大食いパーティー、ガーデンにて奮闘する

時岡継美

文字の大きさ
46 / 75
6皿目 ソバ粉のガレット

(10)

しおりを挟む
「あの自称冒険者も偽物だったってことかしら」
 リリアナが大きな一口でソバパスタを頬張る。
 やはりヨアナの店が一番ソバの風味が際立っていて美味しい。
 
「さあな。首輪の呪いを知らないってことは、少なくとも実際にペット登録したことのない人間だろうな」
 ハリスが苦笑する。
 
 トカゲはともかく、コハクのように毛で覆われている生き物は汚れた時に水やお湯で洗い流すことがあるし、海や川で泳がせることだってある。そういう時もしも知らずによかれと思って首輪を外したらペットが死んでしまう。
 ペット譲渡の際にはこの注意事項を必ず相手に伝えておかねばならない。
 それを仲介役を担っていたブルーノ会長が知らなかったということは、おそらくあの自称冒険者も知らなかったのではないだろうか。
 この推察が当たりか否かは今後の追跡調査を待たなければならないが、これまでこの街で行われていたペット取引はすべて偽物だったに違いない。

「ソバパスタを追加で3人前お願いします!」
 テーブルにガレット各種を運んできた給仕に、リリアナが元気よくおかわりを注文する。
 前回の来店では面食らっていた給仕も、二度目ともなれば余裕の微笑みを返してくれた。

「そもそもドラゴンをペットにできる冒険者なんているのかしらね?」
 服従せざるを得ないほどドラゴンを圧倒できる人間が、あるいはドラゴンが絶大な信頼を寄せる人間がいるんだろうか。
「聞いたことがないな」
 ハリスがソバの実リゾットをスプーンですくって口へ運ぶ。
「もしもわたしがドラゴンをペットにすることがあれば、どんなにお金を積まれたって絶対に手放さないわ」
 リリアナの足元で生肉を食べていたコハクがピョンと膝に乗ってきた。
「もちろんコハクだって、誰にも渡したりしないわよ」
「にゃあっ」
 額を撫でるとコハクが嬉しそうに目を細める。

 ソバの実を衣に使ったチキンカツも絶品だ。
「ブルーノ会長は本当にあのトカゲがドラゴンだと思っていたのかしら」
「審美眼がまったくなさそうだったからな」
 ハリスによれば、リリアナが警備隊を呼びに行っている間ブルーノ会長はずっと、
『騙された! 俺は被害者だ!』
と喚き続けていたというのだから呆れてしまう。

 最後はソバ粉のクッキーとソバ茶でソバのコース料理が締めくくられた。
 合間におかわりを挟みながら、ソバのもちもち、つるつる、プチプチ、サクサク食感を存分に堪能できたリリアナとハリスは大満足している。
 
 そこへ、厨房からヨアナが出てきた。
「いかがでしたか」
「商業区でいろんなソバ料理を食べましたけど、ヨアナさんの作るお料理が一番です!」
 ヨアナがにっこり微笑む。
 そんなヨアナに、どうしても腑に落ちないことを尋ねた。
 ちょうど今なら店内にいる客はリリアナたちだけだ。
 
「ヨアナさんは、ペットが偽物だって知っていたんじゃないですか? ブルーノ会長が逮捕されてもよかったんですか?」
「あの人、子供のころから見栄っ張りなんです」
 ヨアナが眉を八の字して困ったような顔で笑う。
「商談に行ったラシンダの王都で田舎者だと馬鹿にされてからは余計にそれがエスカレートして、騙されて偽物ばっかり掴まされて……。幼馴染の私がなにを言っても聞かないから、どうしようもなかったんです」

 やはりペット取引疑惑をガーデン管理ギルドにタレこんだのはヨアナだったようだ。
 あの倉庫に赤い石がつけられた生き物が隠されているのを偶然見つけたのだろう。元冒険者なら、赤い石を見てペットの違法取引の可能性と、その石がチープな偽物であることにもすぐに気付いたに違いない。
 
 きらびやかなものが富の象徴だとは限らない。この大陸で唯一マルド地方でのみ栽培されるソバの実は、地味で素朴な見た目とは裏腹に豊かで独特な風味を内包し、あらゆる料理に化ける。それを思う存分堪能できることがどれほどの贅沢か、ブルーノ会長にはわからなかったんだろうか。

「でも、会長が逮捕されてしまったら商会はどうなるんでしょう?」
 ペットの違法取引かと思いきや、ただの詐欺事件だった。
 本物のペット取引に比べれば処罰は軽いはずだが、商会の評判がガタ落ちすることは間違いないし、ヘタすれば倒産だ。

「行く当てがなくなったら、うちの店で雇って皿洗いでもやらせようと思っていますから、ご心配なく」
 すっきりした顔で笑うヨアナを見て、リリアナも清々しい気持ちになった。
 ハリスもそれに同調する。
「あの商会の建物を買い取って、店を大きくすればいい」
 するとヨアナがおどけた声で言った。
「あら! じゃあシェフが足りないから、ハリス先生が冒険者を引退したらうちで働いてもらおうかしら!」
「それもいいな」
 ハリスがあごを撫でている。まんざらでもない様子だ。
 そしてちゃっかり、ソバ粉のガレットの水の配合量をヨアナから聞き出して熱心にメモしている様子にクスクス笑うリリアナだった。
 
 
 最短でも一週間はかかるだろうと思っていた潜入捜査は予定より二日早く終わり、リリアナたちはガーデンの街に戻ってきた。
「ただいまー!」
 リリアナが勢いよくドアを開けると部屋の中には、エプロン姿のテオがほうきを持って立っていた。

 テオが顔を赤らめながら慌てて花柄のエプロンを外して丸める。
「なんだよっ、早く帰ってくるならそう言えよ!」
「だから『ただいま』って言ったでしょ。ねえ、なんでエプロン外したの? よく似合ってたわよ」
「うるせー!」

 またいつもの光景が戻った。
 
(6皿目・完食)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...