傾けた。
その姿を見た皇妃は、『かわいい!』といって、皇帝の頭をよしよしとなで始めた。
皇帝は幸せそうに、皇妃に頭を差し出してとてもうれしそうにしている。
見た目は弟にも引けを取らない、夕日のように綺麗な赤毛に金眼のイケメンだというのに……。
「そこ、少し自重せい!」
ターニャの一言で、皇帝夫妻はお互い顔を見合わせると。
「かしこまりました。」
「分かりましたわ。」
と、軽やかな返事を返し、穏やかな笑みを浮かべた。
そんな二人をターニャはチラリと見た後、深いため息をこぼす。
「呪いには条件があるのです。」
そんなターニャに構うことなく、執事が言葉を継ぐ。
「“醜い魂”でなければ、呪いは成立しないのです。」
ターニャは頷いた。
「初代皇帝カナタの所業を深く反省した皇族はのう、賢くなったのじゃ。」
「賢い者は、愚かな選択をしませんからね。」
残念そうに、悪魔がつぶやく。
「よって――」
ターニャの口元が、皮肉に歪む。
「皇族そのものを、呪い殺すことができなくなったのじゃ。」
沈黙。
「だからですね?」
悪魔が、楽しげに微笑んだ。
「“獲物”を外から引き入れる必要があったんですよ。あえて皇族に近づけ、欲と虚栄と嫉妬で魂を腐らせ――」
クククッと楽しそうな声を漏らしながら、悪魔は話を続ける。
「呪いが成立したところで、回収するんです。」
「つまり」
宰相が喉を鳴らした。
「これまでの“事故死”や“不幸”は……」
顔色を無くした宰相が続けた。
「全部、私の選別です!」
悪魔は、何の悪びれもなく楽しそうに答えた。
「極上の悪意は、熟成が肝要ですから~。」
艶めかしい笑み。
だというのに、湧くのは恐怖だけだった。
「……だが。」
ターニャの声が、少しだけ険しくなる。
「今回だけは、想定外じゃった。」
ちらりと、公爵を見る。
「なぜか“姉”が、ターゲットになってしもうた。」
「本来、あの娘は“贄”になる魂ではなかったのです。」
悪魔は眉をひそめた。
「正直に言えば、不満です。彼女に触れたら……私、たぶん消されます。」
忌々しげに告げる悪魔に、公爵は息を呑む。
「あえてユリアーナが選ばれたのは、『もう許してやってもよいのでは?』という神のお慈悲か……もしくは」
「もしくは?」
一同が固唾を呑んで見守る。
数秒後、ターニャが真剣に悩みながら言った。
「……わらわが、呪いという遊戯に、飽きてしまったからかのう?」
その瞬間、一同の気力がふっと抜けた。
「……それなのに」
ターニャはゆっくり告げる。
「そなたは、その娘を傷つけた!」
公爵の体が、びくりと跳ねる。
沈黙が重く落ちた。
「よって、裁定じゃ!」
ターニャははっきり言い放つ。
「コンラッド。こなたには――ユリアーナを“探す権限”を、五年間封印する。もちろん国を挙げてもじゃぞ、皇帝よ!」
「なっ……」
「接触、探索、干渉、すべて禁止じゃ!」
反射的に声を上げかけた公爵だったが、皇帝の鋭い視線に言葉を飲み込んだ。
「異論は認めぬぞ。よいな?」
「……」
何も言い返せない。
「そして」
悪魔が、ふっと楽しそうに言う。
「私とターニャ様は、この世界に残ります。五年間。あなた方を“経過観察”という名目でね。」
ウインクまでして、茶目っ気たっぷりに言う。
だが、それに反応する者はいなかった。
ターニャも、にやりと笑った。
「そなたが何を学ぶか――ユリアーナがどんな未来を選ぶか――全部、見届けてやろうではないか!」
声たかだかに居座り宣言をするターニャと、それに恭しく従う、考えの読めない執事。
応接室にいた全員が感じていた。
はたして。
これから始まる五年間、平和に暮らせるのか――と。
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