ギガシス スリー

ミロrice

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「首相! 巨人が怪獣と闘ってます!」
 巨人が現れてからどこかぼんやりとしていた首相は、その声に顔を上げた。
 画面では黒い巨人が怪獣に押されて足が滑っている。
 その光景に、首相の瞳に光が宿った。
「どうしたんだ? どうしてこうなった?」
「わかりません。ずっと睨みあいをしていたんですが、巨人がヘンテコな構えをして、闘いが始まりました!」
「初撃はチョップです!」
「おおっ!」
 と首相が声を上げたところで、巨人が宙を舞った。
「ああっ!」
 上下逆さまになって、背中からビルに叩きつけられる。
「うっ!」
 首相はビルが粉々になったと思い、呻き声を上げた。
 また何人かが犠牲になったかもと、首相の胸は痛んだ。
 が、巨人は激しくぶつかったものの、ビルは壊れなかった。
 巨人は頭から地面に落ちる。
「ど、どういうことだ?」
「わ、わかりません。しかし、ある時から建物は壊れなくなったようです」
「むむ。えーと、君、額田くんだったな。なにか考えはあるか?」
 額田は厳しい顔で画面を見つめていたが、首相に顔を向けた。
「憶測の域を出ませんが、おそらく、あの地域一体の時間が止まっていますね」
「時間が止まる? 巨人と怪獣は動いているじゃないか?」
「時間を止める対象を選択できるのでしょう」
「なるほど」
 首相は唸った。
「でも、どうして怪獣の時間を止めないんだ?」
 環境大臣が言った。
「倒せないからです」
「ううむ」
「つまり君は、あの巨人が建物が壊れないように怪獣を倒そうとしていると言うんだな?」
「そうなりますね。しかし──」
「なんだね?」
「時間を止めるには、おそらく膨大なエネルギーを使うでしょう。長くは保ちませんよ」
「ど、どれくらいだ?」
「おそらく──五分」
 会議室がざわめいた。
「五分? たった?」
「五分で怪獣を倒せるのか?」
「もし倒せなかったら?」
「じ、自衛隊はなにをしているんだ⁉︎」
 首相が叫んだ。
「首相が効かないんだったら撃つなと」
「あの巨人は我々の味方だ! 援護するんだ!」
「はっ、ただちに」
 防衛大臣がうなずいた。

  ☆ ☆ ☆

「うぐっ」
 頭から地面に落ちた煌が呻いた。
〝大丈夫か?〟
 あまり心配していなさそうな声で、宇宙人が言った。
──ああ、この体はめちゃ頑丈だ。少々痛かったがダメージはない。
〝ならば闘いたまえ〟
──ああ!
 煌は地面を転がると、素早く立ち上がった。
 素早く怪獣に詰め寄り、左右のチョップを乱れ打ちに叩き込む。
──もう遠慮はしないぜ!
 膝蹴りを怪獣の顎に当てると、怪獣が怯んだ。
 前蹴りを鼻に入れ、煌は脇に怪獣の首を抱え込んだ。
 怪獣の首は太く、巨人の腕をしても締め付けられない。
──ならば!
 煌は怪獣の前足を足払いのように蹴った。
 怪獣が横様に倒れる。
 その背中を煌は蹴りつけた。ちびっ子のことは忘れていた。
 何度か蹴りつけると、なにかが飛んできて怪獣の体表で爆発した。
「うおっ⁉︎」
「ダッ」
──なんだ⁉︎
 顔を上げた煌の数十メートル上を、戦闘機がものすごいスピードで飛んでいった。
──自衛隊か⁉︎
〝日本国の軍隊だね〟
──軍隊じゃないぞ。
 次々にミサイルが打ち込まれ、爆発が起こる。
〝なんにしろ邪魔だな〟
──そんな言い方はないだろう。援護してくれてるんだから。
〝効いてないし、君が攻撃できないじゃないか〟
──当たったら痛そうだしな。それに火傷やけどするかも。
 煌は空に向かって大きく両手を振った。
 撃つな、というジェスチャーのつもりだったが、一向に自衛隊戦闘機の攻撃はやまない。
──くそっ、ダメか。
〝煌、もう時間がないぞ〟
──どうすりゃいいんだ。
〝バリアーを解こう〟
──なっ、ダメだ、そんなの。
〝今解けば、もう三分間は闘える〟
──そんなにエネルギーを食うのか……。
〝煌、もう時間がない〟
──くっ、しかし。
〝煌!〟
──わかった! 解け!
 煌がそう言った途端、なんとなくバリアーが解けた気がした。
──周りの建物に被害が及ばないように闘わなければ。しかし、どうすれば──あっ!
 ミサイルの一発が怪獣かられ、ビルに向かって突っ込もうとしているのに煌は気づいた。
 急いで盾になろうとしたが、とても間に合わない。
 と思ったが、煌の体は一瞬でミサイルの射線に移動していた。
──えっ? ぐわあっ!
 煌の背中でミサイルが爆発した。
 痛かったがダメージはない。
 しかし、その反動で、煌の体はビルに倒れかかった。
「ぬううう!」
「デアッ」
 煌の巨大な手が建物に触れる。
 ひびが入った。自分が倒れ込んで、ビルを破壊するわけにはいかない。
 必死にバランスを取り、なんとか倒れず持ちこたえた。
──なんだ、今のは?
〝またエネルギーを使ったな〟
──あと出しはやめろって言っただろう。瞬間移動ができるなら教えてくれよ。
〝色々できることは他にもあるぞ〟
──……ひょっとして、空を飛べる?
〝もちろんだ〟
──なにがもちろんだよ。最初に言え。どうやって飛ぶんだ?
〝飛ぼうと思えばいい〟
──アバウトだな。
 煌がミサイルを受けてから、戦闘機の攻撃は止んでいた。
 煌は怪獣の腕を掴むと、飛べ、と念じた。
 体が浮き上がる。
 多少は煌の攻撃が効いたのか、怪獣の動きは鈍かった。
 高く上がって抱え直し、両手で持ち上げるようにして東に向かった。
〝どこへ行くんだ?〟
──太平洋に落っことす。
〝また戻ってくるぞ〟
──取りあえず、この街を守る。
 煌はすぐに東京湾に出た。
 そのまますごいスピードで飛んでいく。
 自衛隊機は置いてけぼりだ。
〝時間だ〟
 瞬間移動でかなりのエネルギーを使ったのだろう。
 思ったより時間切れは早かった。
──ああ。
 煌の姿は人間に戻った。
 煌と怪獣は落ちていく。
 落下しながら、煌は意識を失った。
〝陸地に戻るまでのエネルギーは残しているよ〟
 宇宙人が、にやりと笑った気がした。
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