ギガシス スリー

ミロrice

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「へえー、趣味は食べることですか。いいですねー」
「いやあ、おかげでこんな体になっちゃってね」
 宗介と紗和は意気投合していた。
 遊歩道のベンチに座って話しこんでいる。
「あら、貫禄があって素敵ですよ」
「そ、そうかい?」
「ええ! それに、気にするほどじゃないですよ。ちょいぽちゃくらいです」
「そうかな? そんなことを言われたのは初めてだよ」
「それに気持ちよさそう。抱きつきたいくらい」
「えっ⁉︎」
「や、やだ。あたしったら、なに言ってんだろ」
「こ、こら、大人をからかったりなんかして」
「か、からかってなんかいません!」
「それはそれで困るかな」
「うふふ。ねえ、宗介さん」
「なんだい、紗和ちゃん」
「あの、今度食事に連れていってくれませんか?」
「ええっ?」
「あ、もちろん自分で払います!」
「いやいや、食事くらい僕がおごるさ」
「ホントですか⁉︎ やったあ!」
〝えへん〟
〝おほん〟
「あっ」
「おりょ?」
〝君たちがそんな話をしているうちに、怪獣は太平洋に放り出されたようだ〟
 ふたりの宇宙人の言葉は、宗介と紗和には聞こえる状態だ。
「退治されたの?」
〝いや、海に放り投げただけみたい〟
「ああ、手伝いに行った方がよかったですかね?」
「じゃあそう言ってくれればいいのに」
 紗和は頬を膨らませた。
──可愛いなあ、紗和ちゃんは。
〝まあ今回は退しりぞけただけでもよしとしよう。君たちにはまだ我々の能力をすべて説明してないからね〟
〝でも、怪獣は必ず戻ってくる。それまでに準備を整えよう〟
「ねえ、宇宙人に名前付けない?」
 紗和が、ぽんと手を打った。
〝……君は我々の話を聞いていたかい?〟
「聞いてたよお。また怪獣が戻ってくるって。それで色々説明してくれるんでしょ? その時に名前がなかったら不便じゃない」
〝そうなのか?〟
〝どうだろう〟
〝まあ、人間が言うんだからそうなのだろうな〟
「ところで君たちにはもともとの名前ってあるのか?」
〝ええ、あるけど、あなたたちには聞き取れないし、発音できない〟
「じゃあ僕らが付けてもいいんだね?」
〝いいとも〟
「じゃあ、僕の宇宙人は、僕の苗字から取って、シャークっていうのはどうだろう?」
「すごい! さすが宗介さんですねぇ、センスあるぅ! 素敵!」
「そ、そうかい?」
 宗介は頭を掻いた。
「じゃああたしも苗字から取ってー、ピンク!」
「なるほど! てっきりワンハンドレッドってつけるかと思ったけど、やっぱり若い人は頭が柔らかいなあ!」
「えへへー、そうですかあ?」
〝モモだとピーチではないかね?〟
「桃色のピンクなの!」
〝なるほど〟
「じゃああなたたちは、シャークとピンクに決定!」
〝心得た〟
〝了解〟
「もうひとりは黒かったからブラックでいいかな」
〝わかった。安直だがそう決まったと伝えておこう〟
 こうして宇宙人に名前がついた。

  ☆ ☆ ☆

 一方、その頃。
 九十九里浜の砂浜に、煌が打ち上げられていた。
 びしょ濡れのスーツ姿だ。
「う、うう……」
〝目を覚ましたかい?〟
──お前がここまで運んでくれたのか?
〝ああ。しかしこれでホントにエネルギーは空っぽだ。私は少し休ませてもらうよ──〟
──ああ、ありがとう。
 返事はなかった。
 煌は上半身を起こした。
「どこだ、ここ?」
 煌は濡れた砂に座ったまま、あたりを見回した。
 長い砂浜に波が打ち寄せている。
 どことなく、見覚えがあった。
 立ち上がって、再びあたりを見回した。
「九十九里、か」
 学生の頃に、何度か遊びに来たことがある。
「やれやれ、どうやって帰れっていうんだよ」
 煌はひとりぼやくと、内陸側に見える緑に向かって、春の砂浜を歩きはじめた。
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